神と仏、どちらに縋りますか?
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悪魔には神父、悪霊には僧侶。
怪奇の正体が不明な場合、依頼人から相談とその詳細を持ち掛けられた受付人の判断で、その怪奇に適応しているだろう祓い屋が派遣される。
途中で怪奇の正体がつかめた場合、それに相応しい祓い屋が途中で交代したり、応援を寄越したりする場合もある。
今回は後者だ。
「お待たせ」
「すぐに来いって随分乱暴じゃないの」
「神崎先輩お久しぶりっス!」
やってきたのは、同じく石矢魔怪奇相談所で働く、巫女装束を纏った女性―――邦枝葵だ。
後ろについてきているのは、邦枝の補佐を務める、大森寧々、谷村千秋、花澤由加だ。
「巫女…?」
修太郎は訪れた新たな祓い屋に目を丸くする。
菊江は毛布に包まり、部屋のベッドで震えていた。
邦枝はその部屋を一瞥してから通過し、神崎と修太郎を先頭に歩かせてダイニングへとやってくる。
「…………またタチの悪いものが…。あなた達が一緒にいるとロクなものに遭わないから…」
嫌な気にでも触れたのか、邦枝はマリー人形を一目見るなり袖で口と鼻を覆った。
邦枝は必要以上に霊気を感じ取ってしまうので、具合が悪くなることもしばしばあるのが悩みだ。
詠唱中の姫川は「早くかわってくれ」とメール文で伝える。
かれこれ1時間以上も詠唱し続けているのだ。
「文句なら後で聞いてやるから」
「はいはい」
邦枝達は結界の中にいるマリー人形に近づく。
大森、谷村、花澤はマリー人形を中心に三角形になるように正座し、邦枝はマリー人形の前で正座し、両手でその小さな体をつかんだ。
「…っ」
マイナスの霊気が伝わり、小さく呻く。
大森達はその様子を気にかけたが、「始めて」と邦枝が合図を送り、大森と谷村は詠唱を唱え、花澤は背中に携えていた梓弓を取り出してその弦を木の棒で叩き始めた。
「いいわよ、姫川」
「―――はぁ…っ、きつ…っ。水くれ」
邦枝が目を閉じると同時に、ようやく詠唱を止めた姫川は修太郎に水分を要求した。
コップに水を汲んで持ってきた修太郎は邦枝達の様子を見ながら耳打ちする。
「……何をして…」
姫川は水分補給中なので代わりに神崎が答える。
「口寄せだ。あの人形の中にいる“奴”を自分に憑依させてる。乗り移った時、抵抗ができない人形よりは安全だ。あいつはよほどのことがないかぎり制御できる。口寄せ中は絶対驚かせるなよ。剥がれちまうから」
注意しながらその様子を見守る。
ガクン、と邦枝の頭が垂れる。
「入ったな」
呟いた姫川は口元を手の甲で拭い、邦枝に話しかける。
「おまえは誰だ?」
ゆっくりと邦枝は顔を上げた。
その顔は、目を閉じたままだが、困惑しているような表情を浮かべている。
「…………おねがい…、きくえおねーちゃんに…あわせて」
邦枝の口を借りて、マリー人形の中の者が要求した。
これが先程神崎を20階から墜落死させようとした者の言葉か。
「………呼んできてくれるか?」
躊躇した神崎だったが、修太郎に頼んで部屋にいる菊江を連れてきてもらう。
数分後、菊江は蒼白な顔をしたまま、ダイニングに現れた。
口寄せ中であることを説明し、口寄せ中は安全なのでと説得して邦枝の目の前に座ってもらう。
体を小刻みに震わせる菊江は目を伏せたままで邦枝の顔を見ようとしない。
「きくえ…おねーちゃん……」
名を呼ばれ、菊江はビクッと肩を震わせた。邦枝の口元が微笑む。
「ああ…、タバコ…くさいね…。…おとーさんの…まね…してるの? でも…、からだにわるいから…、やめたほうがいいよ…っていったよね…」
その会話で神崎と姫川は新たな違和感を覚えた。
まるで、姉妹のような会話だ。
改めて、姫川は問う。
「おまえ、名前は? 年は? 久々津菊江の…なんなんだ?」
「あはは…。そうだね…、やくそくだったね、おにーちゃん…。ワタシは…マリエ…。としは……9…さい…。きくえおねーちゃんの…」
「もう、やめてよ!!!」
菊江は声を張り上げ、頭を抱えてうずくまった。
マリエは小首を傾げる。
「も…っ、許して、おねがい…!! ごめんなさい!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!! 許してよ毬江ぇぇ!!!」
ひたすら許しを請う菊江に、毬江(マリエ)は「どうしたの…?」と声をかける。
「ねえ…、どうしたの…?」
ボッ!!
「わあああっ!!?」
「「「「「!?」」」」」
突然、壁の護符が燃え上がり、傍にいた修太郎が悲鳴を上げた。
「バカな。口寄せ中だろうが今は…!!」
「う…っ!!」
その事態に驚いてしまった邦枝は呻き、隙をついて暴れ出した霊体に抵抗しようとする。
「おね…ちゃん…! くるしいよぉ…っ。ど…して…!?」
「ま…りえ…っ」
突然首を両手でつかんで苦しみだした毬江に菊江はどうしていいのかわからず、強張らせた顔でその様子を眺めることしかできなかった。
「だめ…っ!! 解ける…っ!!」
邦枝が目を開くと、邦枝の背中から黒いモヤのような物体が飛び出し、邦枝は弾かれるように後ろに飛ばされた。
「「葵姐さん!!」」
大森と谷村が吹っ飛ばされた邦枝の体を2人がかりで受け止める。
部屋中を飛び回る黒いモヤ。
菊江と修太郎には見えないが、神崎達はそれをしっかりととらえる。
「アレが人形の中にいたのか…!!」
「捕まえるぞ!!」
動きがすばしっこいため、おびき寄せて結界に踏み込ませるのは困難だろう。
向こうも学習するようだ。
神崎が護符を数枚構えると、黒いモヤは突然直角に曲がって神崎に突進し、胸の中心をすり抜けた。
「…っ!!?」
神崎の視界に、憶えのない光景が一部一部カットされたかのように早送りで映る。
そのまま、背中と後頭部を打ち付けた。
「神崎!!」
「先輩!!」
姫川と花澤が神崎に駆け寄る。
その隙に、黒いモヤは床に落とされた人形の中に戻り、宙に浮いてベランダから外へと逃げ出してしまった。
邦枝と大森はすぐにベランダに駆け寄ったが、マリー人形の姿は夜の闇とともに消えていた。
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