猫に被られました。
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心が入れ替わってもなお、姫川は神崎の方へ行ってしまったことにショックを受けてしまったのだ。
その背中が、自分を捨てて去っていく主人と重ねてしまった。
子猫は泣きながら校舎を飛び出し、街を走る。
一方、生徒の目撃証言を頼りに、姫川と、姫川の肩にのった神崎はそれを追っていた。
「あいつ…! オレの体で出て行きやがって!」
「騒ぐなっ。今、GPSで追ってるから!」
神崎の服のポケットにはケータイが入れっぱなしになっているのでGPSで追うことができる。
「―――にしても速ぇな」
現在地を確認すると、スピードは落ちることはなく真っ直ぐ走っているのがわかる。
「あ、この一帯はやべーな」
「たださえ人気者なんだぞ。こんなところうろついていたら…」
不良のたまり場ばかりの場所を走る子猫。
しばらくして、神崎と姫川が恐れていた事態に陥る。
走っていた子猫が、いかにも柄の悪そうな不良達にぶつかったからだ。
「痛てっ」
「待てコラ!」
「ミャ!?」
通過しようとしたところでぶつかった相手の連れがその肩を強くつかんで引き止める。
「てめぇ、謝りもしないでいくのかよ!? …!?」
つかんだ不良は子猫の顔を見て思わず離れた。
「こ、こいつ、東邦神姫の神崎一…!」
「な、なんでこんなところに…!」
取り巻きがいないか不良達は慌てて辺りを見回したが、それらしい人間はどこにもいない。
それに加え、大人しい子猫を見て、わずかな安堵が生まれとわずかな強気が生まれた。
「なんだよ、ひとりじゃねーか」
「夏目と城山はどーしたよ?」
「ミャ…」
不穏な空気に、子猫はたじろいだ。
「お? ビビってる?」
「大したことねーんじゃねーか、こいつ」
「今なら…」
名を上げることができると不敵に笑う不良達は、人気がないのをいいことにその場で囲む。
数はたったの5人。
神崎ならば簡単に蹴散らせるが、子猫は恐怖で一歩も動くことができずにいた。
「やっちまえ!!」
一斉に殴りかかろうとした時だ。
「痛ってー!!」
ひとりが叫び、他の不良達は足を止めた。
「なんだ…!?」
叫んだ不良が自身の手の甲を見ると、引っ掻き傷が見当たった。
「ニャ…?」
「おい」
「!!」
子猫の肩にはいつの間にか神崎がのっていた。
不良のひとりにケガを負わせえて動きを奪ったあと、素早く飛び移ったようだ。
神崎は子猫の耳に囁く。
「いいか? 腕を組め。目は相手を見下すように…、オレを鼻で笑った時の顔な。もっと邪悪に笑え。…そうだ」
言う通りの格好をした子猫。
当然、いきなり強気な態度を示す子猫に不良達は警戒する。
「な…んだ、その態度…」
「さっき、オレになにを…」
神崎は腹話術のように、子猫が喋ってるように見せかける。
「そんなことにも気づかねえとはバカな奴らだな。このオレに喧嘩を売ったからには、覚悟できてんだろーな?」
「くっ…」
身の危険を感じた不良達は逃げ腰になる。
「さ、さっきまで震えてたクセになにを…」
「これだからそこらへんの不良は…。武者震いの区別もできねーのか? 今からてめーらをどう料理してやろうか楽しみで仕方ねえんだよ…! …笑え」
最後にぼそりと子猫に伝えると、子猫は嗤って見せる。
「ニャ゛ハハハハハッ!!」
(((((怖い…っっ!!!)))))
神崎本人まで戦慄してしまうほどだ。
「「「「「失礼しました―――っ!!!」」」」」
殺されてバラバラにされて海に捨てられると思った不良達は深々と謝罪して逃げ出した。
ハッタリだけでどうにかなり、曲がり角から見守っていた姫川が出てくる。
一応ヘルプで入れるように構えておいたスタンバトンも腰にしまった。
「お見事」
「まあ、こんなもんよ」
子猫の演技力と理解力に驚かされたが、神崎は平静を装って子猫の肩から飛び降りて地面に着地する。
「……………」
子猫はしゅんと目を伏せ、神崎と姫川を交互に見た。
「…帰るぞ」
「……………」
「な、帰ろうぜ?」
姫川は子猫の頭を撫で、もう一度声をかけた。
子猫ははっと目を見開き、姫川と顔を見合わせる。
「無理矢理体を戻そうなんてことはしねーけど、この体じゃ、ああいう連中も絡んでくるし…」
「……………」
「痛い思いせずに元に戻る方法、考えてやる。…神崎も、いいだろ?」
「……まあ、オレも、無傷で済む方法があるなら…」
もう少しの間体を貸してもやってもいい、と目を逸らす。
「……っ」
子猫は肩を震わせ、再び涙を流した。
「あー、もう、オレの体で泣くんじゃねえよ、情けねえ」
「貴重だけどな」
姫川は苦笑し、子猫を抱き寄せた。
「……ッ、ヒ…メ…カワ……」
「「!!」」
神崎の声で、子猫が小さく言葉を発した。
姫川と神崎は目を見開いて驚き、子猫を凝視する。
「おまえ…、喋れ……」
「アリガ…ト……」
姫川が言いかけたとき、くしゃっと笑った子猫は姫川の首に絡みつき、キスをした。
「…!?」
神崎が瞬きすると、一瞬にして視界が姫川のアップに切り替わる。
「…え?」
唇を離した神崎は、自分の掌を見て、元の自分の体に戻っていることに気付いた。
神崎の反応を見て、姫川もそれを察する。
「神崎…、戻ったのか?」
「なんで……」
それが元に戻る方法だったのか、それともタイミングよく入れ替わりの時間が切れてしまったのか。
理由はわからないが、神崎と姫川は子猫に振り返った。
「ミャー」
「あっ」
「おい!」
一声鳴いた子猫は、大の人間では通りにくい建物と建物の隙間に入ってしまう。
神崎と姫川は追いかけようとしたが通れるはずもなく、そのまま子猫はどこかへ行ってしまった。
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