リクエスト:コールコールコール
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月曜日。
登校日だってのに、あいつの姿が教室になかった。
遅刻か。
サボりだったらオレの携帯にメールか電話がくるはずだ。
つまんねえ授業中はたまにあいつの席をチラチラと窺ったり、携帯と睨めっこしたり、実は来てるんじゃないかとヨーグルッチ買いにいくフリして下駄箱を確認したり。
「神崎君、わかりやすーい(笑)」
夏目を黙らせたり。
しかし結局、その一日、あいつは学校に姿を現さなかった。
風邪でも引いたか。
家に到着し、自室で私服に着替えてベッドに寝転がり、携帯と睨めっこ第8ラウンドを始める。
着信履歴、なし。
メール、0件。
「…はぁ」
一日会えないくらいでどうしてこんなため息がでるのか。
メシ食うみたいに、当たり前みたいに思ってたのだろうか。
メールフォルダを開き、何気なくあいつの写真を見る。
ちなみにあいつの写真の入ったフォルダにはロックがかかってある。
夏目がふざけて開いてしまわないようにだ。
リーゼントのあいつ、髪下したあいつ、風呂上がりのあいつ…。
とりあえずそんなあいつが3ケタフォルダに入ってくると思ってくれ。
具体的に言うとオレ自身がドン引きする。
その時だ。
着信が入った。
画面に映された番号と名前は、姫川から。
一瞬心臓が止まりかけたオレは着信が途絶えてしまう前に通話ボタンを押して耳に当てる。
「も、もしもしっ?」
声が裏返った。
“携帯いじってたのか? 出るの早ぇな”
待ってたとは言わない。
しかし声を聞く限り元気そうだ。
風邪じゃなかったのか。
「てめーはなにしてたんだ、サボりめ」
“あ? 佐渡原から聞いてねーのか? オレ今北海道で旅行中なんだけど”
「北海道!?」
その地名くらい、地理が苦手なオレでもわかる。
寒くて、海に囲まれてて、沖縄とは反対の場所で、日本で一番でかい面してるところだ(←北海道住民に失礼)。
「土日に行けよ」
“バカ。土日使うとてめーと遊べねえだろが”
そういや昨日も遊んだな。
遊びっつーか、姫川の家でただごろごろしてただけだけど。
「…それで、いつこっちに戻ってくんだよ」
“1週間くらい”
長いな。
「あ、そ。お土産よろしく。…あれだ、白い変人とか」
“恋人な”
「あとおまえの顔そっくりなキーホルダー。いやらしい顔した…」
“…まりもっこ●?”
「それだ」
“てめぇ、オレが戻ったら覚えてろよ”
電話越しに引きつった笑みを浮かべているのが目に見える。
「1週間くらいだろ? 忘れてるっての」
お土産の予約もして、10分くらい長電話して、オレから通話を切った。
そして、物足りなさを感じた。
火曜日。
授業中、あいつからメールが来たので机の下で開いて見る。
件名:やばいんだけど
おまえに会いたいんだけど、今すぐ来てくれる?
