小さな話でございます。
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家で行われたクリスマス会も終わり、神崎は風呂に入って寝間着に着替えたあと、暖房の効いた自室でソファーに寝転がりながらテレビを見ていた。
ふと、ケータイで時刻を確認すると、あと1分で12月25日へと日付が変わるところだ。
頭に浮かぶのは恋人である姫川のことだ。今日の下校時に、気になる言葉を残していたことを思い出す。
「今日はおまえのとこにもサンタが来るかもな」と。
姫川がサンタを信じているはずがないのに、どうしてあのようなバカげた言葉を言い放ったのか。
神崎はテレビを見ながら、少しの間何か変化が起こるのを待っていた。
時計の長針が12時を示した時だ。
「!!」
突然、コンコン、とベランダの窓をノックされた。
ソファーから跳ね起きて窓を見ると、真っ赤なサンタ服の男が立っていた。
「…は!?」
にこやかな顔で立っていたのは、サンタ服を着た蓮井だった。
何かが入ってる袋も持っている。
神崎はベランダを開けて蓮井につっこむ。
「何してんだアンタ。っていうか、どうやってウチのセキュリティーを…」
「メリークリスマスでございます、神崎様」
「お、おう…、メリクリ…」
とりあえず挨拶は返しておく。
「……何しにきたわけ。つか、早く入ってこいよ」
ベランダを開けたことで冷気が部屋の中に侵入し、寒さで身を震わせる。
「いえ、すぐに済みますので。こちら…、プレゼントでございます」
「!」
袋から取り出して渡されたのは、青いリボンに結ばれ、薄い水色の包装紙に包まれた小さな箱だ。
「神崎様のお気に入りのお店から取り寄せたものです。限定モデルのピアスでございます」
「っ!!」
目はつけていたが、高価すぎて手が出せなかったものだ。
限定モデルのうえに、製造数も一桁だけと限られている。
「あいつ…」
姫川に直接ねだったわけでもないし、そもそも口にしたわけでもない。
姫川とともに店の前を通りかかった際、ガラス越しに少しガン見してしまった程度だ。
「…目ざとい奴め…」
しかし、その口元には笑みが浮かんでいた。
「「大事に使わせてもらう」って伝えてくれ」
「申し訳ありませんが、直接お伝えください。これからお会いになるのですから」
「は?」
唐突なことに間の抜けた顔になる。
蓮井は笑顔のまま袋から何かを取り出した。
女性用サンタ服だ。
「…なにそれ」
「サンタ服でございます」
「―――で?」
「ご着用ください」
「着れるか!!!」
蓮井の手からサンタ服を奪い取り、床に叩きつける。
「しかもコレ、センターカラーで邦枝が着てたやつだろ」
スカート、へそだし上着、白ブーツのサンタ服だ。
「サイズは神崎様に合わせてありますので」
「なんでサイズ知ってんの!? いや、っていうか、コレを着る意味がわかりません」
蓮井は視線を上げ、姫川に言われたことを口にする。
「竜也様はおっしゃいました…」
『神崎サンタが欲しい』
「竜也様が具体的に何が欲しいかを口にするのは初めてのことでしたので、この蓮井、なんとしても竜也様が望まれるプレゼントを差し上げたいと…」
「執事と御曹司そろってバカだろ!!! いつか滅びるぞ姫川家!!!」
そこで詳しくプレゼントの内容を聞いた蓮井は、姫川のためにサンタになることを決意したそうな。
神崎にプレゼントを渡すまでが、神崎だけのサンタだ。そのあとは姫川だけのサンタとなる。
「さあ、神崎様」
サンタ服を拾い上げて詰め寄るが、神崎は激しく首を横に振った。
「いやいやいや、誰が「はいそうですか」って着るか!!」
「しかし、神崎様も竜也様へのプレゼントに迷ってらっしゃるのでは?」
こちらも言い当てられてしまう。
なんでも手に入る姫川にあげていいものが思いつかず、ずるずると当日まで何も買えずにいたのだ。
「け、けど、それとこれとは…」
「神崎様、今、竜也様がご所望されているのは神崎様自身なのです。どうか、私からもお願いいたします」
「ぐ…」
深々と頭を下げられてしまう。
こちらはとんでもなく高価な物をプレゼントされているのだ。
考えてもみれば、サンタ服を着て姫川に会うだけでいいのなら、割りに合うのではないか。
「………………………………………………わかった」
未だに頭を下げたままの蓮井の肩を叩いて神崎は承諾した。
「ありがとうございます」
「え…と、着替えればいいんだな?」
「ええ。裏口に車を停めていますのですぐに乗り込んでいただければ」
この時間なら、家の者に見つかる心配もないだろう。
渋々蓮井の手からサンタ服をつかみとった神崎は、寝間着からそれに着替えようと上着を脱ぐ。
躊躇いがちにサンタ服の上着を着ようとしたところで、蓮井からストップがかかった。
「あ、その前にこれを…」
渡されたのは、太く真っ赤なリボンだ。
「あ?」
「このようにお願いします」
蓮井はスケッチブックを取り出し、体の際どいラインをリボンで隠されたデッサンを見せる。
「サンタ服を脱がされた時、マニアックな結びに竜也様も燃え上がるかと…。ああ、ちなみに私の案でございます。ちょっとしたサプライズを…」
淡々と説明する蓮井に恐怖を覚え、神崎は自室から逃走しようとしたが、その前に蓮井にリボンで結ばれて動きを封じられてしまう。
「誰かああああああっ!!!」
その日から、夢を与えてくれるはずのサンタクロースがトラウマとなってしまった。
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