リクエスト:親離れ?恋人離れ?野良離れ?
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「狭い…っ」と神崎。
「何もこの人数で乗り込まなくても…っ」と古市。
「何匹か残るべきだったな」と陣野。
「―――とか言いつつ、ちゃっかり乗ってるっていう」と相沢。
「それ以上神崎にひっつくんじゃねーよ、城山」と姫川。
「体の大きさを考えろ」と城山。
「もうちょっとこっちに寄りなよ、城ちゃん」と夏目。
「もうちょっとで着くから。にゃーにゃーわんわん騒ぐなよ」と東条。
8匹は今、軽トラックの荷台に乗っていた。
提案を出したのは姫川だった。
住所を頼りに、車を乗り継いで行こう、と。
その町に向かうトラックを見つけたのは東条だ。
このトラックの持ち主が、サーカスが行われている町から石矢魔にある仕事場に来ていることを知っていたため、運転手が乗り込んでエンジンをかけたと同時に8匹は荷台に乗り込み、ブルーシートの下で身を潜めていた。
東条がブルーシートから顔を出すと、辺りはすっかり薄暗くなり始めていた。
「チビ達が動き回ってなけりゃいいんだがな」
「ところで、よくこの車があの町に向かうこと知ってましたね?」
「その仕事先でバイトしてる兄ちゃんにはよく世話になってるからな。色んなこと教えてくれるんだぜ?」
「他人のプライベートを猫に話すってどうなんだ。想像したが、ちょっと異様な光景だぞ」
少し引いた神崎だったが、陣野がすぐにフォローを入れる。
「虎と同じで小動物好きだからな。人間を相手にしているように話してくる」
「おっと、そんなこと言ってる間に…」
東条と同じくブルーシートから外の様子を窺った相沢は、広場にあるスポットライトが当てられた赤と白の縦縞模様のテントを発見した。
それを聞いて、神崎達もブルーシートから顔を出す。
「アレか…」と神崎。
「ポスターにあったのとそっくりだな。間違いねえ」と姫川。
軽トラックは運よく信号待ちとなり、その隙をついて神崎達は荷台から降りて車道から歩道に移り、広場へと向かった。
できるだけ直線に行けるようにと垣根を飛び越え、茂みを通り、数十分後、テントの前にたどり着く。
テントを間近で見ると、迫力のある大きさだ。
夕方のショーが終わったのか、テントの出入口からは次々と客が出てくる。
神崎達はテントの陰に隠れながらたつや達の姿を探した。
「どこにもいねえな…」
「古市、おまえの鼻で男鹿を探せるか?」
「神崎先輩、オレ警察犬じゃないんで無理です! 男鹿の匂いなんて……………」
古市は鼻をひくつかせ、つられるように歩き出す。
「まさか、本当に探してるのか、アレ」と城山。
「とりあえずついてってみよう」と夏目。
古市を先頭に、会場のテントの裏手に回ってみると、いくつもの小さなテントを見つけた。
古市はその中のひとつに、男鹿の匂いをかぎ取った。
「………おそらく…、ここかと……」
当たったら当たったで恥ずかしく、古市は自分の鼻の利きに戸惑っていた。
おそるおそる古市が指したテントの出入口に近づき、中を覗いてみる。
「そうそう、上手上手。はじめっちゃん上手いねぇ」
奈須の指導のもと、はじめは玉乗りに挑戦していた。
バランスを取りながら、ゆっくりと足下のボールを転がして進んでいる。
「たつやっ、できた!」
「オレなんて綱渡りできるし」
たつやは低い綱を渡っていた。真ん中まで渡るところまで成功している。
「ガキ共、オレを見ろ。たまごを鼻の上で5個積んだぞ」
男鹿は器用に卵を5つ鼻の上に載せてバランスを保っていた。
「「おおー」」
「3匹とも素質があるっちゃー」
奈須達は拍手を送る。
その光景を見た神崎と古市は大きく息を吸い込み、それを見た姫川達は一斉に耳を塞いで2匹から一歩離れた。
「「なにやってんだ3バカがああああああぁぁぁああっっっ!!!!」」
「「「!!!???」」」
怒りのつっこみに、3匹のバランスは一気に崩れた。
「お、おおおおふくろ!?」
「どうしてここに!?」
「古市まで…」
ボールから落ちたはじめ、綱から落ちたたつや、落ちかけた卵をパックマンと奈須にキャッチしてもらった男鹿は突然の身内の登場に酷く動揺していた。
「帰るぞバカ息子共!」
「男鹿もっ。心配してたんだからな!」
その言葉に絆されそうになったがたつや達だったが、すぐにはっとして神崎達を睨む。
「い、いやだね、オレ達はここの飼い猫になるんだ! 独り立ちしなくったって、ここなら楽園みたいに過ごせるしな」
