小さな話でございます。
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見られてる。
神崎が、こっちをジッと見てる。
後ろ斜めの席を見ると、やはり気のせいじゃなく、神崎は頬杖をつきながらこちらを見据えていた。
誘われてるんだろうか。
昼休みを過ぎたあたりからだ。
視線が気になって授業どころでも株どころでもない。
矢印の先でチクチクと首の後ろや頭をつつかれているような感覚だ。
オレが振り返ろうが、視線を逸らさないとはどういうことだ。
神崎、デレ期到来か。
下校時間となり、オレは神崎に声をかけて一緒に帰ることにした。
近すぎず離れすぎずの距離で肩を並べて歩くオレ達。
すると、あいつは急に立ち止まってとんでもないことを言い出した。
「中に、突っ込んでいいか?」
さすがの不意打ちにオレはずっこけた。
「は!? え!?」
リバをご所望だったのか!?
それを道の真ん中で堂々と言うのは男前というか、あんたホントに神崎さん!?
「か、神崎、待て…」
「待てねえ。気になってしょうがなかったんだ」
神崎はオレに至近距離で迫ってきて、手を伸ばしてきた。
こんなところで、と思わず構えたオレだったが、神崎は「動くな」と鋭い声で言って、オレのリーゼントの中に手を突っ込んできた。
「う、わ!?」
しばらくもちゃもちゃにされ、オレのリーゼントが完全に崩れたあと、神崎は表情を緩ませて「見つけた」と呟き、オレの目の前に人差し指を見せつける。
「…あ?」
神崎の指の腹にのっていたのは、一匹のナナホシテントウだった。
赤い羽に、7つの点が散らばっている。
ナナホシテントウは神崎の指を渡り、第二関節までやってきた。
「窓から入ってきて、おまえのリーゼントにくっついたのが見えてな。そのまま髪と髪の隙間に入っちまったみてえで…。潰れてなくてよかったな。お互い」
「そ…、そういうことだったのかよ」
紛らわしい発言しやがって。
そんなホッとした顔をすんな、かわいいな。
ナナホシテントウはしばらく神崎の指を行ったり来たりと繰り返したあと、指先で羽を広げ、空へと旅立つ。
オレと神崎はその小さな赤を目で追いかけ、見えなくなるまで澄んだ空を見上げていた。
ちゃんと恩返しに来いよ。
「テントウムシ…って、もうそんな時期か」
「……そうだな」
春風が吹き、下ろされたオレの髪が神崎になびき、首や頬を撫でられた神崎はくすぐったそうに笑った。
春が終わっても、ずっと、おまえのそんな顔が見られればいいな。
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