リクエスト:家族の時間。
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風呂上がり、二葉は神崎にドライヤーを吹きかけられ髪を乾かされたあと、ダイニングのソファーで神崎の膝に座ったまま大人しく髪をブラシで梳かされていた。
寝間着代わりの服は、姫川のTシャツだ。
小さな二葉が着るとワンピースのようになる。
「明日はどこに行く?」
二葉が唐突にそんなことを言うので、一瞬、呆気にとられてしまう。
「……どこに行くも何も…、明日はオレ達学校だし…。言っただろーが。朝起きて、メシ食って、蓮井に家まで送ってもらうって…」
「じゃあ二葉も学校行くっ」
「二葉…」
「別にいいだろ! ベルだっていっつも親にくっついて学校行ってんだから! じゅぎょーのジャマとかしないって約束する!」
二葉は神崎に振り返りもせずにまくし立てる。
「そういう問題じゃ…」
「帰りたくねーのか? 家自体に…」
「誰だおめー!!?」
「みんなの姫川さんだ」
ちょうど風呂から上がって髪を下ろした姫川がダイニングにやってきた。
神崎と違って見慣れない二葉は思わず声を上げてしまった。
「なぁ、そろそろ話せよ」
「……………」
「二葉?」
目を伏せて黙り込んだ二葉に、神崎は首を傾げる。2人の視線から逃れることもできず、二葉は、姫川の先程の問いに小さく頷いた。
「……この前…、おとうさんと…服…買いに行って…、おとうさん…、二葉の服じゃなくて…、生まれてくる子どもに…って…。うれしそーに選んでた…」
「…!」
だから突然「買い物に行こう」と言い出したのだろう。
それで満足するわけでもないのに。
本当なら父親に買ってほしかったのだろう。
なのに、父親は仕事の忙しさや生まれてくる子どものことでなかなか構ってあげられず、家にいるはずの母親も入院中で、1人で会いに行くことは許されない。
姫川は、仲良さげな親子を見ていた二葉を思い出した。
いつも以上に神崎達に構ってほしいのも、その寂しさを紛らわすためだったのだ。
男子と張り合えるくらいのじゃじゃ馬娘でも、その小さな胸の内は繊細だ。
今、神崎はようやくそのことに気づいた。
「二葉…、どうでもいいコなのか? もう…、いらないコなのか?」
自分自身の言葉に傷ついたのか、二葉の大きな瞳からぼろぼろと涙がこぼれた。
「あのな、二葉…」
神崎は二葉の両脇を持ち、こちらに向かせた。
「どうでもいいなら、兄貴が一緒に買い物連れてったりしねーだろ? 二葉と一緒に服選びたかったからに決まってるじゃねーか。おまえだって、もうすぐ姉ちゃんになるんだ。ちゃんと迎えてやらねーとな」
「姉ちゃん……」
「おう。まだ男か女かわからねーが、おまえの父ちゃんと母ちゃんがいねー時は、二葉、おめーがそいつを守んだよ。おまえだって、守られる側じゃなくて、守る側がいいだろ?」
「守るがわ……」
響きが良いものを口にし、二葉の潤んだ瞳が明るさを取り戻していく。
「二葉が生まれてくる前だって、男か女かわからねーのに、兄貴の奴、服やオモチャまで買い始めてたからな」
「おとうさんが!?」
自分が生まれる前のことを聞かされるのは、まだ幼児のうちはあまりないことかもしれない。
「親父と兄貴が絶縁……喧嘩してた時だって、二葉が生まれたおかげで仲直りできたんだからな」
「…………!!」
面白いほどの明るい反応だ。
花が咲いてもいい。
「まだ4つだし、寂しいのもわかるけどな。兄貴がそんな適当なことしてねーってのだけは覚えとけ。おまえだって兄貴の大事な娘なんだからな」
「…うん!」
ようやく笑顔が戻ってくれた。
神崎が安堵の笑みを浮かべた時、サイドテーブルにある充電器に差したケータイから着信音が鳴り響いた。
手に取った姫川は「おまえの兄貴からじゃねえ?」とケータイを投げ渡す。
片手でキャッチした神崎は、待ち受け画面に兄である神崎零の名前が表示されているのを見た。
「ちょっと二葉頼む」
神崎は膝の上に載せていた二葉を姫川に渡し、廊下へと出た。
壁に背をもたせかけ、通話ボタンを押してから耳に当てる。
「もしもし」
“電話で話すのは久しぶりだな、一”
「…おう。つーか、早かったな」
零の声を聞くのもいつぶりだろうか。
“仕事が予定より早く終わってな。親父から、二葉を友達の家に泊めてるって聞いた”
「……ああ。二葉のわがままでな…」
いずれ話すつもりでいるが、零が友達と思っている姫川と付き合っていることは、零どころか武玄も知らない。
“本当に困ったコだな”
苦笑混じりの声だった。
あんたも大概困ったやつだ、と内心でつっこむ。
「兄貴、二葉連れて、次に生まれてくる子どもの服買いに行ったって?」
“ああ。二葉の時と同じく、買い過ぎた…。学習しないな、オレも”
「それはどうでもいいけどよ、たまには二葉も構ってやれよ? 次が生まれてくるからって浮かれすぎ。寂しがってんだからな。オレはいつでも遊び相手になってやるからいいけど、本当に相手してほしいのは兄貴(親)なんだからよ」
“……二葉が…。…そうだな…。おまえに説教されるとは……”
「不服かよ」
“オレもおまえが生まれてくる前と後は、親のデレっぷりに軽く嫉妬したもんだ”
「次男だしな、オレ」
“まあ、そんな嫉妬もすぐにそれも慣れたけどな。年の差もあったし…”
「けど二葉は…」
“わかってる。まだ4つだ。…反省して、ちゃんと二葉にも目を向けるよう気を付ける…”
零がそう答えると、どこからか別の電話の着信音が聞こえた。
ケータイからだ。
「おい、電話鳴ってるんじゃねーか?」
“ああ、家の電話が…。ちょっと悪い”
まだ話したいことがあったのか、通話は切られず、耳にケータイを当てた状態でしばらく待っていると、さっきとは打って変わって落ち着きがない様子で通話に戻ってきた。
“は、ははは、一!!”
唐突なその大声に神崎は思わず耳からケータイを離す。
「いきなりデケェ声出すんじゃねえよっ」
“産まれる―――っっ!!!”
「あ゛ぁ!?」
たった今、零の妻が入院している病院から連絡が来た。
予定より早いが陣痛が始まったらしい。
連絡を受けた零は「先に二葉を迎えに行く!!」と言って切ろうとしたので、「場所わかんのかよ!!?」と待ったをかけて住所を伝えてから切った。
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