リクエスト:天使はちっちゃくても天使です。
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午前9時頃、手鏡を見た古市は感動する。
「さすが魔界製品! お肌がツルツル!」
「おー、こんな早く効くもんなのか」
古市と並んで、同じく手鏡を見た神崎も小さく感動していた。
不機嫌の源であったにきびが跡形もなくなっている。
そんな相方達を見つめる男鹿と姫川。
「元から古市の肌はスベスベだけどな」
「ヨメ自慢してんじゃねーよ。オレは別に神崎の肌がたとえガサガサだろうがそれひっくるめて好きになれるけどな」
「てめーも言ってんじゃなーか」
「つーか…」
肌とは違う違和感に気付いた姫川は口にする。
「なんか、縮んでねーか? あいつら」
「うーん?」
男鹿と姫川の方が2人より高いためわかりにくい。
姫川は神崎に近づき、「神崎」と声をかけてからいきなり抱きしめた。
「!!?」
「うん、やっぱり抱き心地が…」
「いきなりなにしやがんだコラァ!!」
突然の行動に神崎は腕の中で暴れるが、しっかりホールドされているためビクともしない。
「体調でも悪いのか? 力も弱ぇぞ」
「ふぎぎぎ…っ」
「ぅわっ!?」
「あ、ホントだ。なんか…違う」
後ろから古市に抱き着いた男鹿は、姫川の言う抱き心地の違いに気付く。
「なんだ!? やめろ!! 烈怒帝留の皆さんの前でそんな…っ!!」
「だったら頬赤らめるな」
顔を真っ赤にしながら抵抗する古市に大森がつっこんだ。
クラスメイト達にとって、このバカップルズの光景はもう見慣れてしまったのだが、神崎と古市は未だに全力で照れてしまう。
「キスする高さとか微妙に…」
「ギャ―――ッ!! ここですんな―――っ!!」
どさくさにキスして来ようとする男鹿の顔を古市は両手で押さえつける。
「……………」
この時ヒルダは密かに嫌な予感を覚えた。
そして、午前10時頃、変化は著しく表れる。
「「……あれ?」」
キョトンとする神崎と古市。
仰天している邦枝と大森に手鏡を見せてもらうと、神崎はヒゲを失った自分の顔を、古市は明らかに幼くなった自分の顔を見て目を点にしている。
周りはただ目を大きく見開いて2人を凝視していた。
「こ…れは」
「古市、おまえ声高いぞ」
「神崎先輩こそっ、ヒゲどこやったんですか! …というか、明らかに縮んでますよね、オレ達」
服のサイズも合わず、ベルトでとめているのにも構わずズボンが落ちそうになった。
「あの…ヒルダさん?」
男鹿はヒルダの肩に手を置き、状況の説明を促す。
「…ふむ……」
浮かんだ原因はひとつしかない。
あの化粧水だ。
ヒルダはカバンから取り出し、あらゆる角度から見ると、ある説明を見つける。
「…“肌に合わないもの(たとえば人間)が使うと、1時間ごとに2歳若返ってしまうのでご注意ください”」
「「「「「!!!」」」」」
つまり、1時間前の神崎は16歳、古市は14歳の状態で、現在は、神崎は14歳、古市は12歳まで若返ってしまったことになる。
小学校の算数もまともにできない石矢魔生に姫川がそれを伝えたあと、自分の肩より縮んでしまった神崎の頭を撫でた。
「…中学生の神崎か」
「この一大事に気安く撫でるな人の頭を!」
馴れ馴れしい手を、ペチンッ、と叩き落とす。
「そりゃあ、にきびも肌荒れも治るって」
古市は絶望に両手で顔を覆いながら呟く。
実際に若返っているのだから。
「こうしてみると、可愛げがあるっスね」
「アメ食べる?」
「ちっちぇ…」
化粧水をつける前とは反応が違う。
烈怒帝留の方から近寄り、古市をまじまじと見つめてきた。
「!!」
この美味しい状況に、古市は子どもの利点を発見する。
(あれ、もしかしてチビの方がモテるんじゃ…っ)
「あー…、幸せを感じてるところ悪いけどな、古市」
「はい?」
古市は満面の笑みで姫川に振り返った。
「2歳ずつ若返っていくなら…、16時には赤ん坊になって…、そのあとどうなるかわかってんのか?」
「………はぁっ!!」
16時には0歳になってしまうが、それ以降はどうなってしまうのか。
それ以上下にいかず成長が止まるか、最悪の場合、若返りの果てに消滅してしまうか。
姫川の言葉で我に返った古市は途端に慌てだす。
「そ、そんなっ、ヒルダさん! これ、どうしたら戻るんですか!? あ、ていうか、化粧水なら水で洗い落とせば…」
「“水に強く落ちにくい一級品!”」
ヒルダが宣伝のように小瓶を掲げ、古市はその場に両手と両膝をついた。
「絶望的だ…っ!!」
「待て、一応希望はある。“万が一にも誤って人間に付けてしまった時は、クレンジングで落としてください”とある」
しゃがんで目線を合わせたヒルダは小瓶を見せつけながら解決法を読み上げた。
「じゃあっ、そのクレンジングを…!」
「運が悪かったな。昨日で切らした」
「奇跡に近いバッドタイミング!!!」
「案ずるな。魔界に一度帰れば手に入る」
ヒルダは立ち上がって窓際に近づき、アクババを呼んで飛び乗った。
「早くても夜までには持ってきてやるからおとなしく待っていろ」
「すでに手遅れです!! 遅くても午後4時までにお願いしまーす!!」
果たして窓から叫ぶ古市の懇願をしかと聞き届けたのか、ヒルダは構わずアクババに乗って飛び去ってしまった。
「…おい、命にかかわる問題だぞ。おまえのヨメ、本当に制限時間までに持ってくるんだろうな?」
自分の身の危うさに神崎も焦りが芽生え、男鹿に尋ねる。
「フッ。ヒルダを信用しろ。あいつはああ見えて…、ああなんだ…」
「こっち向けやコラ。黒板に話しかけんな」
わかりやすい態度にますます不安が募った。
「古市が16時でアウトなら、オレは古市の1時間後が限界か」
「2歳差だからな」
「だから撫でんなフランスパン! アゴにも触んなっ」
「ヒゲのない神崎が珍しくて…」
「オレもヒルダが戻ってくる前に古市を堪能しておくか」
「おまえもベタベタ触るなぁっ!! 状況わかってんのかバカ男鹿ぁ!!」
「ちなみに…、下は?」
「肌だけでなく下もツルツルなのか?」
「「オレの代わりに消滅しろっっ!!」」
未だに時間に余裕があるので、男鹿と姫川は今のうちに相方を愛でるに愛でておこうとする。
緊張感の欠片もない光景に、周りの石矢魔生も心配する気にもなれなかった。
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