これは何の病ですか?
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「目薬くれ」
神崎がいない間に担当の医師が様子を見に来たので注文してみる。
「どうしたんですか?」
「ドブネズミがハムスターに見えるくらい視力がおかしくなった」
「はい?」
神崎を、「可愛い」と思ってしまった。
しばらく女と遊んでねえからってやきがまわったのかもしれない。
「四六時中そんな色眼鏡かけていればそうなるのでは?」
「オレの視力とセンスに合わせた特注のメガネだぞ。そんなはずねーよ」
ダサいと言われているようで腹が立った。
一応視力とか眼球に異常がないか眼科の医師を呼んで診てもらったが、まったくもって正常だ。
「安心しろ」とは言われたが、ちっともできない。
目が悪くなければ、オレの頭がおかしいみたいじゃないか。
医師達が部屋を出て少ししてから、息せき切らせた神崎が戻ってきた。
いつものより戻ってくるのが早い。
「姫川」
「?」
何かあったのかと思って言葉を待ってみれば、こちらを指さして真剣な表情でこう言ってきた。
「なぞなぞだ!」
「…は?」
「3問出してやる」
なぜ上から目線。
「なにガキみたいなこと…」
「オレの問題が解けねえってか?」
「やらねえとは言ってねえだろ!」
思わず受けてしまった。こいつといると本当にオレ自身のレベルが低く感じられる。
「そうこねーとな! 問題1!『歯を治す動物』ってなーんだ!?」
「鹿じゃねーの?」
「!!!??」
出題者が驚愕している。
「…なんで?」
「歯を治すところは「歯科」だろ」
「!!!!」
出題者が納得している。
それが正解かも言わないまま問題は続けられた。
「も、問題2!『サツはサツでも、貰うと返すサツ』とは!?」
「…挨拶?」
「!!!!」
面白いな。
絵文字にしたら「(゚□゚)」って顔だ。
「問題3!『体がかゆくなる式は』?」
「開会式」
「!!!! わかった!!」
神崎はまた病室から出て行ってしまう。
おそらく、子ども達になぞなぞ出されてわからなかったのだろう。
シンキングタイムとか抜かしてオレに聞きに来た様子だ。
つうかさっきの問題、思いっきり小学生問題だろうが。
同じ年の男子として恥ずかしい。
呆れていたらまた騒がしい足音が戻ってきた。
「なんだ、今度は何の…」
「賞品だ受け取れっ」
ぽい、と投げられてオレは反射的に右手でキャッチする。
ヨーグルッチだ。
「あと、これがパズルの分、これが食事の借りだ」
ぽい、ぽい、と2つのヨーグルッチが投げられた。
オレは空いている左手でキャッチし、残りの1つはリーゼントで受け止める。
そして神崎はこっちが声をかける前に行ってしまった。
「…変なとこ義理堅いな」
きっちり借りは返してくる。
初めてヨーグルッチを口にしてみた。
「…甘酸っぱ」
でも、嫌いじゃない。
*****
今日は遅い方か。
よほどなぞなぞで盛り上がっているのだろう。
夕食も神崎が戻る前に運ばれていた。
オレはとっくに完食している。
そろそろ戻ってくる頃かと思っていたらトイレに行きたくなった。
ベッドから降りて病室を出ようとしたところでドアを開ける前に空けられた。
「うわ」
疲れ切った顔をした神崎だ。
「んだよ、人をゾンビみたいに」
「そんな顔してるぞマジで」
今日も子ども達の引っ張りだこにされていたのか、かなり疲れた顔をしている。
「お、もうごはん来てる…」
神崎が病室に足を踏み入れると同時に傾いた。
「!!」
「わっ!!」
前に倒れそうになる神崎を咄嗟に受け止めようとしたが、そのまま踏み留まれず一緒に倒れてしまった。
ごちん、と後頭部に痛みが走った。
前で受け止めようとしたからオレが下になって倒れてしまったようだ。
体にのしかかる重み。
見ると、胸元に神崎の頭があった。
オレがクッションになったおかげで無傷だ。
あ、つむじ。
「ん…」
「おい…、早くのけって…」
「うん…」
神崎は起き上がる気配を見せない。
それどころか声が眠そうだ。
「神崎」
「わかってる…」
そう答えるが顔も上げない。
この体勢はなんだか落ち着かなかった。
変に意識してしまっているせいで鼓動が早鐘を打った。
しかもそれはオレの胸に顔をくっつけている神崎にも伝わってしまう。
「なんか…落ち着く……」
「神崎?」
神崎は何も答えなくなった。
代わりに寝息が聞こえてきた。
疲れ果てて眠ってしまったようだ。
「マジか…」
そっと神崎の頭を傾けてみる。
眉間の皺ひとつない寝顔だ。
明るいところで見るのは初めてだった。
おそるおそる頭に触れてみた。
意外と触り心地がいい。
伝わる温もりも、こちらまでつられて眠ってしまいそうな。
鼓動は依然として早いまま。
痛いくらいだ。
まさか、今さらになって神崎に殴られたところが痛んでいるのか。
「……………」
意味がわからない状態に疑問を抱いた時だ。
「食器の片付けに…」
食器を片付けにきたナースが入ってきた。
「「あ」」
オレ達の状況を見てナースが硬直した。
それから何を勘違いしたのか頬を染めて口元に手を当てる。
「あなた達…、ケンカばかりするかと思ってたけど、そういう…」
「違う」
「大丈夫、私、そういうのに偏見持たないというよりむしろ好物なナースだから」
「違う!!」
今の状況の説明をどうするかという困惑の次に、ナースのカミングアウトに大いに戸惑った。
.