小さな話でございます。
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今日は神崎の誕生日ってことで、前々日からしつこいくらいに、今日オレの家に来るようには言っておいた。
家の用事が済んでから来るらしい。
本人は詳細を話さなかったが、この日で家の用事っつったら、誕生日パーティーのことだろう。
あの平和ボケ一家は盛大にそういうことやりそうだけどな。
オレもやってた時あったわ。
やるたびに、憂鬱だったけどな。
どいつもこいつも愛想のいいツラでヘラヘラと「おめでとうございます」。
人間の裏も熟知してたオレは、そいつらが裏では利益や媚を売るためだとわかっていたから、途中でパーティーを抜け出すこともあった。
神崎と付き合い始めてからだろうか。
自分が生まれた日があってよかった、と。
生まれて初めて、金以外で喜んでもらうような物を贈りたい、と思ったのは。
2ヶ月前は神崎が祝ってくれたし、オレも神崎を盛大に祝ってやりたい。
「―――ということで、神崎のために一流のパティシエが作ってくれた、この超特大ヨーグルッチケーキタワー!!」
天井までぎりぎりの高さの10段重ねのデコレーションケーキタワーだ。
生クリームはヨーグルッチ味。
一段一段スポンジの味も違う。
凝ってるだろ。
値段は内緒だ。
本当はもっと段を重ねたかったが、蓮井に「天井に穴を空けるおつもりですか?」と笑顔で止められた。
一般のウェディングケーキも泣いて逃げ出すだろうな。
たらふく食べたあとは、オレからこれまた値の張ったピアスをプレゼント。
それで今度は神崎をベッドで美味しくいただくって流れで。
計画通り(夜神顔)。
テンションもそれなりに上がるってもんだろ。
その前にあいつ、ちゃんと時間通りに来るんだろうな。
腕時計を確認すると、22時を過ぎていた。
誕生日の期限が迫るにつれて焦りも増してくる。
オレは今日のうちに神崎を祝いたい。
もし23時半を切っても来なかったら、あいつの家に直接乗り込んでやろうか。
そう考えた時だ。
ピンポーン
インターフォンが鳴った。
「!」
インターフォンの画面を見ると、やはり神崎だ。
“開けろー”
画面に映った神崎の顔はほのかに赤い。
あれ、こいつもしかして酔ってないか。
腹いっぱいで「ケーキいらない」とか言ったらどうする。
“ひーめーかーわー。来てやったんだから開けろよー。神崎さんを待たせんじゃねーよー”
画面越しで促す神崎に、オレはとりあえず中に入れることにした。
ボタンを押してマンションのドアを開け、神崎は少しよたつく足で入ってくる。
どの部屋かはちゃんと言っておいたし、玄関の鍵も開けておいたから勝手に入ってくる前に、オレはケーキを載せた台車をドアの前まで押す。
ダイニングに足を踏み入れる前にびっくりさせるためだ。
本人はオレも誕生日を祝ってやることを知ってるからな。
このケーキを見て度肝を抜きやがれ。
神崎が入ってきたのか、玄関の方からドアを開けて閉める音が聞こえた。
よし、こい。
こっちの準備は万端だ。
ケーキも今か今かと…あれ? ケーキが傾いてきたような。
気のせいではなく、オレが台車を押したせいでバランスが崩れてしまったのだろう。
ケーキはゆっくりとドアの方へ倒れていく。
ピシャの斜塔が倒れる時はこのような光景だろう。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ったああああっっ!!!」
「んあ?」
ちょうど神崎も入ってきた。
目前に飛び込んできたケーキに目を丸くしたのが見えた。
オレは台車を引こうとしたが、手遅れだった。
グシャアッ!
「神崎―――っっ!!」
神崎は、ケーキの下敷きになってしまった。
早く救出しようと神崎がいた位置に駆け寄ってみると、本人は自力で這い出てきた。
頭と体はすっかり生クリームとスポンジにまみれている。
「か、かんざ…」
オレが呼びかける前に、神崎はこちらに歩み寄ってきて、後ろからオレの腰に両腕を回し、
「そぉいっ!!」
ケーキのある方に反り投げ、ジャーマン・スープレックスをかました(男鹿が東条を倒したあの技な)。
オレは見事ケーキの中へと突っ込まれ。
神崎と同じくケーキまみれになる。
このあとどんなプロレス技をかましてくるかと思い、顔面についたケーキを手で拭おうとした時だ。
しゃがんだ神崎が、拭おうとしたその手をつかみ、オレの顔に自分の顔を近づけて付着したケーキを舐め取った。
唖然とするオレの顔を見た神崎は小さく笑う。
「とんだサプライズだな、このヤロウ」
てっきりオレをボコボコにして怒って帰るかと思いきや、家で飲まされた酒のせいだろうか、今日という特別な日のせいだろうか。
とりあえず、このケーキがバースデーケーキとは理解してくれたようだ。
「神崎、誕生日おめでとう」
計画は少し狂ったが、これが結果オーライというものか。
そう言ってオレは神崎の鼻についた生クリームを舐め取り、キスを贈った。
神崎は「また年並んだな」と照れ笑いをして、オレの頬のクリームを舐め取って、キスを返された。
神崎の誕生日なのに、胸焼けするほど嬉しかった。
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