これは何の病ですか?
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神崎が訪れたのは中庭だ。
花壇の端に座り、買っておいたヨーグルッチを飲んでのんびりとしている。
観察しているのが馬鹿になってくるほどのヒマの潰し方だ。
ここで全部時間使うつもりか。
そうする理由はほぼ見当がついている。
オレの存在だろう。
あいつだってオレと相部屋なんて御免に決まっている。
意外な一面も見れたし、オレもそろそろ引き上げようと思った時だ。
小さな影がいくつかオレの傍を通過して行った。
「かんざきだーっ」
「おにいちゃーん!」
神崎の名を叫びながら神崎の元へ走り寄っていく数人の影を目で追いかける。
患者なのか、パジャマ姿の子ども達だ。
「今日は早いね、お兄ちゃんっ」
「たまたま早く着いただけだっつの」
どや顔で言う神崎。
初対面ではなさそうだ。
「ねーねー、アレ、できた? 宿題できた?」
男の子が神崎の膝に縋りつきながら大きな目で見上げる。
神崎は「アレ」を取り出した。
「おう。パーフェクトに完成させてやったぜ」
オレが完成させた、ルービックキューブだ。
「わー、すごーい!!」
元の持ち主であろう男の子は、それを受け取って大はしゃぎだ。
他の子たちもその周りに集まって「すごい」と連呼している。
対する神崎は引きつった笑みを浮かべていた。
まあ、実際はオレが完成させたからな。
複雑な気持ちなのだろう。
「神崎のお兄ちゃんっ、今日はなにしてあそぶー?」
「おいおい、おまえら一応患者なんだから無茶するなよ?」
「「「「は―――い」」」」
笑顔で手を挙げる子ども達に、神崎は脱力して肩を落とす。
「本当にわかってんのか」
そこから先は、昼休みの生徒と教師を見ているかのような光景だ。
右腕が使えないハンデがあるのか、子ども達に合わせて遊んでやっている。
まるで慣れているかのようだ。
家でも子どもの相手をしているのだろうか。
無茶しないように気を遣い、時に休憩も挟んでいる。
自分のあることないことの体験談とか。
特撮ものでも聞いているかのように男子たちは目をキラキラと輝かせていた。
「かんざきーっ、次はわたしとーっ」
「やだーっ、オレ達とごはんくんごっこするんだーっ」
「引っ張んな引っ張んな」
顔に似合わず、驚くほどモテモテだ。
石矢魔にいる時のあいつを見たら、きっと泣き出して逃げてしまうだろうな。
「……あいつって、あんな顔できるんだな…」
ちょっとほこんだ顔。
石矢魔じゃ、一度も見たことがなかった。
*****
出会った頃から殺気立った奴だった。
『極道の息子』。
そのぶら下げられた札だけで誰もが距離の置き方を極端に見せる。
関わらないよう離れる奴もいれば、これでもかと媚びる奴もいた。
実際、実力は大したことないんじゃないかと思っていたが、一度そのコブシで殴られて、不覚にも「あ、こいつ同じだ」と思ってしまったことがある。
背負った看板がデカいほど、強くなろうとする。
石矢魔の頂点を目指すなら、それに相応しい存在にならなければ。
神崎はこの3年でそれをものにしようとしていた。
男鹿の存在がジャマさえしなければ。
恐怖でついてきていた奴らも、ほとんど離れていっただろう。
それでも、あいつはやはり人望が厚い、というか元から好かれやすいのだろう。
残った奴らもいるのだから。
オレはもう一人も残っちゃいない。
金で雇った奴らだから当たり前だ。
「黄昏てんじゃねえよ、キメェな」
「あ?」
夕方、神崎が戻ってきた。
オレはその1時間前くらいに戻ってきていた。まさかオレに尾行されたと思わないだろう。
神崎は疲れた様子でふらふらとベッドに戻る。
「何してたんだ?」
「てめーには関係ねーだろ」
こっちに背を向けて横になったまま無愛想に返す。
オレは少し笑って「そうか」と答えた。
さて、いつネタを持ち出してやろうか。
そう考えた時、夕食が運ばれてきた。
あまり病院食は好きじゃないが、この間コックを呼んだら説教されたので仕方なく食べてやる。
「う…」
「!」
神崎の呻き声の次に、持っていたフォークが床に落ちる。
「どうした?」
「な…んでもねーよ…。ちょっと手が痺れてるだけだ」
思い当たることはある。
子ども達に引っ張りだこにされていたからだ。
さすがに数日続けば腕も疲れるだろう。
オレが食べ終わってもまだもたついてやがる。
ため息をついて神崎の傍にいった。
「? なに…」
こっちを向いて言葉を発した瞬間、オレのフォークで魚を突き刺して神崎の口に突っ込んでやった。
「むぐっ!?」
目を剥いて驚く神崎。
でもしっかり咀嚼して飲むこむ。
「っっなんのつもりぐむっ!」
「文句言わず食え」
鳥にエサやってる気分だ。
こいつの頭がヒヨコっぽいからか。
頭の中も鳥っぽいもんな。
最後はおとなしく食べさせられ、食い終わったときにはようやく文句を全部発した。
「どういうつもりだてめぇこのやろう!! 誰が手ぇ貸せっつったよ!!」
「貸しひとつ作ってやろうと思っただけだ。全部食べれてえらいねー」
「このっ!!」
反射的だったのだろう。
まだ完治してない右のコブシをオレの胸にぶつけてきた。
でも、ぼす、と音がしただけであまり痛くない。
むしろ激痛が走ったのは神崎の方だ。
「っっぐ…」
「はははは」
「オレが復活したら覚えてろ…っ」
目に涙をにじませて睨んでくる。
なんか可愛いな。
「忘れてやるからもう寝とけ」
「~~~っ、フン」
今日一日珍しいもん見せてもらったからオレは機嫌がよかった。
ベッドに横になってから冷静になり、「ん?」と疑問が浮かぶ。
オレ、さっき神崎の事なんて思った?
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