リクエスト:家族の時間。
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今の遊びに飽きれば、すぐに別の遊びを要求するなど、二葉の物事の切り替えは早く、休むということをあまり知らない。
寝る時も、自分からベッドに向かったことはなく、ほとんど、遊び疲れて本人も知らぬ間に眠ったところを神崎がベッドに運んだりしているのだ。
うとうとしている二葉に、冗談でも「眠いのか?」と聞いてはいけない。
神崎以上の意地っ張りなので、「眠くないもん!」と首を横に振って起きようとする。
こちらがとても眠くてもだ。
二葉の扱いに慣れてきた神崎だったが、ここ最近の二葉の構ってぶりには心身を削られていた。
なので今、ゲーム対戦中、コントローラーを握りしめる二葉を胡坐の上に載せ、同じくコントローラーを握りしめる姫川の右肩に寄り掛かった状態でうたた寝している。
(よっぽど疲れてたのか…)
姫川にとっては得な状況だ。神崎には悪いが、二葉に「グッジョブ」と言いたくなる。
右肩に寝息と温もりを感じながら、目の前の格闘ゲームに集中する。
神崎の家でもやっているのか、二葉のゲームの腕は神崎ほどではないが上手い。
だが、姫川の腕はゲーマー顔負けの強さを誇り、たとえ自分より格段に弱くとも手加減はしなかった。
現在、15連勝している。
「う゛~っ!! てめー4歳児相手に本気になってんじゃねーぞコラァッ!!」
「オレは手加減はしてないが本気の域まで達してないぜ?」
色眼鏡を逆光させる姫川に、二葉はまた唸り声を出した。
今にも噛みついてきそうだ。
姫川が20連勝したあと、いくら負けず嫌いと言えど完全に勝てないと悟った二葉はコントローラーを雑に放り投げて立ち上がり、神崎の胸倉を両手でつかんで乱暴に揺すった。
「起きろ一ーっ! こいつブッ飛ばせーっ!」
「起こしてやるなよ」
「……んあ?」
叩き起こされた神崎は、目を擦り、口端のよだれを手の甲で拭いてから大きな欠伸をする。
「寝てんじゃねーぞ!! ゲーム飽きた!! 外行くぞ!!」
ゲームに負け続けて苛立ちを募らせた二葉は至近距離に構わず怒鳴った。
「公園にでも行くか?」
神崎が背伸びしながら言うと、二葉は首を横に振る。
「買い物っ!!」
二葉の要望通り、マンションを出た神崎と姫川は二葉を連れて近くのショッピングモールへとやってきた。
2人の間に小さな幼児。
傍から見ればどのように映っているのだろうか。
姫川の左手と神崎の右手を握りしめる二葉が「アレやってアレやって」と目を輝かせてせがむと、2人はタイミングを合わせて二葉の手を持ち上げ、バンジージャンプのように高く上げた。
それだけで二葉ははしゃぎ、それを見ていた他の幼児達も「アレやってアレやって」と親にせがんだ。
3人がやってきたのは、キッズ服売り場だった。
二葉は2人の手を放し、店の中へと駆けこんでいく。
神崎と姫川は目を離さないように、店の前で小声で話し合った。
「二葉が「買い物行きたい」なんてねだるのは初めてだな。てっきりゲーセンとか、美味しいもん、とか…」
「お年頃じゃねーの? 一応女だし」
「まだ4つだぞ」
「最近のガキはませてるからな。末恐ろしい話」
「一―――っ! この服かっこいいぞ!」
「呼んでるぞママ」
「次にそのふざけた二文字言ったら踵落としだからな」
呼ばれたからには行くしかないのだろう。
女性専門店の次に入りにくい店へと足を踏み入れる。
「てめーも来んだよっ」
「…おう」
途中で立ち止まって姫川に振り返る神崎。
1人では居た堪れないのだろう。
客はもちろん、店員も、見た目も雰囲気も威圧的な2人に怪訝な眼差しを向けた。
明らかに店に不釣合いである。
「子どもってよくこんなちっこいサイズ入るよなー」
姫川は一枚のキッズTシャツを手に取ってまじまじと見る。
「アロハシャツもちゃんとあるのか…!」
嬉しげにキッズサイズのアロハシャツを手にした。
「オレのは特注だったんだろうな。やっぱ質が違う」
これを着ていた時代を思い出しているのか目が遠い。
「ちゃんと元の場所に片しとけよ」
「店員が直すって」
神崎は一度広げた服を、ちゃんとまた折り畳んで戻していた。
変なところは几帳面だ。
「おい、これなんてどうだ?」
姫川はピンクのアロハシャツを二葉に勧めてみたが、
「ダセェ」
一刀両断されてしまう。
「アロハだってなぁ…」
「ガチで落ち込むなよ」
アロハを握りしめた姫川の寂しい背中を軽く叩く神崎。
「あいつも見る目がないっつーか…」
肩越しに二葉に振り返った姫川は、服を握りしめたままよそ見つめている二葉を見て言葉を止めた。
二葉の目線の先には、父親に抱かれ、母親にサイズ合わせをされているはしゃぐ子供の姿があった。
「……………」
二葉の瞳から何かを読み取った姫川は、二葉に近づき、しゃがんで視線を合わせて「それが欲しいか?」と尋ねる。
「え…」
戸惑いの表情を見せた二葉だったが、こくり、と頷いた。
二葉の手に握られたパーカーを受け取った姫川は、今着ている二葉の服のサイズと合っているかどうか確かめてからレジへと行く。
「おい姫川っ、おまえがそんなことしなくても…」
「たまには払わせろ」
財布を出した姫川に待ったをかけようとした神崎だったが、姫川は流れるように財布から現金を取り出し、二葉の服を購入した。
可愛らしいヒヨコのマークのついた袋に入れてもらい、受け取った二葉の顔は嬉しげに輝いた。
親に買ってもらったのなら、もっと眩しく輝いていただろう。
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