これは何の病ですか?
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オレが入院して5日が経過しようとしていた。
部屋の番号は402。
相性が最悪な奴と同室なんて戦争しか見えない。
ちょっとしたことでケンカが始まれば、看護師たちが止めに来る。
なのに、なんで部屋を分けようとか考えねえんだ病院の奴らは。
両サイドの部屋が空き部屋だからか。
多少騒音がしても大丈夫ってか。
だったらオレ達をそっちに分けろよ。
オレがストレス溜めてるのはそれだけじゃない。
神崎の元に来る、見舞いの奴らのうるささ。
夏目と城山はもちろん、神崎の家の奴らまで押しかけてくる。
どちらにしても2人以上来て話しやがるから頭が痛い。
馴れ馴れしく話しかけられるのが嫌な時は狸寝入りだ。
神崎が東邦神姫にのぼりつめたのは、家柄だけじゃなく、人望があるからだろう。
オレとは正反対だ。
「何見てんだこのヤロウ。もうバナナやらねーぞ」
「いらねえよバカ」
こいつに付いて行こうって思う奴らの気がしれねえ。
無計画に考えて乱暴に事を進めようとするバカのどこがいいんだ。
思い出せば、初めからこいつとはそりが合わなかったんだ。
金をちらつかせてコマにでも使ってやろうかと思ったが、金が紙切れにしか見えなかったのか無視して殴りかかってきやがった。
悔しいことに、こいつとは未だにどっちも軍配が上がってない。
他の奴らに同レベルと思われるのも癪だ。
今の内にそこで呑気にバナナ食って、ヨーグルッチ啜ってろ。
退院する頃には下僕にしてやるんだからな。
「睨んでもバナナはやらねーよ」
「だからいらねえっつってんだろ!!」
それにしても、こいつなかなかボロを出しやがらねえ。
見舞い品のフルーツバケットの果物を食べたり、ゲームをしたり、ヨーグルッチ飲んだり、雑誌見たり、テレビ見たり。
病院の入院生活ってそんなもんだろうが、何か弱みらしいもの見せてくれたっていいだろ。
スマホ握りしめてスタンバイしてるオレ馬鹿みたいじゃねえか。
入院生活1週間目で、神崎の右足のギプスが外された。
リハビリが必要なので、出歩くようにはなった。
それから、変化も著しいものが見当たった。
昼飯を食べたあと、神崎はふらりと放し飼いされた猫みたいに部屋を出て行っては、夕飯が出る頃に少し疲れた様子で戻ってくることが続いた。
本人は「リハビリだ」と言い張るが、それにしては長い。
楽しめるものなんて一つもないだろう。
外に出て行こうとすれば、看護師たちに止められる。
一体何をしているんだ。
ある夜、神崎が何か持ち帰ってきた。
色を合わせる立方体パズルの―――。
「…ルービックキューブ? おまえそんなのどこから持ってきたんだ」
「うるせーな。集中してんだから話しかけんな」
ベッドで上半身を起こし、難しい顔で不器用に左手だけでやろうとしている。
なかなか色がそろわず、1時間が経過した頃か。
未だに四苦八苦している神崎。
「貸せ」
「あ!?」
「横でガチャガチャうるせーんだよ」
眠れねえだろうが。
青筋を浮かべたまま神崎の手の中にあるルービックキューブを取り上げた。
「な、返せよ!」
伸ばされた手をかわしながら、くるくると回しながら色を組み合わせていく。
「ほれ」
投げ返した時には、ルービックキューブを綺麗に完成させていた。
受け取った神崎は茫然とそれを見下ろし、色が違ってないか確認してからオレの顔を見る。
「神崎、おまえパズル向いてねーわ」
すぐにムカついて何か言い返してくるかと思えば、びっくりの方が大きかったのだろう。
茫然とした表情でこう言ってきた。
「姫川…、おまえ…、頭良かったんだな?」
「泣かすぞコラッ!!」
そのあとまた言い合いになったが、結局神崎は、そのオモチャをどこから持ってきたのか話さなかった。
気になったオレは、次の日、神崎が出て行ったのを見計らい、こっそり尾行してみることにした。
ちなみに昨日の完成させたルービックキューブまで持っていきやがった。
どこから持ってきたのかもついでに突き止められるかもしれない。
最初にあいつが訪れたのは、休憩所の自販機だ。
予想通りヨーグルッチを買っている。
あいつの血液は絶対ヨーグルッチが流れてるな。
幸せな顔でまったりしやがって。
アホづらをスマホで撮影してやった。
しかし、神崎の周りにいる奴らにとっては珍しい光景ではないだろう。
弱みにもならねぇ。
ヨーグルッチタイムが終わり、神崎が別の場所へ移動する。
オレも見つからないようにそれについていった。
他の病棟に行くみたいだ。
誰かに会うのだろうか。
女とか。
……いやいやいや、神崎の女の話とか小耳に挟んだこともねえし、発覚したら人質くらいとってるし。
妙な焦りを覚えながらも尾行を続ける。
曲がり角を曲がろうとしたところで足を止めた。
神崎が途中で一度戻ってきたからだ。
慌てて引きさがり、清掃用具が入ったロッカーの後ろに隠れる。
「本当にごめんなさいね。寄り道もあったからこんな大荷物になってしまって…」
「体に響くからやめとけって」
聞こえるのは神崎と女の声。
まさかあいつ本当に。
女の姿を確認した。
腹が大きく膨らんでいる。
妊婦!!??
神崎は旅行でも行くのかというくらい大きな荷物を片手に持っていた。
女をロビーまで送り、タクシーに乗せた。
「ありがとうございました、お兄さん」
とんでもないネタをつかんでしまったかと思ったが、女は赤の他人。
神崎はたまたま荷物を持ってやっただけだったようだ。
それからまたどこぞの目的地に向かって歩き出す。
その途中、手すりに一生懸命つかまりながら階段をのぼろうとしているばあさんを発見。
神崎は声をかけてばあさんを背負い、怪談をのぼっていく。
「なんでエレベーター使わねーんだよ」
「なかなか来なくてねぇ…」
「何階?」
「7階だったかのう」
「根性あるな…」
神崎はそのまま7階までのぼった。
もう一度おりてきた頃には、かなり疲れた顔をしていた。
ひょっとして、とオレは考える。
神崎って、良い奴なのか?
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