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それは、昼休みの石矢魔特設クラスで起きた。
神崎は、ちょこんと席に座っている幼児をじっと見つめた。
見るからに金持ちの坊っちゃんの格好、大きな瞳、サラサラの銀髪は後ろでひとつにくくられている。
「…なにコレ」
誰だ。
いや、元が誰かは頭の中で理解しているが、この現状についていけない。
他の石矢魔クラスメイトも同様だ。
確かこの現状に至るまで、その席には今ではもう見慣れてしまったリーゼントが携帯をいじりながら座っていたはずだ。
それが、昼休みになった途端、男鹿が満面の笑顔とともに「姫川先輩どうぞ」となにか怪しげな緑色の小瓶を渡し、男鹿からの贈り物に怪訝な顔で姫川は、匂いを嗅いだり警戒しながらもそれを口にした。
すると、姫川が突如煙に包まれ、そこには愛らしい男子が代わりに座っていた。
経緯を思い返した神崎は、同じく仰天顔の男鹿に近づき、両手で胸倉をつかんでムリヤリ立たせた。
「どういうことだ男鹿ぁっ!」
「いや…、ヒルダから怪しげな薬もらっちまって…。試しに…」
本人も予測不可能な代物だったようだ。
「怪しげなもんってわかってんならクラスメイトっていうか人間に飲ますなっ! モルモットじゃねえんだぞっ!!」
「モルモットに飲ませるくらいなら人間に飲ます」
「東条、てめーは黙ってろっ。んでっ、男鹿ヨメ、なんの薬なんだ!?」
先程から机に載せたベル坊と戯れていたヒルダは、邪魔するなと言いたげに目付きを鋭くさせて振り返る。
「魔界の薬、“即席! パパっも幼児”。まあ、名の通り、父親が童心にかえって子どもと友達感覚でふれあう代物だ」
「そのネーミングはともかく、童心どころか体まで見事に若返ってんじゃねーか。マカオの薬危ねぇ…」
哀れ幼児化した姫川は、机の上にあるビンをころころと転がしていた。
まだ中身が入っていたようで、机が濡れている。
姫川に近づいた夏目は、真正面で前屈みになって目線を合わせる。
「いくつ?」
目を合わせた姫川は黙ったまま手のひらを広げて見せる。
「5歳の姫ちゃんかぁ。ってことは、13年前?」
「ちなみに、もし薬を一気飲みしていたら、あと20年若返っていたぞ」
「生まれてねええええ!! 危うく消滅してるとこじゃねーかっ!!」
淡々と言ったヒルダに顔を青くしてツッコむ神崎。
すると、無表情だった姫川は眉を寄せて口を開く。
「おい、新しい使用人、さっきからうるさい」
「は?」
その言葉に神崎は振り返り、姫川と目を合わせた。
「わけのわからない会話してないで、オレと遊べ」
机を叩く姫川。
その衝撃で机からビンが落ちて転がった。
「あの…姫川さん?」
神崎は嫌な予感を覚えた。
後ろからヒルダが思い出したように言う。
「ちなみに、心までも童心にかえる」
それを背中で聞いた神崎の頬に冷や汗が流れた。
時間が経過すれば元に戻るらしい。
神崎がほっと胸をなで下ろすと、姫川はふんぞり返って言いだした。
「いくらだ?」
「あー?」
「いくら出せば、オレを満足させてくれる?」
かわいい顔でそんなことを言われた神崎は、
ゴン!
「――――っ!!」
遠慮なくその頭に拳骨を食らわせた。
姫川は頭を抱えてうずくまる。
「てめえは昔からそういう性格か!?」
「なにすんだ無礼モンが!!」
姫川は椅子から立ち上がり、神崎と顔を近づけて睨み合った。
片方が若返ろうがよく見る光景だ。
「かわいくねーガキだな! 素直に遊びたいって言えねえのかよ!」
「……………」
なにを思ったのか、姫川は神崎を睨んだまま椅子に座り直す。
「…名前は?」
「神崎一」
人生で同じ人間に2回自己紹介することになるとは。
「よし、一」
「躊躇わず下の名前かよ…」
「おうまさんになれ」
「……………」
神崎の脳裏に、それを連想させるような姫川との夜がよぎり、首を横に振った。
「却下だ」
「なら、お医者さん」
「……………」
思い出したくもない、他人に言えない1ヶ月前の夜。
再び首を横に振る。
「却下」
「女王様ごっ…」
「おまえ本当に中身幼児か!?」
狙っているとしか思えない遊びがぽんぽんと5歳児の口から飛び出している。
大人な意味で受けとってしまう神崎も神崎だが。
「大体、ごっこ遊びとか、女子かっ。もっと、サッカーとか野球とか…」
「そんなもの、やったことない」
全員が「え」と驚いた。
姫川は「悪かったな」と頬を膨らませてうつむく。
親が過保護だったのか、家を出る機会がなかったのか。
ずっと外で遊んだり、家の者に相手をしてもらっていた神崎には想像できなかった。
「……………」
「!」
神崎は姫川の手をとり、立ち上がらせた。
「だったら、オレが教えてやるよ」
呆気にとられているのをいいことに、神崎は姫川を連れて教室の外へと出た。
「待ってください、神崎さん!」
「2人じゃサッカーもできないでしょ」
そのあとを城山と夏目に続き、
「神崎先輩、ウチも行くっス!」
「これだから男子は」
「ちょっと、もうすぐで先生来ちゃうわよ」
レッドテイル、
「女子が行くならオレもー」
「ダッ」
「男鹿、坊っちゃまも遊びたがっておられる」
「面倒だなー」
男鹿達も教室を出て行った。
昼休みも終わってあとから来た佐渡原は、
「ボイコット!!?」
誰もいなくなった教室でひとり涙していたとか。
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