独占的な白雪姫。
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翌日、自分の教室でヨーグルッチを飲みながら天井を見上げていると、横から突然夏目に声をかけられた。
「最近の神崎ちゃん、なんだかいきいきしてるよね」
「は?」
「そう見えてさ」
にっこにこ笑いやがって。
一度視線を夏目に向けたが、またすぐ逸らした。
「夏目、診察代出してやるから眼科行って来い」
「目はいい方だからご心配なく」
自身の両目を指さしたみたいだがあたしは無視する。
こいつは妙に勘がいいから墓穴を掘るわけにはいかない。
それでも、無視しようとしているのに夏目は質問を投げてきた。
「何かいいことあったの?」
「特にねーよ」
「えー。もしかして、好きな人が」
「いるわけねーだろっ!!」
言い切らせる前に怒鳴りつけてしまう。
一気に教室中の視線を浴びた。
さすがに夏目も驚いて仰け反っている。
すぐ傍にいた城山もおさげを逆立たせている。
「あ…、違うの?」
「違ぇよ」
「夏目、神崎さんに対してしつこいぞ」
「城ちゃんも気になってるくせにー」
姫川と付き合ってることは、あたしと姫川だけの秘密だ。冷やかされたくなかったし。
特にこの面白いことに関してはとことん追求してくる夏目には。
あれ、こいつあたしの従順な側近だよね、確か。
「あ―――…」
自分を落ち着かせるためにヨーグルッチをまた一口飲む。
ガシガシと頭を掻き、夏目を諦めさせる理由を考えた。
「……あ…、あたしじゃねーけど…、ダチがな…、念願の恋が叶ったって…」
「へぇ? 友達が?」
「ああ。ずっと、片思いしてたからな…。応援してたし」
「神崎ちゃん、友達いたんだ」
コブシを振るったが予測されていたのかかわされた。
立ち上がって一発お見舞いしてやろうかと思ったが、夏目は困った笑みを浮かべながら両手を上げて「ごめんごめん」と謝る。
「冗談。つまり神崎ちゃんは、そのトモダチの恋が叶って最近機嫌がいいわけだ。やっさしーよねー」
「と、当然だろ…」
「その片思いだった人って、頭がフランスパンそっくりなのかな?」
「!! …ち、違いますぅ」
動揺でどもってしまった。
そこで城山が口を挟む。
「まさか、姫川のことですか?」
「だ、だからそうじゃねえって…」
「しかし、昨日あいつを町で見かけましたが、女と一緒でしたよ。その人が神崎さんのオトモダチじゃないんですか?」
「……え」
耳を疑った。
「女と一緒」。
あたしは昨日、姫川と町を歩いてない。
誰か他の女と一緒だったってことか。
「そ、それ…、男の方、本当に姫川だったのか?」
「リーゼントでアロハと言ったら姫川しか…」
「な…、何してたんだ…? その女と…。っていうか、女ってどんな奴?」
本当はもっと質問をぶつけたかったが、ここで取り乱すわけにはいかない。
「え…と、小さなカフェのテラスで何か話しているのを…。女の方はモデルみたいな美人でした。ああ、でも神崎さんの方が」
そこから先はあたしの耳に入ってこなかった。
姫川が、モデルみたいな美人と一緒だった。
城山があげた特徴は間違いなく姫川。
もしくはニセモノだ。
ニセモノであると信じたいが、胸の中がすごくモヤモヤする。
昨日はパンツの話であたしが制裁を食らわせた日で、女と会ったのは下校したあとってことか。
あいつ…、あたしってもんがありながら浮気!!?
