小さな話でございます。
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本格的な真夏の暑さとなり、冷房の効いた部屋でソファーに座りながらアイスコーヒーを飲んで涼んでいた時だ。
それは神崎からの突然の着信だった。
“祭りに行くぞ。夕方5時に石矢魔神社に集合だからな”
「…は?」
通話に出るなり、いきなり祭りに誘われ、オレは唖然としてしまう。
“なんだよ。別の予定でもあんのか?”
「特にねえけど…、おまえ、神崎だよな?」
“ここ最近のセミの合唱聞きまくって耳までおかしくなったか”
この辛辣な返しは間違いなく神崎だ。
今日祭りに誘おうとは計画していたが、まさか神崎から誘ってくるとは予想もしていなかった。
だって、一緒に休日を過ごしたり、学校帰りに家に呼んだりするのって、いつもならオレから誘っていたからだ。
「祭りって血祭りじゃねーよな?」
“わかった。別の奴誘うわ”
「待て!! 花火大会の方だよな!? おまえからの誘いなんて珍しいから、つい…」
“……たまにはオレから誘ってもいいだろが…”
口を尖らせたような返しをされ、思わずケータイをぎゅっと握りしめた。
“…行かねえのか?”
「行くに決まってんだろ!! …神崎、好きだ」
慌てて返答したあとそう伝えると、しばしの間が空き、「やっぱ暑さにやられちまったか」と小さな声で言われた。
苦節数ヶ月。
神崎もようやく素直になってくれたってことだよな。
祭りに行ったら、好きなものたくさん買ってやって、一緒に花火を見たあとは人気のない場所に連れ込んでお楽しみタイムだ。
約束の時間までまだ5時間。
時間が来るまで、お楽しみタイムの内容を考えておくとしよう。
神崎が浴衣のパターンでくるか、私服のパターンでくるか、そこから始めよう。
*****
そうか、そのパターンか。
「……おかしいとは思ったんだ。そして気付くべきだった。オレも浮かれちまってたな…。期待するだけ落胆ってのは大きいもんだ。知らないはずがないのに…。すべては神崎の掌の上で動かされたってことだよな。おまえだけだぜ、オレをそうさせられるのは……」
「拗ねてねーで手ぇ動かせ!! 焼きそば2丁お待ちぃ!!」
オレは今、出店の手伝いをさせられていた。
集合場所に到着するなり、神崎の配下(組員の方々)に取り押さえられ、リーゼントを強制的に下ろされ、甚平に着替えさせられ、頭に手拭いを巻かれてしまった。
極道も出店出すんだっけ。
オレと、オレと同じく体に甚平、頭に手脱ぐ理を巻いた神崎は、熱い鉄板を目の前に、必死で焼きそばを焼いているわけで。
両手につかんだ平で具と麺とソースを絡めていき、出来上がればパックに入れて輪ゴムでとじて買いに来た客に提供する。
こっちは楽しむつもりで来たのに、なんで楽しませる側にならねえといけねーんだ。
「しょうがねーだろ。こっちも人手不足なんだよ」
「だったら夏目と城山に任せればよかっただろ」
「夏目はバイトのシフトあったし、城山は前々から兄弟たちを祭りに連れていく約束してみたいだし」
やっぱりオレが先手を打って誘うべきだった。
ちなみにリーゼントを仕方なく下ろされたのは、オレのリーゼントが、鉄板から上昇する煙を遮ってしまうからだそうだ。
クソ、客多い。
主に女性客。
メアドも聞いてくるし、「このあとヒマですか」とかうざい。
「がんば。がんば、ですよ竜也様」
心なしか木陰から蓮井が応援してくれてる気がした。
嗚呼、煙が目に沁みるぜ。
*****
花火が上がる時間間近になる頃には、ほとんどの客たちはよく見える河原に移動したのか、客も少なくなってきた。
だからって、1人にすることねーだろ、神崎。
数十分前、神崎は「他の奴らの様子見てくるわ」とオレを店にひとりにして行ってしまった。
気持ちのままに焼きそばを焼いて焼いて焼きまくる。
焼き過ぎてソースが焦げた。
「姫川」
叫びそうになったところで神崎が戻ってきた。
その後ろには2人の男を連れている。
神崎は男達を肩越しに見て「じゃあ、あとは任せた」と言うと、男達は「へい、若っ」と一礼し、オレに近づいて「お疲れやした」とオレの手から平を取った。
「あ?」
キョトンとしていると、神崎は「行くぞ」とオレの手を引いて出店をあとにする。
人ごみをかき分けながら向かってるのは河原の方角だ。
「神崎?」
「元々、花火が始まる時間までの約束だったんだ。…食べながら見ようぜ。一緒に」
そう言って、手に提げていたビニール袋をオレに見せつけた。
中には、たこやき、焼きそば、フランクフルト、リンゴ飴、綿菓子などが入ってある。
神崎は目を合わせにくいのか、視線をあちらこちらに動かしている。
「……たくさんもらってきたし…、オレ一人じゃ食べられないし…」
これだからツンデレは!!
「神崎…、好」
「ここで言わせるか…」
言い切る前にリンゴ飴を口に当てられた。
周りは人ごみ。
だったら、2人っきりの時ならいいってことだろう?
花火のあとのことを考えると口元が緩み、口に当てられたリンゴ飴を無意識に一舐めした。
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