リクエスト:百万本には至りませんが。
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それからも神崎は、自身が植えた花の面倒を見るために姫川の家に通い詰めた。
姫川の家のベランダは、日当たりも風通りもよく、バラを育てるには最適だ。
細かい注意点は神崎が直す。
たとえば、コンクリートの上に植木鉢を置くと、照り返しで芽の水分が飛んでしまうので、植木鉢の下に木の板を敷いたり、土が乾くたびに水をあげたりなど。
用事で行けない時は、ケータイで姫川に世話を頼んだ。
“土が乾いたら…”
「すぐに水をやる。それこそ鉢から漏れるくらい」
“害虫がいたら”
「すぐに撤去」
“任せたからなっ”
「おう。土産期待してるからな」
徐々に芽吹き、枝が伸びてきたバラを見下ろしながらケータイで会話をする。
まるで自分の子供の世話を頼むように神崎は念を押した。
姫川としては、ほぼ毎日神崎と会えるのだが、園芸ばかりに気を取られている神崎に良い気はしない。
植物相手に嫉妬していることに気付いた自分に頭を抱える始末だ。
だからといって、植木鉢に当たるような愚かなことはしなかった。
しゃがみ、伸びてきた枝を人差し指でつつく。
「さっさと咲け」
(オレと花、どっちが大事か、なんてアホなこと言い出す前に)
「いてっ」
瞬間、茎のトゲが指に刺さった。
*****
栽培にあたり、たまにこんな光景も見る。
姫川は家に帰ってダイニングに入る、珍妙な光景に目を丸くした。
フローリングに新聞紙を敷き、その上に置かれた植木鉢と、うつ伏せに寝転がってちまちまと割りばしでなにかを取っている神崎だ。
「…なにしてんの?」
一瞬、そこに踏み入れるべきかどうか迷った。
「害虫駆除」
茎にアブラムシがついてしまったので割りばしで取っているとのこと。
取ったそれは、使い終わったポマードの容器に入れられていた。
「なんでそんなアザラシみたいな体勢なんだよ」
「こっちの方がやりやすいから。葉の裏も見えるし。外、今雨降ってるし…。勝手に中に持ち運んで悪いな」
「それはいいけどよ…」とコートを脱いで椅子にかけた姫川は、神崎の向かい合わせになるように移動してしゃがんだ。
視線だけ見上げ、口をポカンと開けた神崎を見て思わず噴いてしまう。
「なんだよ」
「間抜けな顔してんぞ」
「うっせぇ。笑ってねえでてめーも手伝えよ」
「えー」
「オレはこの体勢で1時間頑張ってんだぞ」
「1時間もか」
「なんか夢中になってくるから」
「1時間もか」
「繰り返すな。この割り箸つかえ」
「ん」
「ちょっと待った」
「ん?」
「リーゼント下ろしてこい」
「なんで」
「この距離だと割りばしより長いから。ムシがつくぞ」
仕方なくリーゼントを下ろしてきた姫川は、神崎から新しい割りばしを受け取り、神崎の向かい側で同じくうつ伏せになりながらアブラムシの駆除にあたった。
「……じわじわ夢中になってくるな…」
「ほらな? ……あとで背中踏んでくんねーか? 今ならバキバキ鳴りそうだ」
「ははっ。やっぱり疲れてんじゃねーか」
「だから、1時間もこの体勢で…」
「1時間もか」
「…ッ!」
苛立った神崎は先程アブラムシをとっていた割りばしの先で姫川の額を突いた。
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