小さな話でございます。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ふと自分の手を見ると、小さな両手がそこにあった。
周りを見ると、床に散りばめられた金が落ちていた。
カラのダンボール箱がいくつかあったから、何気なく拾っては詰めて拾っては詰めてと繰り返して満タンの箱の出来上がり。
この中が全部オレの物だ。
誰もが欲しがるものが、こんなに。
別に注目してほしいわけじゃなかった。
だけど、床にはまだまだ金が落ちていたから、またカラのダンボールに詰めていく。
満タンになったそれを、1個目の箱の上に積む。
5個くらい積んだところで、身長の限界を感じてきた。
けど、5個目の箱に“6”と書かれた数字を見つけ、自分の体がまた少し大きくなった気がして、箱が積みやすくなった。
どんどん積み上がていくが、誰も見向きもしない。
まだ足りない。
もっとだ。
世界中にも見えるくらい高くしなければ。
10個目の箱を積み上げたところで、今度は“7”と書かれた数字を見つけた。
心なしかまた一回り自分の体が大きくなった気がする。
もっともっと、箱を高くしていけば、自分も大きくなるのではないか。
期待を胸に抱いて何度も何度も箱を積み上げていく。
それからも“8”、“9”、“10”…とたまに数字を見かけてはどんどん大きくなる身体。
鳥が横を通過したのを横目に見て、100個目の箱を積み上げようと梯子をのぼっている途中、野次馬共が箱の周りに集まってきたのが見えた。
ここから見下ろせばアリのようだ。
100個目の箱を積み上げ、“15”の数字を見かけて口角を上げる。
箱の上にのると、まるで王様になったような気分だ。
ふと自分の手を見ると、大きな手がそこにあった。
ますます優越感に浸る。
オレは箱の上に立ち、見上げている愚民どもに言ってやる。
「お集まりの愚民ども。これはオレの金だ。てめーらの慰めなんて受けねえくらいたくさん持ってるぞ!!」
愚民の中の金髪のあいつが、オレを見上げて睨みつけてくる。
まだまだ足りない。
もっと積み上げてオレを認めさせてやる。
オレは特別なんだ。
だから独りでここまできたんだ。
数字はなかなか見かけなくなってきたが、それでもオレは雲まで届くくらいに梯子を使いながら積み上げていく。
300個目で“16”、500個目で“17”の数字を見かけ、一度そこに胡坐をかいて座ってみる。
王様どころか、神様になった気分だ。
またしばらく数字を見かけなくなって、もう野次馬の声も聞こえないくらいのところまで来た。
そして1000個目積み上げたところで、“18”の数字を見つけた。
箱の上からどんな景色か眺めようとしたら、高すぎて眩暈がした。
よろけた拍子に梯子に手が当たってしまい、梯子を落としてしまう。
神様を越そうとした罰か。
しばらく茫然としていたら、急に虚しくなってきた。
一体オレはどうしてこんなに夢中で積み上げてきたんだっけ。
「!?」
途方に暮れていると、いきなり景色が下がった。
それから徐々に下へ下へと下がっていく。
何事かと見下ろすと、金髪のあいつが仲間と協力しながらダンボールを下から蹴飛ばしていた。
箱の中身は蹴飛ばされるたび中を飛散させるが、それには見向きもせずただただ蹴って蹴ってダルマ落としのように蹴飛ばしていく。
あいつがこっちを見てオレを指さした。
「みんなてめぇと話してえんだ! 同じ高さまで降りてこい!!」
他の連中も散らばる金には目もくれずオレを見上げている。
オレはダンボールから落ちないようにしがみついて下がっていく。
一度見た景色なのに滲んで見えた。
「うわっ!!」
とうとう箱が全部崩れ、連中に向かってオレは落ちていく。
ガタンッ!
「…あれ?」
気が付くと、教室の天井を見上げていた。
居眠りしてしまった挙句、椅子から落ちたようだ。
その拍子にサングラスが取れてしまう。
「姫ちゃん?」
「おい」
「大丈夫っスか?」
「頭打ったんじゃねーの?」
「寝てるからでしょ」
クラスメイトが何事かと集まってくる。
その中の一人がオレの落ちたサングラスを拾い上げ、意地悪く笑った。
「どちら様だよ」
わざとらしい。
サングラスを拾った神崎はオレの目にかけてくれて、手を差し出した。
オレも笑い、夢の続きのようにその手をとって起き上がった。
.