小さな話でございます。
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「ヒマしてるなら家に来い」と神崎の誘いを受け、上機嫌で神崎の家に遊びに来た姫川は、神崎の部屋にいる面子に顔をげんなりさせた。
ベッドに腰掛けた神崎の膝の上に載せられた二葉と、ベッドに背をもたせかける城山と夏目がテレビゲームしていたのだ。
「腰巾着とコブ付か」
部屋だけは2人っきりかと期待していたというのに。
姫川の反応に顔をムッとさせるのは二葉と城山だ。
「腫れ物みたいに言ってんじゃねーよ!」
「オレは腰巾着じゃなくて側近だ!」
「嫌なら帰っていいんだぜ?」
テレビから目を逸らさずに神崎が冷たく言うと、姫川は肩を落とし、「いや、帰るつもりはねえけど…」と呟きながら部屋に足を踏み入れ、さりげなく神崎の隣に腰掛けた。
画面を見ると、ゲームはカーレースだ。
コントローラーは4つあり、神崎、二葉、夏目、城山がプレイしていた。
ゴールまで、あと1周。
先頭は夏目と神崎が並び、その後ろを二葉が走り、城山は気付いているのかいないのかコースを逆走していた。
「もらったぜ、夏目!」
「させないよ」
トップを獲るのは、夏目か、神崎か。
姫川も勝敗の行方を傍観し、「あ」と気付いたことがあった。
「「「あ!!」」」
ゴールが目前まで近づいた時、逆走してきた城山の車が正面からぶつかってきたのだ。
同時に声を上げる神崎組の車はスピンした挙句壁に激突し、後ろを走っていた二葉はその横を通過して見事に逆転勝利を手にしたのだった。
「二葉様の勝利~」
二葉はコブシを掲げ、神崎はキッと城山を力強く睨みつける。
「城山このヤロウ!!」
「すんません!! こんなはずでは!!」
城山は神崎に土下座し、夏目はそれを見ながら苦笑していた。
「面白いから、逆走してるの黙ってたバチが当たっちゃったねー;」
「次はオレもやらせろよ。ぶっち切ってやるからよ」
姫川は夏目からコントローラーを受け取ったが、二葉は「そろそろ飽きてきたぞ」とぼやいた。
「おいガキ、オレとやるのがイヤなのかよ」
「目がつかれた」
二葉は素直にそう言って目を擦った。
「ゲームは1日1時間だからな」
きっぱり言う神崎だったが、「てめーも徹夜でゲーム勝負してたろが」と姫川はつっこむ。
「じゃあゲーム以外で遊ぼうか」
そこで夏目は、部屋の隅にあった、“二葉ちゃんのオモチャ箱”と書かれたダンボールを勝手に持ってくる。
「オモチャ箱って…」
「親父が孫バカぶりフルに発揮させて手当たり次第買いまくったモンが詰まった箱だ」
中身は、ぬいぐるみや、スケッチブック、クレヨン、アニメのグッズなどが入ってある。
漁っていた夏目はあるものを取り出した。
「女の子らしく、ままごとでもする?」
取り出したのは、ままごとセットだ。
「「「ままごと…」」」
城山、神崎、二葉は、そんなものまであったのか、と言いたげに声をそろえた。
「フン。たまにはお子ちゃまらしい遊びに付き合ってやるか」
不敵に笑った二葉は仕方なくといった態度だ。
「ちなみに、ままごとってのは、漢字にするとこうだ」
姫川はスケッチブックを手に取り、青のクレヨンで“飯事”と書く。
「“ママ事”じゃねーのか!?」
神崎は初めて知った。
「そんな話は置いといて、誰がどの役やる?」
夏目が尋ねると、すぐに姫川が名乗り出る。
「オレ父親、神崎母親」
「却下だ。しまえ。着てほしそうにエプロン出すな。しまえ」
なぜかピンクでフリルの可愛らしいエプロンまであった。
「二葉ちゃんに決めてもらおう」
城山が提案を出すと、二葉は指をさしながら役を決めていく。
「二葉がお父さん、はじめがお母さん、しんたろーが子ども、たけしが犬…」
「オレは?」
「近所のオッサン」
「「ぷ―――(笑)」」
てっきり「お兄さん」と言われるかと思ったが、家族ですらなかった。
神崎と夏目は口元に手を当てて露骨におかしく笑い、姫川は舌打ちする。
役らしく、二葉はネクタイを締め、神崎は嫌々ながらもエプロンをつけ、夏目は野球帽を被り、城山には犬耳と首輪が取り付けられた。
「ちょっと待て。スルーしかねるモンがあったぞ」
やはりつっこむ神崎に構わず、ままごとが始まった。
朝食も食べ終え(たフリ)、二葉は仕事用のカバンを持って立ち上がる。
「じゃあ仕事に行って、いっぱい稼いでくるからなっ」
「おとーさんのお仕事ってなんだったっけ?」
子どもらしく無邪気に聞いた夏目に、二葉は肩越しに振り返って答える。
「1日で1億稼げる仕事」
「明らかにカタギの仕事じゃねーよな!?」
「ワン!」
せめて、ままごとくらいはカタギの仕事についてほしいと願い、将来を心配する神崎と城山。
「あ」
思い出したように、皿を片付ける神崎に歩み寄る二葉は、神崎の頬にキスをした。
「行ってくる」
「い…、いってらっしゃい」
どこで覚えてくるんだ、と動揺を隠せない神崎は、家(部屋)を出る二葉を見送った。
「じゃあ、シロの散歩でも行くか…。夏目、よろしく」
夏目にリードを渡す神崎。
「キャイン!?」
「えー、おかーさんいつもそうやってオレばっかり散歩押し付けるー」
「主婦は大変なんだからな。掃除したり、買い物行ったり、おまえらのごはん作ったり…」
そういうことで二葉が戻ってくるまで部屋の掃除でもしようかと思ったときに、ドアがノックされた(インターフォンがないので)。
「はーい」
神崎はドアに近づき、「どちらさまで?」とドア越しに尋ねる。
「隣の家の者です。回覧板まわしにきました」
扉を開け、ようやく、部屋の外で待機していた姫川が登場する。
その手にはちゃんと回覧板がある。
半開きのドアから「どーも」と礼を言ってそれを受け取る神崎だったが、ドアを閉めようとしたところで、向こう側から力任せにドアが開けられる。
「奥さん」
「へ?」
驚いた瞬間、その場に押し倒されてしまった。
「うわっ!?」
「最近、夜、ご主人に相手されてないでしょう?」
「いきなりなんだ!?」
打ち合わせもない昼ドラな設定を作られ、戸惑う神崎の頬を姫川は優しく撫でて薄笑みを浮かべ、裾の中に手を入れる。
「可哀想な奥さんだ。オレなら満足させてあげられるのに」
耳元で低く囁かれれば、意に反して顔も真っ赤になる。
「奥さん…」
「や、やめろよ…っ、ガキと犬が…見てんだろ…っ」
「そこはノるんだ?」
「ガルルルルッ!!」
城山が姫川に噛みつこうとした時、戻ってきた二葉、
「はじめー、ジジイと他の連中も混ざりたいって」
と、神崎のご家族の方。
部屋の光景を見た瞬間、確かに、二葉の背景が殺気立った。
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