件名:だったら
とっとと戻ってこい。ムチャ言うな(怒)
件名:今すぐ
写真送って。
神崎の写真ちょうだい
件名:やだ
今授業中だっつーの(▼皿▼)
件名:神崎様
(>人<)
仕方がないので、奥の席にいる夏目にメールを送ってオレの写真でなにか持ってないかと要求し、すぐに添付されてきた。
ヨーグルッチを握りしめて自分の顔にぶちまけちまったシーンだ。
パパラッチになれるぞ、夏目。
そしてあとで奴のフォルダから消去させてやる。
戸惑った挙句、それを送りつける。
すぐに返信が返ってきた。
件名:おい
オレを殺す気かっ!!(*´д`*)ハァハァ
顔文字がリアルで気持ち悪い。
お気に召したようだが、オレとしては送信したことを後悔している。
しばらく無言を返していたら、また一方的にメールがきた。
本分なしで、写真が添付されてる。
開くと、リーゼントのあいつが両手に2体の小さな雪だるまを載せて笑っていた。
撮影者はあの執事だろうか。
右手にはリーゼントの雪だるま、左手には耳と口の部分に小さなチェーンをつけた雪だるまだ。
自分とオレのつもりか。
写真はもうひとつつけられてある。
さっきの雪だるまが向かい合わせになってキスしてる。
2枚目にあいつの姿はないので、これを撮影したのはあいつだろう。
オレは返信する。
件名:似てる(笑)
北海道なら、1年中溶けずに残ってるかもな
写真はロックフォルダ行き。
水曜日。
夕食を食べたオレは自室に戻り、薄暗い部屋の中、メールを開いた。
メール1件。
件名:北海道なう
知ってる。
全然「なう」じゃない。
添付された写真には、無数の星が映っていた。
やっぱり画質いいな、あいつの携帯。
「おお、スゲー…」
すぐに着信音が鳴った。
びっくりしたオレの手から携帯がジャンプする。
着信は姫川からだ。
いつもビビらせてくれる。
通話ボタンを押し、電話に出る。
“メール見たか?”
「今見たとこ。スゲーな。同じ空とは思えん」
オレはベランダに近づいて空を見上げたが、やはり都会なのがいけないのかあまり見えない。
“今度、一緒に見ようぜ”
「今度っていつだよ」
“じゃあ、今年以内。オレは口約束しないからな”
「…そうだな」
“学校、なんか変わりあるか?”
「いや? 特にねえよ。今日も男鹿と坊主は授業中に昼寝してたし、古市はうざかったし、邦枝は男鹿ばっか見てたし、東条はバイトに行ってたし、夏目と城山はオレのためにヨーグルッチを買ってきた」
“…神崎は? なにしてた?”
「オレ? …ヨーグルッチ飲んでるか…、てめーとメールしてるか…」
よくよく思えば、メールの1日返信数が過去最高だ。
“オレがいなくて寂しい?”
「毎回鬱陶しいくらいくっついてくる奴がいなくて清々してるとこだ。モサヌメリーゼントもすりつけられることもねーしな」
“オレ愛用の整髪料はそれほどヌメついてねーからな”
整髪料使ってるクセに、下ろした時の髪はなぜかムカつくほどサラサラストレートヘアーだ。
オレはベランダの空を見上げたまま、姫川と会話を続けた。
どれくらい話しただろうか。
「北海道ってクマいんのか?」
“さすがに街中にはいねえけどな”
「いたら写真撮って送れよ」
“ヤダよっ、写真撮るどころかオレが命取られるっつーのっ”
「うまくねえよ(笑)」
笑っていると、姫川は突然思い出したように「あ」と言った。
“悪い、そろそろ。明日も早ぇんだ”
「…そっか…」
また、じわじわと寂しさが圧し掛かってくる。
“神崎…”
「ん?」
耳元で、チュ、と音がした。
すぐになんの音か理解し、顔どころか耳まで熱くなる。
「おま…っ」
“じゃーな”
言葉を発する前に向こうから通話を切られた。
あいつ今どんな顔してんだ。
くすぐったい。
耳がすごくくすぐったい。
本当に奴の唇が耳に当たったみたいに。
木曜日。
そろそろオレも奴の顔がみたくなってきたのかもしれない。
かもしれない、だぞ。
このオレが直接メール送ってやったのに、あいつから返信が来ない。
返すヒマがないのかもしれない。
オレがピリピリしてるのは、夏目と城山にも伝わったようだ。
ヨーグルッチがいつもより多い。
こいつらもだいぶオレのことがわかってきたじゃねえか。
それに比べて、オレがこんなに不機嫌だっつーのに、MK5の声がいつもより騒がしく、耳障りだ。
そんな空気読めない5人組に、オレは「うるせぇ」と机を投げつけて黙らせた。
完全な八つ当たりだな。
知ってる。
帰宅の途中で、オレは「用があるから」と夏目と城山と別れ、本人不在のマンションの前まで来てしまった。
遠回り。
日が沈むなか、奴が住んでる階を見上げ、「なにしてんだオレ」と自分自身に呆れを隠せなかった。
こんなところに来たって、あいつが窓から手を振ることも玄関を開けることもない。
ポケットの中の携帯を握りしめ、悩んだ末、こっちから電話をかけることにした。
今はあいつの声が聞きたかった。
電話を鳴らす。
1コール、2コール、3コール…。
出ない。
もう一度。
1コール、2コール、3コール…。
出ない。
あいつもこんなもどかしい気持ちでオレにかけてくるのだろうか。
最後の1回。
1コール、2コール、3コール。
3度目の正直、通話ボタンが押された。
「姫か…」
“あれ? あんた誰?”
