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バスンッ!
姫川の顔面の横を直線に通過したサッカーボールは、ゴールネットを突き破った。
姫川は構えたままフリーズしている。
あれが当たったらどうなっていたのか、姫川だけでなく、神崎達と、外野で傍観していたレッドテイルも想像しただけで冷や汗を流した。
「ゴール!」
「ダッ」
シュートした男鹿はベル坊とともにピースする。
「うぉらぁっ!」
ゴッ!
神崎は背後から男鹿の頭にかかと落としを食らわせた。
男鹿は後頭部を押さえて呻き、振り返って神崎と睨み合う。
「痛いじゃねーか!」
「てめーの殺人シュートは痛いじゃ済まねーんだよっ!! あいつは姫川だが、まるっと幼児だぞ!! 手加減しろや!!」
もっともだ。
反対のゴールキーパー担当の古市も、うんうん、と腕を組んで頷いている。
「手加減なんて面白くもなんともねーだろが!」
「オレは大人げねえことすんなっつってんだよ! ケガしたらどーすんだ!」
「神崎君、完全にお父さん発言だから」
つかみ合いを始め、夏目と城山がなだめながら2人を引き剥がす。
そこへ姫川が神崎のもとに来た。
びびって泣きだすかと思えば真剣な顔でこう言った。
「一、今度はオレが蹴る」
ボールの奪い合いになってケガをしないか心配になったが、神崎は姫川とポジションをチェンジした。
夏目がボールを蹴り、ゲームスタート。
「姫ちゃん、パス!」
夏目のボールが姫川に渡り、姫川は蹴りながら真っ直ぐにゴールを目指す。
「よし、そのまま行け、姫川!」
「がんばれー!」
「姫川先輩ー!」
神崎だけでなく、レッドテイルも応援してくれる。
外見が愛らしい子どもなだけに、普段ならない光景だ。
面白くない、と古市は口を尖らせる。
男鹿は夏目と城山に行く手を阻まれ、姫川に近づくことができない。
「東条!」
男鹿が声をかけると、男鹿チームの東条は「おう!」姫川の目の前に立ち塞がった。
「ボーズ、ここは通さねえぞ」
悪人顔の東条。
相手が東条では分が悪い、とその場にいた全員が思った。
しかし、なにか策があるのか、姫川は止まらない。
「!」
東条は驚いて目を見開いた。
「おにーちゃん、そこぉ、通してぇ…っ」
東条を見上げる姫川の顔は涙ぐみ、かつ、仔犬のように甘える声を出した。
これに心を射抜かれない女子はいないだろう。
カワイイもの大好きな東条も同じだった。
「どうぞ」
あっさりと道を開ける東条。
そんな東条を通過してニヤリと笑む小悪魔姫川。
「「東条!!」」
男鹿と古市は同時に怒鳴った。
「古市! ガキ相手に決められんじゃねーぞ!」
こちらに向かってくる姫川に、古市は構える。
5歳児のシュートなんてたかが知れている。
しかも、姫川は初心者だ。
高校生の男子が止めらないはずはない、と古市は内心でほくそ笑んだ。
ゴール近くで姫川は思いっきりボールを蹴った。
ボールは宙で緩い弧を描き、ゴールへと飛ぶ。
しかし、古市はすでにボールを受け止める位置にいた。
「あ!! あの人、今パンツがモロ見えっ!!」
「え!?」
「は!?」
姫川が指をさした先には邦枝がいた。
まさか風でパンツが見えたのか、と反射的に古市の視線がそちらに向けられる。
ゴッ
「はぅっ」
同時に、ボールが古市の頭にぶつかって落ち、ゆっくりと転がって白線を越えた。
「ゴール♪」
姫川はガッツポーズをとった。
全員が唖然とするなか、夏目は素直に拍手を送る。
「わー、さすが姫ちゃーん」
「狡猾なのも昔からか」
呆れながら神崎は小さく呟いたが、姫川に「一、勝った」と無邪気な笑顔を向けられ、口元を緩ませた。
そのあとも、キャッチボールや、女子も加えたバレーボールや、テニスなど、小さな姫川には経験がなかった球技をやった。
体育館やグランドはほぼ貸し切り状態だ。
一度球技をやめて、今度は鬼ごっこが提案される。
ジャンケンの結果、姫川・古市・夏目が鬼となり、ゲームスタート。
夏目は次々と石矢魔のメンバーを捕まえ、性懲りもなく女子を捕まえようと走る古市はことごとく撃退された。
「攻撃はなしでしょ!?」
「東条捕まえた!」
「お、捕まっちまったぁ」
姫川にわざと捕まってあげる東条。
「かおる、庄次、オレが鬼となったからには、全力で来い!」
「来ませんよ!」
「オレ達は逃げる」
2人は東条に任せ、姫川は次に移行する。
「!」
辺りを見回していると、体育館裏でこそこそと顔を半分出してこちらを窺っている神崎を発見した。
「見つけたぞ!」
「あっ、ヤベッ」
神崎は背を向けて逃走し、それを姫川が追いかける。
「待て!!」
体育館裏を駆ける2人。
神崎は捕まらない程度の速度で走っている。
肩越しに振り返ると、必死にこちらを追いかけてくる姫川が見えた。
ここは大人としてわざと捕まってやろうか、と思った時だ。
「あっ!」
「!」
姫川が転んだ。
「姫川!」
神崎は慌てて踵を返し、姫川に駆け寄った。
「大丈夫か!?」
手をとろうとしたとき、逆に手をつかまれ、姫川は土で汚れた顔を上げた。
「捕まえた!」
その顔は笑っている。
わざと転んだのだろうか。
いいや、立ち上がった姫川の膝は擦りむき、血が流れていた。
痛いのを我慢しているのだろう、体もわずかに震えている。
「……ったく、てめーは…」
神崎はしゃがんで目を合わせ、手を伸ばし、その頭を撫でる。
「5つのガキが大人ぶってんじゃねーよ。泣きたいなら素直に泣けよ。今のうちだけだぞ」
「……………」
姫川はきょとんとした顔になる。
「姫川」
神崎はその小さな体を抱きしめ、背中を軽く叩いた。
「我慢すんな。泣いたところで、誰も嫌がってぬけたりしねーよ。全員、金とは関係なく、おまえと遊びたいから遊んでんだ」
すると、姫川はゆっくりと神崎の首に腕をまわし、「痛い…」と呟いた。
「痛い…。痛いよぉ…っ!」
そして、涙を流し、鼻をすすり始める。
涙声もだんだん大きくなった。
「うううぅっ…!」
「姫川…、意外と男らしい泣き方だな。あと…、そろそろ…ギ…ブ…」
ギリギリと小さな腕で首を絞められ、神崎の顔がみるみると青くなる。
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