これは何の病ですか?
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「異常はありませんよ」
医師に胸をさらけ出して診察してもらったが、胸は打撲どころか無傷だ。
「じゃあ心臓が悪いんだ」
「レントゲン撮りましょうか?」
結果は変わらず、健康な心臓だ。
医師は呆れたように、「入院延びたいんですか?」とため息をつかれた。
もうちょっと病院にマシな医師とかいないのか。
異常じゃなかったら、病気じゃなかったらなんなんだよ。
「…あいつ、また行ったのか」
隣のベッドを見る。
神崎はまた子ども達のところへ行ったようだ。
「…………ヒマ」
初心を思い出したことにして、神崎達がいるであろう中庭へ行く。
案の定、奴らはそこにいた。
壁からそっと様子を窺う。
「バーン!」
「バババーン!」
「おい倒れろよ神崎っ」
神崎を包囲して指を鉄砲の形にして撃つマネをしている子ども達。
神崎は仁王立ちだ。
「神崎さんは使い捨ての鉄砲玉ごときに倒れる男じゃねーんだよ」
「「「ええー」」」
「つーか鉄砲玉?」
何をやっとんだあいつは。
子ども相手にヤの用語使うな。
呆れながら眺めていたら、ふと、視線を感じた。
足下を見ると、小さな女の子が目を輝かせてオレのリーゼントを見上げている。
「フランスパン!!」
指をさされて叫ばれた。
子ども達の視線がこちらに集まる。
当然、神崎もこっちを見た。
「あ」
「…あ」
オレも遅れて漏らす。
「本当にフランスパンだ!!」
「フランスパン!!」
「フランスパーン!!」
「ねえ、食べられるって本当?」
「自分で食べてるって聞いた!!」
興奮気味に騒ぎ始める子ども達。
オレは子ども達の間を通って神崎へと真っ直ぐ近づき、そのアゴを右手でつかんで力を込めた。
「お゛い゛、てめー、ガキ共にオレのことなんて言ってんだ?」
「痛てぇ痛てぇ」
「痛てぇのはてめーだっ!!」
オレが聞いていないと思っていたのか、調子に乗って、ないことあることないことを子ども達に聞かせていたようだ。
「つか、なんでここにおまえが? あれか? 寂しくて来ちまったか?」
ニヤニヤとする神崎。
実は半分当たっているだけにすぐに言い返せなかった。
「おにいちゃん寂しいの?」
「いっしょにあそぶ?」
子ども達にまで同情された。
「…神崎君ってごはんくんごっことかできたんだ?(笑)」
「!!!」
こいつは今日オレが初めて目撃してしまったと思っていたのだろう。
「いつから見てた!?」
「さあ? いつからでしょう?」
胸倉をつかんで揺すってくるがオレは絶対教えてやらない。
一度離れた神崎はオレを指さして子ども達に言う。
「おまえら、あいつが美味しいフランスパンを分けてくれるってよ」
「ほんとー!?」
「よこせーっ」
「うおっ! 子ども使うんじゃねえよ!!」
子ども達に完全に包囲され、裾を引っ張られたり、のぼられたり、危うくズボンを引きずりおろされそうになった。
虫のように払うわけにもいかない。
「フランスパンって頭が良いんでしょ?」
「ん?」
「お金持ちだし!」
「お、おう…」
「頭脳派とかカッケーッ」
「……………」
「ヒキョーだけど筋は通すって…」
「おまえら、そのへんにしといてやれ。戻って来い」
顔を逸らした神崎が子ども達を手招きで呼び戻す。
さっきのベタ褒めはなんだ。
神崎が言ったのか。
「おまえら、鬼ごっこだ。フランスパンが鬼になってくれるから全力で逃げろ」
それを合図に、神崎と子ども達が蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「あ!!」
遊びに紛れて逃げるつもりだ。
あいつこの間まで右脚折ってたくせに速い。
「神崎!! ちょっと話が!!」
「こっちくんな!! 全員捕まえられなきゃヨーグルッチ人数分奢れ!!」
そして、結局夕暮れまで全員捕まえられることができず、ヨーグルッチ人数分奢らされるはめになった。
いや、別にこれっぽっちも痛手にならない額だけどよ。
*****
病室に戻ってきたオレ達はベッドにダイブするように倒れた。
なるほど、子ども相手だと体力の消耗は激しい。
病院のベッドも気持ち良くなる。
食事はすでに運ばれてきていた。
オレは座り直して横目で神崎を見る。
今日はなんとか自力で食べられるようだ。
スプーンを片手に口に運んでいる。
「おまえさ…、ガキ共に何話したんだ? オレのこと」
「…もういいだろ。卑怯で姑息で狡猾で最悪で最低で最悪なフランスパンだ。そう教えた」
「最悪って2回言った」
「うっせーな。…まあ、なぞなぞの問題でオレがズルしてバレた時、おまえが実は頭が良いって…教えたかもな」
他にも余計なこと言ってんだろ。
問い詰めようかと思ったが、神崎の顔が真っ赤で、こっちまでつられて真っ赤になりそうだったのでやめておいた。
けっこう疲れたから腹も空いてるかと思ったが、食事がうまく喉を通ってくれなかった。
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