「そうだぜ。古市、おめーの言った通り、飼い犬の気持ちを知ろうとしてんだ。感想を言わせてもらえば、快適だぜ? メシはくれるし、ブラッシングしてくれるし、ちゃんとしたベッドもくれる」
「たつや…」
「男鹿…」
そこに割り入ってきたのは、奈須だ。
「そういうことだっちゃ。子猫ちゃん達には一生ここで遊んでくらしてもらうナリ。…お節介なママやパパにも、2度と会わなくて済むし」
2度と会えない、と聞いて、はじめとたつやの表情が一瞬曇る。
男鹿はその表情を見逃さなかった。
そして自分にも、明らかな動揺が走ったことを覚える。
「勝手言ってんじゃねーぞ、オイ」
聞き捨てならなかった東条はテントの中に足を踏み入れたが、そこに鬼束が立ち塞がる。
「邪魔をするな。あのチビ達はもうオレ達の仲間…。部外者はとっとと帰れ」
「邪魔はどっちだ」
鬼束と東条が睨み合い、険悪な空気に包まれた。
「男鹿…、軽はずみなことを言ったのは謝る。悪かった。オレだって男鹿と遊びたかったし、おまえに責められて逆切れしちまってあんなこと…。……頼む、こっちに戻ってきてくれ。おまえが飼い犬になっちまったら…、おまえ、好きな時にオレに会いに来てくれねえだろ…!?」
「古市…」
すると突然、
「ぐっ!」
アクオスが古市の背中を踏みつけた。
「よく喋る犬だな」
「古市…!!」
「はじめ! たつや! こっちに戻ってこい!」
「…っ」
神崎は呼ぶが、たつやとはじめは戸惑ったままで動こうとしない。
「……神崎は、自分に何かあった時におまえらに強く生きてほしくて厳しくしてただけだ」
姫川は神崎の横に並び、たつや達に呼びかける。
「な…、なにかあった時って…」
「自分が車に轢かれた時とか、他のよそ者猫にやられた時だ。そうなったらおまえらはどうする? そのことを配慮して、神崎はおまえらを立派な野良猫に育てようとしただけだ。追い出そうなんて微塵も思っちゃいねーよ」
「「……………」」
神崎のことを今ではどこの猫よりも理解している姫川の言葉に、たつやとはじめは言葉が出なかった。
神崎は目を逸らし、「余計なことを…」と照れている様子だ。
「……返せ、オレ達のガキを」
神崎と姫川は奈須を睨みつける。
「「!!」」
奈須に一歩近づいた瞬間、神崎と姫川は背後からクマさんに押さえつけられた。
「返さない。こいつらが望んだことだ」
「そーそー」
クマさんの肩に乗ったパックマンは頷いた。
「しつこいっちゃねー。2度と追いかけてこないような体にしてあげるといいナリ」
「ぐ…ッ」
「ぅく…!」
クマさんが腕に体重をかけ、神崎と姫川の骨が軋んだ。
「神崎さん!」
「待って城ちゃん」
助太刀しようとした城山を、夏目が止める。
神崎と姫川が圧迫感に呼吸もできず呻いていると、クマさんの腕に小さな4本の手に爪を立てられた。
「い…やだ…っ。親父とおふくろと別れるの…、ぃやだぁ…っ!」
「おふくろ…っ、オレ…!」
2匹は泣きながらクマさんの手をどかそうとする。
すると、クマさんは簡単に後ろに倒れた。
「え?」
解放された神崎と姫川は何事かとクマさんに振り返る。
「やられたー」
クマさんは棒読みで仰向けのまま降参のポーズをとった。
「古市から離れやがれ!!」
男鹿はアクオスに頭突きをかまして吹っ飛ばし、地面に転がったアクオスはピクリとも動かない。
「男鹿…!」
男鹿は古市に駆けつけ、額を合わせる。
それを見た鬼束は腹を抱えてその場にうずくまった。
「いたた、突然腹が…」
「え」
東条は目を丸くし、心配するべきか隙を突くべきか迷う。
「あーあ、全滅しちゃったー。親子愛の前には歯が立たないっちゃ~」
奈須も両手を上げて降参のポーズを取り、白旗を振った。
困惑した面々だったが、はじめとたつやが泣きながら神崎に抱き着いてきたので、「帰るぞ」と神崎は優しく声をかける。
「男鹿も、一緒に帰ろう?」
「ん…」
「え、コレで終わりなのか? せっかく喧嘩が…」
「東条さん、チビ達も戻ってきたんですから」
「置いてくぞ」
物足りなさそうな東条を、相沢と陣野が背中を押してテントの外へと連れ出した。
男鹿と古市も一緒に出たあと、続いて、神崎とはじめとたつやも外へと出る。
最後は姫川だが、外へ出る前に立ち止まり、奈須に振り返った。
「おまえら…、わざと……」
テント内を見回すと、アクオス達はなんでもなかったように起き上がった。
「寂しげな子猫ちゃん達は、笑ってパパとママのいるおうちに帰った方がいいナリ。オレ達の道化っぷり、いいかがナリ?」
奈須は茶目っ気に舌を出し、姫川は小さく笑う。
「チビ共が世話になったな」
「またのお越しを☆」
.