「神崎さんっ」
「!」
はっと我に返ると再び教室中の視線を集めてしまった。遅れて茫然としていたことに気付く。
「大丈夫?」
「顔色が悪いですよ」
「……あたしの友達と姫川は無関係だ。姫川がどこの馬の骨の女といようが知ったことかよ。本当にあいつは女にだらしねぇよなぁ。冷やかしてやるか。―――ということで、ちょっと発酵食品んとこ行ってくるわ」
ほぼ棒読みで言い切ったあと、「じゃ」と教室を飛び出した。
「あ、神崎ちゃん!?」
「神崎さん!」
追いかけて来られる前に全力で走った。
慣れればハイヒールでも早く走れる。
決めつけはよくない。
本人に直接聞くのが早そうだ。
問い詰めて、もしもの時は容赦しない。
「ああ? いねーだと?」
教室に姫川がいなかったので、姫川と同じクラスの奴を捕まえて壁に追い詰めて聞きだした。
そいつは目を合わせないようにしながら声を震わせて答える。
「そ、その…、さっき…、電話があったみたいで…。出るなり…、どっかに…」
「はあ!?」
(電話って、例の、昨日一緒にいた女か!?)
ガッ、とハイヒールで壁を蹴ると、目の前の奴はビクッと体を震わせた。
「どこ行った?」
「さ…、さあ…」
「チッ」
追いかけようかとも思ったが、その前に電話して聞きだしてやろうかと考え、聞きだした奴を逃がしてやってからスマホを取り出して姫川にかける。
呼び出し音が聞こえ、プッ、と音が聞こえて出たかと思えば、ツー、ツー、と寂しげな音が続いた。
え、切られた!?
衝撃を受け、それでもめげずにかけようとするが、
“おかけになった電話は…”
電源を切られてしまった。
「はぁ…?」
間の抜けた声が漏れてしまう。
「な…、なんで……」
スマホを凝視したまま停止してしまう。
あたしが電話をかけたことは気付いているはずだ。
どうして出ないのか。
理由はすぐに頭に浮かんだが、重すぎて辛いし受け止めきれない。
他の女と一緒にいるから…?
悶々と悩みながらフラフラと廊下を歩き、ふと窓に目をやった。
「!!」
裏門の近くに、姫川と女を見つけた。
何やら話している様子だ。
あたしの行動は自分でも驚くほど早かった。
カッ、カッ、とハイヒールを慌ただしく鳴らしながら階段を下り、裏門へ向かって走る。
1階に到着して裏の昇降口から出ようとした時だ。
「あ」
「!!」
ちょうど、姫川と出くわした。
さっきの女はどこにもいない。
石矢魔の制服じゃなかったことを遅れて思い出す。
他校の生徒か。
しかも、お嬢様高校の制服だった気がする。
「神崎…」
名を呼ばれ、はっとする。
聞きたいことは山ほどある。
「さっき…、電話しただろ…。なんで…」
「……………」
「電源まで切っただろ?」
無言の姫川に先手を打つ。
言い訳なんてさせるか。
姫川は口元に困った笑みを浮かべながらうなじを掻いた。
「ちょっとな…。人に会ってて……」
「あの女誰だ?」
瞬間、姫川の表情が硬直したのを見逃さなかった。
「女」と会ったことを隠したかったみたいに。
「おまえ、見てたのか?」
「窓から」
「あ…、そうか…」
目まで逸らしやがった。
「で、誰?」
促せば、姫川は視線を戻し、しばし黙った。
あ、これ、言い訳考えてる時の顔だ。
「誰だよ!」
そんな暇なんて与えてやるもんか。
洗いざらい吐いてもらう。
「……おまえには関係ない奴だ。気にするな、そういうんじゃねーから…」
突き放すような言い方だった。
よほどショックを受けた顔をしていたのだろう。
姫川はあたしの顔を見るなりはっとして、「浮気じゃねえ」と付け足す。
「ちゃんと話してやるから。今は…」
「今話せよ。ここにはあたしら以外いないんだから」
「いつか」なんて待てるわけがない。
気は短いほうだし、それが姫川に関することなら尚更。
それでも姫川はだんまりだ。
ようやく口を開いたかと思えば、
「悪いな……」
あたしの肩を軽く叩いて通過してしまう。
翌日、姫川はあたしを避けるようになってしまった。
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