小さな話でございます。
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今日はオレの誕生日…のはずだ。
その証拠に、朝からオレのケータイは媚を売ってくる女たちからの「姫ちゃんおめでとう」メールでいっぱいだった。
どれも返信は返してねーけどな。
プレゼントもいくつか届いたが、蓮井にパスした。
オレが欲しいのは、ただ一つ。
神崎からのプレゼント。
この間、オレの誕生日を教えたばかりだ。
その時の神崎は「へー、そうなのか」と興味なさげに返事をしたが、期待はあった。
だって神崎ツンデレだし。
実はこっそりメモとかしてるとか思ってる。
思い込みが過ぎたか。
今、隣にいる神崎は、オレの家のソファーに腰掛け、ヨーグルッチを飲みながら深夜に放送されている海外ドラマに集中していた。
オレの家に来たのも、「オススメのドラマあるし、一緒に見ようぜ」とのことだ。
そんなこと言いつつ、オレの誕生日を祝いにきてくれたんだろ、と内心ニヤついたものだが。
現在、23時55分。
オレの誕生日終了まで残り5分を切った。
こいつまさかオレの誕生日を明日と勘違いしてねえだろうか。
焦ったオレは、何気なく「あ、そういえば今日何日だっけ?」と神崎に尋ねてみる。
「あ? 4月…17日?」
神崎はテレビの画面を見つめながら答えた。
合ってる。
もしや、日にち自体を間違えているのだろうか。
「4月17日って何の日だと思う?」
「……………」
すると、神崎はケータイを取り出してなにかググり始めた。
「…なすび記念日?」
「ナスビじゃねえよっ!!」
「だって“よいなす”って語呂合わせで…」
「誕生日だ!! オレの!!」
「……は!?」
当日に「今日オレの誕生日なんだ~」って言いたくはなかったが、もうすぐでその特別な日が終わってしまうことに焦り、マジで忘れてるっぽい神崎に我慢ならなかった。
「オレ言っただろ!! 4月17日はオレの誕生日だって!!」
神崎はポカンと口を開けてこちらを見ていた。
なんだその間抜けな顔は。
はっとした神崎は、オレを指さし、「それ、いつオレに教えた?」と尋ねる。
「え…と、4月の初めくらいか?」
「4月1日に言ったはずだ。それは覚えてる」
「あ?」
「おめぇ、よりにもよってエイプリルフールの時に言っただろ。夏目がよく引っかけてくるから、警戒してんだ」
つまり、こういうことだ。
その日がエイプリルフールだと忘れてたオレは、神崎に「オレ4月17日が誕生日なんだ」と告げると、それをウソだと勘違いした神崎は「へー、そうなのか」と答えた。
その日に告げてしまったオレか、それをウソと勘違いした神崎か、神崎を警戒させた夏目か、誰を呪えばいいんだこの場合。
「その日に言ったおまえが悪い」
オレ自身を呪えばいいのか。
ダイニングの掛け時計の秒針は、刻一刻と0時に向かっている。
「神崎ぃ…」
「そんな目で見んな。今何時だと思ってんだ。ちょっぱやでプレゼント買いに行けってか」
「そういうことじゃなくて」
「なんだよ」
プレゼントなんていらねぇ。
神崎のその一言が欲しいだけだ。
なんだこの散々な誕生日。
返信しなかった罰か。
それとも、プレゼントを蔑ろにした罰か。
神崎は再びヨーグルッチを口に含み、カラになったのか、ズズッ、と音が鳴った。
ため息をつきかけたオレは、その瞬間、いきなりアゴをつかまれ、神崎に唇を押し付けられた。
同時に、口内に注ぎ込まれる甘味。
口端から一筋垂らしながらも、こくり、と喉を鳴らして飲み込むと、神崎は唇を離し、満足げな笑みを浮かべた。
「ヨーグルッチは、最後の一口が一番美味ぇんだぜ? 即席で悪いけどな…。誕生日おめでとさん、姫川」
カチッ、と時計が0時を指す。
幸せの瞬間を、確かに体験した。
「神崎…」
「プレゼントは改めて…」
「いや、今のでいい。超満足」
神崎は視線をテレビに戻したが、顔の赤みが隠しきれていない。
表情は正直だ。
余裕ぶっていても、やはり自分からするのは小恥ずかしかったのだろう。
そんなところが愛しいわけで。
「2ヶ月後、オレからも最高のプレゼント贈らせてもらうからな」
「ある意味怖ぇな」
小さく笑う神崎を抱き寄せ、神崎の口にわずかに残った、最高の味を堪能する。
オレの気が済むまで。
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