リクエスト:家族の時間。
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翌朝、目覚ましが鳴る前に零からの着信音で起こされた。
“産まれたぞ一―――っ!!”
寝惚けた頭によく響く声だ。
「……おめでとう…」
横で寝ていた姫川も、ケータイ越しのその声に起こされたのか、むくり…、とゆっくりと起き上がって目を擦った。
“反応が悪いな”
その言葉に神崎のこめかみに青筋が浮かび上がる。
「今6時だぞ…っ。こっちだって心配して遅く寝ちまったんだよ…!」
“あ…、ああ、悪い…”
零は徹夜慣れしているのかそれどころではないのか、一睡もしてないのに元気なものだ。
「産まれたのか?」
「ああ、無事にな」
その会話が聞こえたらしく、零は神崎が姫川の家に泊まったままだということを思い出した。
“そういえば、姫川君も一緒だったな。ちょっとかわってくれるか?”
「え」
“二葉の服のお礼がしたいんだ”
そう言われ、渋々「兄貴がお礼言いたいって」と姫川にケータイを手渡した。
「もしもし、姫川です」
なんのスイッチが入ったのか、今起きたとは思えないはっきりとした声だ。
“兄の零です。昨日は二葉の服を買ってくれたようで…。ありがとう。また今度返すよ”
「いえいえ、とんでもない。カワイイ二葉ちゃんへのささやかなプレゼントですから。お返しも必要ありません。ははは。お兄さんもお気になさらず」
「「お兄さん」言うな。てめぇ誰だ。なんでそんなハキハキ喋れるんだよ…」
思わず引いてしまうほど歯切れよく、嫁の家族と話すように丁寧だ。
気のせいか姫川の頭の上に猫が覆いかぶさっているように見える。
“あ、二葉がかわってくれって”
神崎にケータイを返し、神崎が「二葉?」と出ると、こちらも父親に負けず大きな返事が返ってきた。
“一―――っ!! お姉ちゃんになったぞ―――っ!!”
(朝から元気いい親子だな…)
“二葉よりちっちゃい手だぞ! 顔もまるまるしてて、ベルよりも体がちっちゃくて…”
興奮気味に感想を述べていく二葉に、神崎は笑みをこぼして「そうか…。ちょっとしたら、オレも会えるよな…」と呟く。
“一! おかあさんが退院したら、動物園行くんだ! そこでペリカンにお礼言う!”
「「…ペリカン?」」
聞いていた姫川も一緒に首を傾げる。
“おとうさんが、赤ちゃんはペリカンに運ばれてくるって…”
「あ? アホウドリじゃなかったか?」
「コウノトリだアホウ。エリート混じってるクセに頭悪いぞ神崎家」
姫川が訂正した鳥の名前を伝えると、「ああ、そうだったそうだった」と零の軽快な笑い声が聞こえた。
“いつか一のところにも来るんだろ?”
「何が」
“コウノトリ。姫川と一の子どもが…”
“………一?”
ケータイ越しの零の空気が、微かに冷気に変わった。
「あー、電波悪いわ」
ウソをついて間髪入れずに通話を切って電源も切った。
それから姫川に振り向き、寝間着の胸倉をつかんだ。
「てめぇ何吹き込んだ…?」
姫川は悪びれた顔もせず、両手を小さく上げて降参のポーズをとる。
「お兄さんとの電話の最中に…。「姫川も、子どもができたらうちのおとうさんみたいになるのか?」って聞かれたから、素直に頷いて、いつか神崎の腹にオレの子どもができたら…って…」
「100年経ってもできるかっ!!」
「もういっそのこと二葉をオレ達の養子にしちまおう」
「兄貴と親父の手で日本海の底に沈められてーならいいぜ」
「じゃあ、産まれたての…、あ、名前聞いたか?」
「そういや……」
それだけでもメールで聞いておこうと電源をもう一度つけると、1件のメールを受信していた。
零からだ。
開いてみると、写真が添付されていた。
ベッドで寝ているのは零の妻で、ベッド脇に立つ零は産まれたばかりのわが子を抱き、二葉はベッドサイドに座り、こちらにピースを向けていた。
撮影したのは看護師だろうか。
4人とも笑顔を浮かべていて、家族が増えた喜びが伝わる。
「……少しデカくなったら、もっと振り回されるんじゃねーか?」
「そういう時はてめーの出番だ。オレひとりの手が回らなくなったら、お守り手伝わせてやる」
「ひとり増えれば、オレ達も少しは周りから家族っぽく見られるか?」
「見えねえだろーな」と意地の悪い笑みを浮かべて返した神崎に対し、姫川は苦笑した。
視線をケータイに落とすと添付された写真の下に、短い文を見つける。
“みつば”
名前は知れた。
あとは今度会って、直接男の子か女の子か聞こう。
みつばを見ると、産まれたての頃の二葉とよく似ていた。
姫川の言う通り、数年もすれば立派なわんぱくに育つだろう。
その時の気苦労は考えないようにしよう。
今だけは。
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