リクエスト:とあるボス猫の幸せ。
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「みゃっ」
生まれて2ヶ月も経っていない子猫にとって、野良の世界は過酷だった。
エサを与えてもくれる、エサの獲り方を教えてくれる相手はいない。
食っていくためならなんだってやった。
よその猫から横取りしたり、ゴミを漁ったり、店の売り物に手をつけたり。
たまに、気紛れでエサをくれる人間もいた。
雨の降るある日、空腹のあまり夢中でネズミを追いかけていたのがいけなかった。
「みぎゃっ!」
ネズミを捕まえようと路地から歩道に飛び出した瞬間、横から自転車にはねられてしまった。
自転車の持ち主は一度止まったが、オレを見ただけで逃げるようにそこから去っていった。
「みぃ…」
頬を切ったのもその時だ。
右脚にもケガを負ってしまい、よたよたと歩きながら、とりあえずどこかで雨を凌ごうと、近くの、穴の空いた塀を通り抜けて広い庭に侵入し、大きくて古風な家を見上げた。
「みっ」
砂利に足をとられ、その場に転んだ。
入る場所を間違えたかと思ったが、後戻りする元気もなければ、立ち上がる元気さえなかった。
ああこのまま死ぬのかな、やっぱり子猫一匹で生きてこうなんて甘かったな、と諦めかけたとき、
「……ネコだ」
縁側に、柄の悪そうな男が現れた。
*****
はじめとたつやとともに姫川を迎えに行くのは久しぶりな気がする。
姫川が住んでいる家を囲む植物の垣根を越え、小さな庭に侵入した。
2階の窓を見上げるが、そこには姫川の姿はない。
この時間帯は日向ぼっこのために窓際にいるはずなのに。
この天気じゃ、日向ぼっこもできないか。
「姫川ーっ」
「親父ーっ」
「おーやじー」
窓に向かって呼んでみるが、姫川が窓から顔を出す気配はない。
いつもならひょっこりと出てくるのに。
「……あいつ、どうしたんだ?」
最後に会った日に、オレ、何かあいつの怒らせるようなことをしたっけ。
思い出そうとするが思い当たることが一つもない。
その間にも小さな2匹は窓に向かって姫川を呼び続けている。
そこで、2階の窓ではなく、1階のベランダが開かれた。
「にゃーにゃーにゃーにゃー騒がしいぞ」
「「「!!」」」
姫川の飼い主だろうか、人間でいうならイケメンの類に入る男が寝起きの顔でこちらを軽く睨んでいた。
一つにまとめて肩にかけたその髪の色は、あいつと同じ銀色だ。
人間慣れしていないはじめとたつやはさっとオレの後ろに隠れる。
「…? もしかしてウチの猫の友達か?」
アイツ、とは姫川のことだろう。
オレは「にゃー(そうだ)」と答える。
男は通じたのか、「あー、そうか」と返し、一度振り返って何かを確認してからもう一度こちらに向き直った。
「悪ぃが、アイツは今、風邪引いててな。熱も出して寝たきりになってんだ。だから、具合が良くなったらまた遊んでやってくれ」
「え…」
姫川の容体を教えてくれた男は「そういうことだから」とベランダの窓を閉める。
「…親父、風邪?」
「かぜ、ってなんだ?」
一度も風邪を引いたこともないはじめが不思議そうにたつやに尋ね、たつやは「とりあえず、元気がなくなること」と簡潔に答えた。
オレは身をもって知っている。
そんな口で説明できるものじゃない状態だと。
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