聞こえてきたのは、女の声だ。
“姫ちゃんの友達? あたし、てっきり彼女かと思っちゃったぁ”
鼻につく喋り方だ。
オレは声を低くして言い返す。
「そっちこそ誰だ。姫川は?」
すると、電話越しに「おいふざけんな、返せ」と聞きなれた声が遠くの方で聞こえた。
“もしもし、神崎か?”
取り戻したのか、今度こそ本人が出た。
「……人がメール送ったり電話かけてるっつーのに…」
思ったより怒った口調になってしまった。
“悪い。ヒマがなくて…”
「女と遊ぶのに忙しそうだもんな、姫ちゃん」
“わー、スゲー不機嫌”
呑気に言うな。
怒ってんだぞ。
無言のオレの空気を読みとったのか、姫川は慌てて言う。
“今ススキノなんだ。さっきの女は浮気じゃねーよ。勝手に絡んできて…。親父の相手だったのにこっちに移ってきて…”
“姫ちゃーん、電話してないでこっちおいでよぉ”
“今大事な話を…”
電話越しの会話を聞いてるだけでイライラが募り、タイミング悪く電話してしまったことを後悔した。
「切るぞ」
“待て、神崎”
「切るからな」
かけたのはオレだけど、一方的に切ってやった。
ついでに電源も。
あいつ、戻ってきたらそっちこそ覚えてろよ。
オレもこんなとこに来なけりゃよかった。
もう一度あいつの部屋を見上げる。
真っ暗なまんまだ。
金曜日。
昼ごろに電源を入れてみると、どこのストーカーか言いたくなるぐらいの着信とメールがあった。
着信、30件。
メール、20件。
悪かった、本当に絡まれてただけなんだって、無視か、返信してくれ、頼むよ…。
メールはほとんど言い訳とか謝罪、返信要求。
ちょっとムカついてブチっただけなのに、オレって意外と彼氏を振りまわすタイプかもしれない。
…女じゃねえけど。
昨日は機嫌悪かっただけだし、今はそんなに怒っていない。
件名:not title
もういいから。
その一文を送信した。
なのに、今度はあいつから返事がこなくなった。
なんだよ。
次はてめーが拗ねたのか。
仕返しなのか、それからあいつからの連絡はプッツリと途絶えた。
電話はかけなおさず、メールは送らず、オレはずっと携帯を握りしめていた。
電源切るのはさすがにやりすぎたか。
帰宅したあとは、のんびりとメシを食べて、風呂入って、風呂上がりのヨーグルッチを飲んで、自室でベッドに腰掛けてテレビを見てた。
もう一度画面を確認する。
メールは何件かあったけど、姫川からきていない。
テレビもつまんなくなってリモコンで消し、ベッドに寝転んだ。
このまま寝てしまおうかと思ったが、あいつが今どうしてるのか気になって眠れない。
「…ああ、クソ…っ」
終電、まだ間に合うか。
*****
時間は午後11時。
辺りは当然真っ暗だ。
マンションの前に立ったオレは姫川の住む階を見上げた。
昨日と同じく、どの階も真っ暗なまんまだ。
マンションの玄関前に設置されてあるインターフォンに近づき、あいつがよく使用している部屋の番号を入れて呼び鈴を鳴らしてみる。
しばらく待ってみたが、反応はない。
もう一度鳴らす。
やっぱり反応はない。
どっちがストーカーなんだか。
「……………」
ポケットから携帯を取り出し、画面を見る。
着信もメールもきていない。
意を決したオレは自分から電話をかけることにした。
明後日、あいつが戻ってくる。
