小さな話でございます。
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放課後、聖石矢魔の校舎に入り、一人でヨーグルッチを買いに行ったその帰り、廊下の奥の窓の向こうに、見間違えるはずもない後ろ姿があった。
アロハであの銀髪はどう見てもあいつだ。
なにをしているのか。
また懲りずにケータイをいじっているのだろう。
しかしなんだってあんな場所で。
疑問を浮かべながらも、オレは足音が聞こえないように少し速度を落とし、やや忍び足でその背後に忍び寄った。
まあ、窓で遮断されてるから、聞こえるかどうか知らねえが、一応あいつ耳いいからな。
このまま一気に開けて驚かしてやろうと悪戯心に突き動かされ、オレはそっと窓枠に手をかけ、一気に窓をスライドさせた。
「ばぁ!!」
「好きです!! 付き合ってください!!」
オレの発声は、勇気を振り絞ったその声にかき消されてしまった。
「!!」
姫川の背中で見えなかったが、そこには姫川と、聖石矢魔の制服を着た女子がいた。
今のって、告白?
「あ…」
真っ赤に顔を染めた女子は、向かい側のオレに気付いて驚いたように目を丸くした。
それに気づいて、姫川も肩越しにこちらに振り返る。
「か…、神崎…」
姫川もキョトンとしている。
「…あ―――…」
オレは引き笑いで誤魔化そうとするが時間の問題だ。
おいどうするんだこの空気。
間が悪いにもほどがあるだろ。
女子の顔を見ると、姫川如きにはもったいないほどの美人だ。
巨乳ってのもこいつの好条件だな。
バレーの一件で、素顔もバレたこいつは女子の注目の的だ。
モテることはわかっていたはずだ。
放っておかれるはずがないって。
しかし、その女子の群れを敵に回しかねないのが、オレがこいつと付き合っていること。
当然、周りにはバレてねえし、オレがバラしたくねえ。
告白してきたのは姫川の方だし、今までの遊んできた女との縁も切ってくれるって約束した。
だから、この告白もきっと断ってくれるだろう。
なのに、どうしてこんなに不安になってしまうのだろうか。
いざ、告白されたところを目の当たりにすると、疑問に思う。
こいつは、どうしてこのオレを選んだのか、と。
美人でもなければ、胸があるわけでもないのに。
「神崎…、これはな……」
ああ、言い訳しなくても、わかってるから。
おまえはなにも悪くねえ。
オレはなにも言わずに窓を閉め、何事もなかったように走り去ってやるつもりだ。
「こいつは…」
あれ…?
気付けば、オレは姫川の首に腕を回し、自分に引き寄せた。
「!」
「こいつはオレんだから、空きがねえから諦めてくれ!!」
押し寄せた不安が、オレにそう口走らせていた。
空気がまた変わったのを感じたオレは、顔が熱くなるのを感じ、「そーゆーことだから!!」と走り去った。
「神崎!!」
思いっきり走ってんのに、あいつは窓から入ってきたのかすぐそこまで追いかけてくる。
「神崎! 今のって…!!」
「あ゛―――!! あ゛―――!! うるせ―――っ!!」
オレは両耳を両手で塞ぎながら廊下を走る。
「待てよ神崎!! おまえ、バラすの嫌がってたんじゃ…」
「しつけえよ!! てめーも女も!! ああでも言わねえとてめーのこと顔でしか見てねえ女共が寄ってくるだろうがっ!! てめーも、相手いるような素振りくらい見せろバカ!! 首に、「神崎さんの」って札かけとけ!!」
ぐっちゃぐちゃだ。なに言ってんだよ、オレ。
「!!」
下駄箱が見え、そこの昇降口から出る前に、オレは姫川に肩をつかまれ、靴箱のロッカーに背中を押し付けられる。
「…っ」
どちらも息を荒くしながらも、真っ直ぐに見つめ合う。
「もう一度言ってくれよ…。てめー、今、スゲーこと言った…」
知ってる。
このまま、穴の代わりに靴箱の中に入ってしまいたい。
サイズ合わないけど。
「神崎…、首に札かけるのもいいけど…、所有の証の付け方くらい知ってんだろ?」
そう小さく笑ってオレの首筋を指先で撫でる。
「……はぁ…。早く倦怠期来ねえかな…」
「一生来ねえよ」
ため息交じりに言うオレを抱き寄せ、オレは顔のがちょうどいい位置にあったので、姫川の首筋にわざと痛いように噛みつき、証をつけてやった。
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