リクエスト:地の果てまでも。
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姫川は大きめの虫カゴを手に、屋上の欄干に背をもたせかけて座っていた。
オレと目が合うなり、立ち上がり、いきなり全力で走ってくる。
「神崎ー!!!」
「ギャアアアア!!」
両腕で抱きしめられ、横顔にリーゼントをぐりぐりと押し当てられた。
息苦しく、背中の服を引っ張ろうにも剥がれてくれない。
「やめ…っ、姫川っ、苦しい…っ」
絞り出すように言うと、姫川は手加減のない抱擁に気付いて「おお、悪い」と離れてくれた。
「久しぶりに顔見たからつい…。さっきヘリで戻ってきたところだ」
改めて姫川の全体を見ると、最後に見た姿とは違っていた。
リーゼント、アロハ、色眼鏡はいつものことだが、肌は少し焼け、頭には包帯、体のところどころには絆創膏が貼られていた。
「おまえ…、本当に捜しに行ったのか? ツチノコ…」
「ああ。全国の目撃情報をもとに山や森、樹海を捜したが、偉人の埋蔵金や縄文土器が見つかるだけでツチノコは見つからなかった」
「いや待てっ!! それも凄くね!!?」
ツチノコより儲かってるじゃねえか。
「で、地球の裏側まで捜しに行って、見つけた」
「色んな意味で、マジっっ!!?」
姫川は一度オレに背を向け、欄干の傍に置いた虫カゴを手に取って戻って来た。
ここで、ツチノコの特徴をあげておこう。
普通のヘビと比べて、胴の中央部が膨れている。
2メートルほどのジャンプ力を持つ。
高さ5メートル、前方2メートル以上との説や、10メートルとの説もある。
「チー」などと鳴き声をあげる。
めっちゃ素早い。
毒持ち。
ドキドキしながら虫カゴをのぞいてみると、中には確かにヘビが入っていた。
50センチくらいのヘビ。
チロリと赤い舌を出している。
胴の中央部が膨れているのはツチノコと一致している。
「ジャングル歩いてたら、いきなり木の上から襲いかかってきやがった」
ジャングルってどこの国歩いてたんだ。
「おまえ大丈夫だったのか?」
「おかげさまでな」
思い出したくもなかったのか顔が青い。
「ボディーガードがいなきゃヤバかった」と付け足す。
「これがツチノコ…」
ツチノコって海外にもいたのか。
「神崎、約束…忘れてねえよな?」
あ、そうだった。
オレはギクリとしてしまう。
まさか本当にその手でツチノコ捕まえてくるとは思わなかった。
「……………」
「まさかなかったことになんて…」
「…するわけねーだろ。オレも男だ。ハラはくくる」
オレは虫カゴから視線を上げ、姫川と目を合わせた。
「じゃあ…、約束通り…」
「てめーのになってやるよ。……で、てめーのモンになったオレはどうすりゃいいんだ? 足でも舐めればいいのか?」
そう言うと姫川はキョトンとした顔になった。
「? そういうプレイが好きなのか?」
「は!? プレイ!? なにキモいこと……」
虫カゴを足下に置いた姫川はもう一度オレと視線を合わせると、いきなりオレの肩をつかんで引き寄せた。
ちゅっ、とリップ音が自分の唇から聞こえた。
「…………~~~~!!?」
「あ。顔赤い…。かわいいなぁ」
そう言って姫川はオレの頭を撫でてくる。
「おま…えっ…!」
後ずさり、口元をてのひらで覆って激しく動揺するオレをよそに、姫川は満足そうな顔をしていた。
「ようやく手に入れた…」
「…オレが欲しいって…、まさか…」
「付き合ってくれって意味だけど? 恋人として」
「!!!」
てっきり下僕とかそういう意味だと思っていた。
オレが鈍感だったのか。
いやいや、こいつが紛らわしい言い方するから。
今思えば、突然抱きしめてきたりとか尻撫でてきたりとか、嫌がらせでもあそこまでしないか。
「なんで…」
「「なんで」? 特別な意味で神崎が好きだからに決まってんだろ。ぶっちゃけ結婚したいとも思ってる」
「け…っっ!!?」
どうしてこいつは恥ずかしげもなくヤロウ相手にそんなこと言えるんだよ。
「まあそれは卒業してからでもいいか」
「勝手にオレの人生設計決めんなっ!!」
「のってくれてもいいだろ…。神崎はオレのこと嫌いか?」
「き…っ」
嫌い、と答えようとしたが、こいつがいない間の自分を振り返ると言葉がうまく出ない。
「嫌い…じゃねえけど…」
「じゃあこれからでいいじゃねえか、好きになってくれるの」
姫川はそう言ってオレの背中に手をまわして優しく抱き寄せる。
こいつのオレに対する「好き」は信じていいのかもしれない。
普通、ツチノコなんてふざけたものとりに、海外まで行って、危険な目に遭ったりしない。
1週間と5日。
体の傷を含め、それが証明している。
急展開に未だについていけないオレだが、今は、傷だらけの腕を振りほどくことはできず、姫川の好きにさせることにした。
ちなみに、あのヘビはツチノコではなく、単に食べすぎて太ったヘビであることが数日後に発覚したが、その時のオレは馬鹿馬鹿しく思いながらも、そんな事実はどうでもよくなっていた。
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