そしたらちゃんと出迎えてやりたい。
姫川のアドレスを開き、躊躇いがちに通話ボタンを押してゆっくりと耳に押し当てた。
すると、姫川はすぐに出た。
「わ、悪い…、寝るとこだったか?」
姫川は無言だ。
「姫川?」
怒ってるのかと思ったが、はっとしたように返事が返ってきた。
“いや…、びっくりした…。ちょうどオレも電話かけようとしたとこだったから…”
それが本当ならなんてタイミングだ。
“…あのよ、「もういい」ってのは…”
声に元気がない。
もしかしてオレ、返し方間違ってたのか。
「……もう怒ってねえって意味だ」
“そっか…。よかった。投げやりにされたのかと思った…”
「んなワケねーだろ。…まあ、てめーが今他の女と一緒にキャッキャしてるならまたブチるけどな」
“……………”
「姫川?」
オレの中に再び不安がよぎる。
冗談で言っただけなのに、まさか。
“神崎、そういうおまえは今どこでなにしてる?”
「どこって…」
マンションの前でおまえと電話してる、とは言えない。
「家でテレビ見ながらてめーと…」
“てめーが家にいるなら、”「今オレの目の前にいるのは誰だよ?」
「!」
背後から聞こえたはっきりした声に、はっと振り返った。
そこには、肩にボストンバッグをかけた姫川が立っていた。
え、なんで、まだ1週間経ってないのに。
突然現れた姫川になんて声をかけていいのか。
耳に携帯を当てたまま硬直していると、姫川は通話を切ってボストンバッグを足下に落とし、腕を伸ばしてオレの体をきつく抱きしめた。
「姫川…」
「神崎…」
オレを確かめるように匂いを嗅いだり、顔を覗きこんだり。
オレはというと、まだ携帯を耳に当てたままフリーズ中。
でも、姫川がオレのところに戻ってきたんだな、ってゆっくりと実感する。
ようやく手が動けるようになったときには、姫川の背中に手を回して同じく抱きしめていた。
ここ一応マンションの前なのに、そんなことはどうでもよくなって。
「会いたかった」
「オレも」
たったの5日。
それだけでオレ達は限界だった。
1年くらい離れることになったら、なんてことを考えただけでも狂いそうだ。
最初に頬や額にキスされた。
もどかしくなったオレは姫川の顔をつかんで固定し、自分から口付けてやった。
「終電がねえんだ。泊まらせろ」
余裕のないオレの顔を見た姫川が、喉を鳴らしたのがわかった。
「いいぜ。オレも帰らせる気、一切ねえから」
土曜日。
今、朝の何時だ?
もしかしたら昼かもしれない。
腰がすごくだるくて起きれる気がしない。
5日分って怖ぇな。
隣を見るとすぐ横で姫川は寝息を立てて眠っていた。
あのあと聞いた話だと、オレ会いたさに親にムリ言って予定を早めたそうだ。
「せっかくの親子水入らずの旅行だろ」とオレは言ったが、「土日だけはおまえのためだけに使いたい」とか返されたら、なにも言えなかった。
せめて何時か確認しようとベッド脇の小棚に置いた携帯をとろうとした。
見ると、オレの携帯に、見知らぬストラップがつけられていた。
同じく、オレの携帯に寄りそってる姫川の携帯にも。
おそろいか。
まり●っこりかと思えば、白い恋人ストラップ。
そんなものまであったのか。
「神崎ぃ…」
寝惚けた声とともに、ふらふらと伸びてきた手がオレの肩をつかんで引き寄せる。
「ああ、今日は一緒にいような?」
.END