リクエスト:人魚の恋は嵐とともに。
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「いだだだだだっ!!」
桟橋に上げられた姫川は、口に引っかかった釣り針を少年に取ってもらった。
「ほら、取れたぞ」
「うぐ…、人間達の犠牲になった魚の気持ちを知っちまった…」
姫川は頬を擦りながら落ち込む。
「つか、人魚ってエビ食べるのか」
「魚類が魚類を食べるなんて不思議じゃねーだろ。人間だって、同じ哺乳類の牛とか豚も食べるだろ? その気になればサル料理だって食べるし」
どこかから手鏡を取り出して口の中の傷を見た。
「おまえ、釣られたクセにそういうことは考えられるんだな」
「馬鹿にされた気がするが、おまえ、オレ見て騒がねえのか」
普通なら、人魚を見かけただけで人間は野次馬をつくり大騒ぎするものだ。
中には、人魚の肉を食べると不老不死になるという伝説を信じて捕獲しようと躍起になる者もいる。
改めて姫川の全体を目に入れた少年は、はっとする。
「そ、そういえば、気が利かなくて…」
恥ずかしげに顔を赤らめた少年は自分のシャツを脱ぎ、姫川に押し付けた。
「え。なに?」
「人魚っつーから、胸に貝殻ついてるもんだと…。男のオレには目のやり場が…」
「オレ男ですけど?」
「男!!!??」
「そっちに驚いてんじゃねえよ!!」
驚くべきところがずれている。
「男の人魚もいるんだ? 本とかだと女ばっかなのに」
「その方が人の目を引き付けやすいからじゃねーの?」
「なあ、海底の国って本当にあるのか?」
ずい、と顔を近づけられれば心臓が大きく跳ね上がる。
動揺しながらも姫川は頷いた。
「あ、ああ。あるぜ」
それから海底の国の話を、日が暮れるまでずっと話していた。
どうしてずっと人間に見つからずにいるのかまで。
話してはいけないことなのだろうが、目を輝かせながら耳を傾ける少年を見ていると、口が勝手に動いた。
「―――ちなみにこの話、あんまり人に聞かせるなよ?」
「おとぎ話のような話ばっかだったけどな。人魚が歌うと嵐が来るってのも。……まあ、心配するな。絶対話さねえから」
小指を立てられたので、ハテナを頭に浮かべていると、少年は姫川の手を取り、その小指に自分の小指を引っかけてきた。
「人間が約束する時は、こうして小指を引っかけあうんだっておふくろが言ってた。人魚はねーのか? そーゆーの」
「人魚が約束をする時は、互いの鱗を交換して、守れたら相手に返すっていうのが…」
「鱗…」
「ほら」
姫川は自分の下半身から1枚の鱗を引き剥がし、少年に手渡した。
「…宝石みたいだ…」
銀色の鱗を太陽にかざせば、キラキラと光った。
褒め慣れているはずなのに、少年の素直な感想に姫川の顔が赤らむ。
「オレもなにか…」
少年は慌てて何かないかと探し出し、姫川を釣った小さな釣り針を差し出した。
「これで…」
「ん」
姫川が受け取ると、遠くの方で「若ー」と声が聞こえた。
少年ははっとし、釣り具を片付け始める。
「やべ、もう探しに来たっ」
「?」
「また明日、ここで会おうぜっ。あ、名前まだ言ってなかったな。オレは神崎!」
「オレは…」
少年は名前を明かすと、姫川が名を明かす前に急ぎ足で桟橋から立ち去ってしまった。
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