リクエスト:鈍さにかけては首領クラスです。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
うざい奴と罵ってくれ。
1度目の告白で断られたほうが、まだ気が楽だった。
家に帰ってきたオレは、何室あるうちの適当な寝室に入ってベッドにうつ伏せに倒れこんだ。
サングラスを外し、リーゼントをぐしゃぐしゃに解いた。
泣きたい。
今までのオレはなんだったんだ。
全部なんだったんだ。
「姫川、もう一度ジェットコースター乗ろうぜ」とオレの手を引いたのも、
「ん。半分やるよ」とホットドッグを半分に千切ってオレに渡してくれたのも、
「もう一戦!」と眠さも忘れてゲームの再戦をしたのも、
「これ負けたら昼飯奢りだかんなー」とカーレースをやったのも、
「おまえの手、あったけーなぁ…」とオレの手を握り返して微笑んだのも、
アレが全部、ダチに見せる顔だったのか。
オレだけに見せてくれてたんじゃねえのか。
オレ…、スゲェ思い上がってた。
「彼女欲しい」って言ってた神崎も、やっぱり男のオレじゃダメなのか。
いっそのこと性転換手術するべきか。
血迷ったことを考えた時だ。
ピンポーン
インターフォンの音が部屋に鳴り響いた。
誰だこんな時間に。
ケータイを見ると日付が変わる手前だ。
ピンポーン
懲りずにまたインターフォンが鳴らされる。
「……………」
姫川竜也は傷心につき居留守です。
起き上がりたくねえんだ、マジでほっといてくれ。
ピンポンピンポンピンポン…!!
略したが、計30回以上は立て続けに鳴らされ、オレは我慢ならずに起き上がり、床を乱暴に踏み鳴らしながらインターフォンに出て怒鳴る。
「うるせぇえ!! 誰だあああ!!?」
パッ、と画面に映ったのは神崎の顔だ。
「! 神崎…!」
“居留守使ってんじゃねえよ。ここ開けろコラァ”
オレが居留守使ったことに腹を立てたのか、眉間に皺が寄せられている。
「……………」
“なにもたもたしてんだ。オレを待たせんじゃねえ”
「……………」
“おーい、フランスパーン”
それから何度もインターフォンを鳴らされたが、オレは開錠のボタンが押せなかった。
だって、さっきオレをフッたばっかじゃねえか。
今さらなんの用なんだよ。
“……………めんどくせーやつだな”
神崎は舌打ちすると、背を向けてどこかへ行ってしまった。
誰のせいでこんな面倒なことになってると思ってんだ。
オレも舌打ちして画面を消そうとしたとき、また神崎の姿が現れ、指を止めた。
画面に映った神崎は、真っ直ぐにマンションの玄関へと向かう。
その神崎の手に持たれたブツを見たオレはぎょっとした。
(あいつまさか…!!)
神崎の手には、どこから持ってきたのか金属バットが握りしめられていた。
玄関はガラスのドアだ。
ブチ破れば侵入できるが、同時にセキュリティが発動してしまう。
構わず、神崎は金属バットを振り上げた。
「ひーめかーわくーん。あーそーぼ―――」
振り下ろす同時に、オレは開錠ボタンを押した。
ドアが開かれ、神崎のバッドが空振りしたのを見て、安堵の息をつく。
こういうところが男前っつってんだよ。
オレがいる階に来たのはいいが、どの部屋かはわからないだろう。
さっきの大胆な行動といい、諦めて帰るとは思えない。
順番にドアを壊しながらオレを探すことだろう。
どんなホラー映画だ。
オレはチェーンロックをしたままドアを開けた。
廊下を渡ってくる神崎の姿が見え、あちらも半開きのドアから窺うオレの存在に気付き、真っ直ぐにこちらにやってくる。
金属バットの先端を引きずりながら来るな。
怖ぇよ。
「……ここ開けろ」
神崎は金属バットを持ち替え、ドアのチェーンに金属バットの先端をかけた。
「オレとじゃムリなんだろうが。今更なんだよ…」
「ああ。ムリだ」
「だったら…」
「聞けよ。訂正させろ」
「訂正?」
神崎は金属バットをおろし、言いにくそうに「あー…」とうなじを掻いた。
「確かに…、今回はオレが悪いのかもしれないかもしれない」
「どっちだよ」
「オレは恋人?として付き合ってるとは思ってなかったけどよ…。それでも、てめーと過ごした3ヶ月…、スゲー楽しかった…。いつも夏目と城山と一緒だったけど、遊園地とかダチと行ったことなかったし…。新鮮だったっつーか…。おまえのこと…、今まで以上に知れたし……」
「……………」
「姫川の言う「好き」かどうかはわかんねーけど…、嫌いじゃねえのは確かだ。じゃねえと、このオレがわざわざここに来ようとか思わねえだろーが…」
金属バット握りしめながら、なに可愛いこと言ってくれちゃってんの。
神崎の顔を覗きこむと、「じ、じろじろ見んな」と真っ赤な顔でそっぽを向いてしまった。
「それだけ伝えたくてだな…」
「オレと恋人として付き合うのがムリってのは? 家のことか? それとも、男同士だから?」
「オレが気にしたのは後者の方」
「なんで」
「だっておめー…、男同士だと結婚できねえだろ」
は。
まさか、こいつの考え方って、交際=結婚?
極端すぎる…!!
いつの時代の考え方だよ!!
なにこの愛しいバカは!!!
オレは掌で自分の顔面を覆い、ずるずるとその場にしゃがみこんだ。
神崎はそれをショックを受けていると思ったのだろう。
しゅん、と申し訳なさそうな顔で「悪いな、オレが男に生まれちまったばかりに…」と謝られた。
そのまま帰ろうとするので、オレはすぐさま立ち上がってチェーンを外してドアを開けて「神崎!」とその右腕をつかんで引き止める。
「海外には同性婚があるって知ってるか?」
「…どうせーこん?」
やっぱり知らねえか。
「日本じゃまだムリだが、海外…、例えばアメリカとか、男同士の結婚式がある。だから…、国外逃亡のちに結婚。……ロマンチックなシナリオじゃねーか!」
「ちょ、ちょっと待て。なんの話してんだ!」
「神崎、結婚できるなら、オレと正式に恋人として付き合ってくれるんだな!? それでもオレじゃダメか!?」
オレは神崎の両肩をつかんで真剣な顔で問い詰めた。
気圧されたように仰け反っていた神崎だったが、目を伏せながらぽつりぽつりと言い出す。
「と、突然そんなこと言われても…。おまえのことそういう意味で「好き」かどうかもわかんねーし…。……けど…、おまえと手ぇ握ってる時…、心地よかったっつうか…、当然のように受け入れられたのって…、やっぱ…、そういうことなのか…? フツーは嫌がるもん…なのか?」
嬉しいことに、こいつの手を握ったのはオレだけのようだ。
不安げな顔の神崎。
自分の気持ちにも気付いてないってか。
「じゃあ、今から確かめてみるか?」
「?」
そう言ってオレは神崎の両頬に両手を添え、唇を近づけた。
「これで気持ち悪くなかったら、そういうことだ」
まずはこいつに、男同士でもキスができるところから教えてやろう。
「愛してるぜ、神崎」
あとのことはそれからだ。
.END