神と仏、どちらに縋りますか?
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久々津夫妻のマンションに戻ってきた神崎と姫川。
部屋に上がり、向かい合わせにソファーに座って事情を話すと、修太郎は「そんな…」と愕然とし、菊江は「やっぱりね」と大した驚きも見せずタバコを吐きだし、脚を組み替える。
「期待して損した」
「菊江…」
「神父だろうが、坊主だろうが…、あのコを止められる奴なんていないのよ。雪辱戦をしようが、無駄に終わるだけ。…帰ってちょうだい。これ以上は……」
ガンッ!
「!!」
ガラス製のテーブルにヒビが入るほど乱暴に足が置かれ、菊江はビクッと震えた。
テーブルに置かれていた灰皿はひっくり返り、灰や吸い殻が飛び散っている。
「オレらをそこらへんの祓い屋と一緒にすんな。何も見えねえ一般人にはわからねーだろうが、オレらにもプライドはある。このまま泣き寝入りするつもりはこれっぽっちもねえし、今までオレらに祓えなかったもんなんてねーんだ。安心しろ。値段は変わらねえし、絶対祓ってやる」
「「……………」」
ここまでやる気になっている祓い屋だとは思わなかった。
久々津夫妻は、神崎と姫川が納得するまで勝手をさせることにした。
マリー人形が現れるのは、決まって夜中だ。
その間、姫川は蓮井に命じてマンションにある監視カメラをモニタールームで監視してもらい、神崎は昨夜と同じく札をあちこちの壁に貼り付けた。
「終わったら、ちゃんと剥がして帰ってよね」
「はいはい」
タバコを吸いながら部屋を歩き回る菊江に念を押され、神崎は苛立ち混じりに返す。
姫川と修太郎はそれをベランダから眺めていた。
「アンタも、よくあんな気の強そうな奥さんと結婚したな…」
聖書を片手に、念を入れてベランダにも結界を張る姫川が声をかけると、修太郎は苦笑する。
「ああいうところに惚れたんですよ。菊江とは幼馴染で、小さい時から見守ってきました。最初は兄と妹達のような関係でしたが…」
好意を持っていることに気付いてからは、熱烈にアタックを繰り返してようやく結ばれたのだとか。
「奥さんとは…、30と22で、8歳差か…。結婚は2年前だっけ?」
「ええ。色々ありましたが、なんとか結婚することができました」
「人形が現れたのは…」
「結婚して数ヶ月経ってからです。最初に、私のボールペンが壊され、菊江の部屋の家具が動かされていました」
「……マリー人形に、何かしたか? それだけストーキングされてるんだったら、理由があるはずだろ」
「…マリーは、菊江の人形でした。…私は、菊江が昔、マリーを気味悪がって捨てたから、根に持っているのだと…」
菊江には聞かれないように声を潜め、姫川は視線を菊江に移す。
名前をつけてはいるが、人形が好きそうには見えない。
過去の人形に纏わる怪奇を思い返してみても、ほとんどが寂しさのあまり、マリー人形ほどではないが、勝手に動きだしたりするケースが多い。
怨念や意志などが強く、呪いと呼べるほどの怪奇は厄介だ。
「……………」
姫川は宙を見つめたまま思案していると、ひょっこりと目先に目つきの悪い顔が間近で見つめていた。
「!」
驚いて思わずたじろぐ。
いつの間にかベランダにやってきた神崎の視線は横にいる修太郎に移った。
「あの奥さんが原因なら、どこまで寛容なんだよアンタは。普通は逃げるだろ」
神崎も姫川に負けず地獄耳だ。
「…冗談じゃない。人形のせいで妻と別れるなんて……」
初めて修太郎が、眉間に皺を寄せた。
よほど菊江を溺愛しているのだろう。
すぐにはっとした修太郎は「失礼」と神崎と姫川に頭を下げ、ダイニングに戻って菊江の傍へと歩み寄った。
「……旦那ってMだよな、絶対」と神崎。
「どう見てもな。奥さんはSM女王ってカンジだし。跪いて足をお舐め~ってか」と姫川。
少し笑い声が大きかったのか、ピクリと菊江の耳が反応し、無表情のままベランダに近づいて躊躇いもなく窓と鍵を閉めた。
「「あ!!」」
外側に閉じ込められた神崎と姫川。
菊江は引きつった笑みを浮かべ、アゴを上げる。
「夜までそこにいなさいよ」
しかも、カーテンまで閉められた。
「信じらんねえあのアマ!! 締め出したぞ!!」
「こっちが依頼をおりないからって調子に乗りやがって…!」
神崎と姫川はベランダの窓を叩いて開窓を求めた。
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