神と仏、どちらに縋りますか?
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
パン! パン! パン!
ハリセンが、3人の和服の子どもの頭を鋭く叩いた。
「「「痛ーい」」」
「ったくアホ共が。オレじゃなかったらとっくに乱暴に祓われてるぞ」
大きな古い蔵の中で、3人の子どもを正座させて親のように説教しているのは、深緑の法衣を着た青年―――神崎一だ。
法衣を纏ってはいるが、頭髪は金、耳と唇を繋ぐピアスチェーン、頬の傷痕という特徴は、誰もが本当に僧侶か、むしろヤの人じゃないかと疑ってかかる。
だが、見た目に反して、兼業でもあるお祓いの腕は確かなものだ。
だからこそ、家の怪奇に悩まされていた者から噂が立ち、仕事も増える。
今回来た依頼は、神棚が突然落ちてしまい、神棚の近くにいた依頼者の身内が怪我を負ったとのことで相談が持ちかけられた。
神棚が落ちる前から、蔵では奇妙な物音や子どもの笑い声が聞こえたり、家の中にあるものが勝手に蔵に持ち出されていることがあった。
その元凶であるのが、神崎の目の前にいる子どもの霊達だ。
蔵の入口で見守っている依頼者たちの目には、その子ども達が見えず、怪訝な顔をして眺めていた。
「ちょっとイタズラしただけだってー、怒るなよー」
「バカヤロウ!! ただのイタズラでオレが呼びだされてたまるか!」
「ごめんよぅ。ボクらだって、まさかケガするとは思わなくて…」
「謝って済むなら坊主なんざいらねーんだ!」
「ケガって言っても、足の小指に当たって爪が割れただけじゃーん」
「生者に少し危害加えただけでも大問題になる世の中だぞ。ちょっと叱っただけで教師の前に保護者が出てくるようなモンスターペアレント世代だ。おまえらも気を付けねえと、タチの悪い霊媒師共にここから追い出されるどころか、最悪、消滅させられちまうかもしれねーのに…」
「げ…っ」
それを聞いた子ども達はようやく自分たちがしでかした過ちの重さに気付いた。
しゅん、と頭を垂れ、神崎に改めて「ごめんなさい」と謝る。
それ以上咎めるほど神崎も鬼ではない。
しゃがんで子どもと目線を合わせ、その頭を撫でる。
「反省してるなら、わざと騒音も立てるんじゃねーぞ?」
「「「うん」」」
こちらを説得したところで、次は依頼人の説得だ。
神崎は立ち上がり、依頼人である家の主人に振り返る。
傍には主人の妻もこちらを不安げに窺っていた。
「つーわけで、こいつらも十分反省してるみたいだから許してやってくれ」
「え、反省してるんですか?」
「見えないわ…」
しかし、神崎がハリセンで何かを叩いたのは音でわかった。
神崎はハリセンから札を引き派がし、霊をすり抜けてしまうただの変哲もないハリセンに戻す。
「祓ってくださらないんですか?」
「必要ねぇよ。というか、長いこと住みつきすぎて座敷童状態になってるから、祓うと逆に災いを呼びかねない。ご主人が儲かってるのはそいつらのおかげだ」
何もないところを指さしたが、そこにはちゃんと未だに正座している子ども達がいる。
「座敷童…!?」
「あ。あまり世間に騒ぎ立てるなよ。こいつらだって、蔵の中で静かに過ごしたいんだ。あと、家のものがなくなってたのは、いつも害悪から守ってやってるのに何も貰えなかったからだ。イタズラは不満の表れ。家や仕事で良いことがあったら、オモチャなりお菓子なり蔵の中に置いてやってくれ」
恩着せがましいとは思うが、子どもがやったことなら仕方がない。
それに、座敷童が住みついているときいて依頼人も気を良くしたようだ。
依頼人はとある大企業の社長だが、親の七光りと言うわけでもなく、流れるように昇進できたのはすべて子ども達のおかげということが判明した。
これで子ども達がまた過ちを犯さないかぎり、変な霊媒師を雇うこともないだろう。
「「ありがとうございます」」
頭を下げる依頼人たちを見下ろし、神崎はハリセンを懐にしまい、依頼人たちに背を向けた。
「また何かあったら、“石矢魔怪奇相談所”にご相談を」
石矢魔怪奇相談所とは、怪奇と思わしき相談を受け、相談先に相応しい霊媒師、巫女、僧侶、神父、シャーマンなどを派遣する会社の事だ。
神崎も、相談所から連絡を受けてここへやってきたが、いまいち達成感が湧かず、苛立ちを抱えたまま依頼者の家を出た。
「お疲れ、神崎君」
「お疲れ様です」
「おう」
家の前で待っていたのは、神崎と同じ寺に勤める夏目慎太郎と城山猛だ。
こちらも同じく深緑の法衣を身に纏っている。
「さっすが神崎君、本当に半日以内で終わらせちゃったね」
「オレ達の出番はありませんでしたね」
「出番ならあるぞ。車の運転な」
「はい」
頷いた城山は、近くの駐車場に停めた車を取りに走る。
「…なーんか後味悪そうだね。…いつものことか」
「依頼人の奴ら、感謝はしてたがやっぱり妙な目で見やがる…」
口を尖らせる神崎に、夏目は苦笑した。
「仕方ないよ。…普通の人には、霊なんて見えないんだからさ」
「どいつもこいつも、自分の目先を見ることに一生懸命だもんな」
ため息混じりにこぼし、神崎は気持ちとは裏腹の青空を見上げた。
「最近、歯応えのねえ依頼ばっかだな…」
呟くと、近くで別の車が停車した。
「―――だったら、朗報だ」
「! 男鹿」
路肩に停めて運転席から降りてきたのは、相談所の受付と仲介役である男鹿辰巳だ。
喪服を思わせる黒のスーツ姿で神崎に近づき、手に持っていた依頼書を手渡す。
ただの白い封筒。
それを見つめ、神崎は問う。
「……ランクは?」
「相談を聞く限りは、“竹”。さっきの“梅”よりかは悪質っぽい」
久々に聞いたランクに、神崎は口角を上げた。
.