リクエスト:落ちこぼれ執事とひねくれ御曹司。
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「―――なるほど、そのようなことが…」
姫川の父親の回復が異常なほど早かったので、早朝に帰ってきた蓮井に正直に昨日のことを打ち明け(ただしキスされたことは隠したまま)、素直に謝った。
「申し訳ございません」
「いえ…、新人の執事が来ると、恒例行事のように坊っちゃまは遊ばれますので」
「え、恒例行事って…」
もしかしてあのキスもその一部ではないかと勘繰り、口元を押さえる。
「―――ですが、神崎様は見事にクリアされたようですね。昨日、そのようなことがあって、ここにいらっしゃるということは…」
「へ?」
「神崎様が、坊っちゃまのテストの初めての合格者なのでございます。普通なら、すでに荷物をまとめて帰られているところですよ」
「え…と」
素直に喜んでいいのかわからず、むしろ腑に落ちない。
(なにオレ、ずっとあのガキの掌の上で踊らされてたってことか?)
では、最後のキスの意味は何なのか。姫川なりの賞賛だろうか。
昨夜からぐるぐると考えていると、蓮井は「そろそろ、坊っちゃまの起床のお時間です」と神崎を促した。
「は、はい」
神崎は腕時計で時間を確認し、蓮井とともに姫川の部屋へと向かう。
「坊っちゃまは、何かお買い物をされましたか?」
「いえ、「間に合っている」だそうで。ゲーセン行ったり、街をうろついたり…」
「然様でございますか」
「まあ、お金はたんまり持ってるが、物を欲しがるようには見えねえな…」
令嬢と違って、執事を荷物持ちに連れまわすほどの物欲の持ち主ではなさそうだ。
しかし、蓮井は首を横に振った。
「いえいえ、神崎様。近日も、坊っちゃまは素直に「欲しい」と言えるものを欲されていましたよ」
「アロハシャツ? ポマード? 色眼鏡? それともなにかブランドもの…」
言いかけた際、蓮井は神崎に手を差し伸べた。
「あなたでございます、神崎様」
「……オレ?」
「はい。今年の夏の初旬でしょうか。あなたが主である少女のために身を挺して庇ったところを坊っちゃまが目撃され、興味をお持ちになったようで…。坊っちゃまの目に、狂いはありませんでした」
そう言っている間に、蓮井と神崎は部屋の前に到着する。
「ま、待った。もしかして、オレをここへ呼んだのって…」
「ええ。坊っちゃまです。坊っちゃまがあなたを欲され、あなたもちょうど前の主人から去って行かれたので…。ああ、ちなみに、ご令嬢のドレスはこちらで弁償しておきましたので」
「!!」
あの時の、なんのお咎めもなかったという疑問が解消された。
では、あのキスの意味は。
自惚れないよう深く考えないことにしていたのに、蓮井の言葉でそこへ踏み込んでしまう。
「おはようございます、坊っちゃま」
「ちょ、ちょっと待て! い、今は、顔を…、顔を合わせられない…っ!」
真っ赤になる顔を右手で覆い、姫川が起きるまでに熱を冷まそうとするが無駄な努力だ。
神崎の苦悩は今始まったばかりである。
*****
「アレが欲しい。…神崎一が欲しい」
「…坊っちゃまがそう仰るのなら、仰せのままに」
指をさすその少年は、何を想って欲したのか。
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