神と仏、どちらに縋りますか?
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3日後、神崎は見舞い用のフルーツバケットを手に、姫川の病室に訪れた。
個室となっていて、窓際のベッドで静かに過ごしている。
傷は浅かったが、医者には安静にしろと入院させられた。
ベッドの傍らにあるパイプ椅子に座ってリンゴの皮を不器用に剥きながら、神崎は夏目と城山が元気にしていることを伝えた。
「包帯はしばらく取れねえが、ある意味ピンピンしてるぜ。早くオレの仕事手伝いたいからって気合で回復しようとしてる。あ、ちなみに東条は昨日退院したらしいな。邦枝もさっさと次の仕事行っちまったし…」
「タフな奴らだな」
「てめーもな。ほら」
切ったリンゴを爪楊枝で刺して姫川の口にやると、姫川は目元を笑わせてそれを口にした。
噛めば、シャリシャリと音が鳴る。
「つうか、見舞いに来るときくらい私服で来いよ。死人が出たって思うだろ」
神崎は法衣のままだ。
ここに来る前に看護師や患者にぎょっとした目で見られた。
「いつでも仕事に行けるようにだろ」
「やる気満々だな…。あと、おまえ、子どもの霊に好かれやすいんだから騒がしくなるんですけど」
まるでハーメルンの笛吹き男のように、ここに来るまで神崎の後ろには子どもの霊達がついてきてしまった。
今もきゃっきゃと病室で騒ぎたて、姫川は小うるささに頭を抱える。
「じゃあ2度と来ねえ」
「いやっ、それは困る」
思わず手首をつかまれ、神崎はビクッとして頬を染めた。
「神崎、オレとやり直さねえ?」
「……改まって言うなよ…。直す気がなかったら…、ここに来ねえだろ…」
「…!!」
神崎は子どもの霊達に病室から出て行ってもらい、姫川と目を合わせた。
「おまえだって、オレが必要なんだろ?」
「神崎……」
マリー人形の一件を通して、悔しいがそれを改めて実感させられた。
どちらからでもなく唇を寄せる2人と、それをドアに背をもたせかけ見物する菊江。
「「うわぁ!!?」」
その存在に気付いて離れた。
「ユーレイみたいに驚かないでくれる?」
「声かけろよガン見してねーで!!」
「お取込み中なのにごめんなさいね。あ、お見舞い品」
渡されたのは、神崎と同じくフルーツバケットだ。
受け取った神崎はサイドボードに置く。
「元気そうにしてるじゃない」
「…毬江は?」
姫川が問うと、菊江は口元を綻ばせて答えた。
「ちゃんと、供養してもらった。やっと、あの杖を墓前に添えることもできたし。そうそう、修太郎はアンタの思惑通り自首させることできたわよ。離婚届もOK」
バッグから取り出したのは離婚届だ。
修太郎の名前も書いてある。
「ちゃっかりしてるな」
呆れる神崎に、菊江は「ふふっ」と無邪気に笑った。
「で、タバコはやめたのか?」
神崎はベッドに腰掛け、タバコを吸うマネをする。
「禁断症状が不安だけどね。ムリにでもやめるけど。…もう、毬江はいないから」
菊江は寂しげに目を伏せたが、すぐに吹っ切れたような顔をする。
「これからは心置きなく楽しむわよ。毬江の分まで、あたしの人生を。…アンタ達には感謝してるわ。……ありがとう」
出会った当初とは天と地の差だ。
照れ臭そうに頬を赤らめて視線を逸らしている。
「お礼が言えたのか」
「取り憑かれてねーか?」
姫川は十字架を、神崎は数珠を取り出し、菊江はこめかみに青筋を浮かべた。
「人が素直に礼言ってんのに失礼な奴らねっ。もう帰るわよ」
「おう。また何かあったら、石矢魔怪奇相談所にご相談を」
ドアに手をかけた菊江は肩越しに振り返り、笑みを浮かべた。
「ええ。真っ先に指名させてもらうわ」
「安くしとくぜ」
姫川は人差し指と親指の先を繋げて輪っかをつくる。
神崎は呆れた視線を向け、菊江は手を振って「またね」と病室を出て行った。
神崎と姫川は窓の外を見て見送りしようとし、「あ」と声を揃える。
病院の前では車と一緒に若い男が待っていた。
病院から出た菊江はその男に手を振って近づき、男の車の助手席に乗りこんで病院をあとにする。
「…女ってたくましいな」
神崎は走り去る車を見下ろし、感心してしまう。
「元から浮気してたんなら、今回はちょうどよかったのかもな」
「怖ぇ怖ぇ」
苦笑した神崎は、姫川に手を引かれてベッドに仰向けに倒れた。
「お取り込みの続き」
「煩悩退散」
甘える姫川に神崎はその頬をつかんで顔を引き寄せ、噛みつくようなキスをした。
その頃病室の前では、病室から漂う甘い雰囲気のせいで男鹿と古市が入るに入れないでいた。
「一足遅かったな…」
「せっかく次の依頼持ってきてやったのに…。東条にまわすか?」
「再結成祝いのつもりで持ってきたんだし、もうちょっと待とうぜ」
依頼のランクは“竹”。
絆を取り戻した神崎と姫川は、次にどんな怪奇と出遭うのか。
身の回りの不思議事―――、石矢魔怪奇相談所が相談に乗りましょう。
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