猟奇的なシンデレラ。
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そのまた翌日、珍しく、神崎から教室に訪れた。
そちらからやってきたクセに、オレの顔を見るなりムスッとした。
「…珍しいな」
オレの取り巻き共が構えるが、オレはそいつらを教室から追い出し、神崎はそれを見送ってから口を開く。
「てめーが昨日から変な連中雇ってオレのこと嗅ぎまわらせてるって聞いてな…。てめーが来てから文句を並べてやろうかと思ってたのに、今日に限ってこねーし」
オレが神崎の教室に顔を出さなかったから、自ら出向いたというわけか。
ドアからは夏目と城山が様子を窺っていた。
「…ああ、その件ならもう心配すんな。引き下げるつもりだ」
オレはケータイに視線を落としたまま告げる。
神崎は呆れたようにため息をついた。
「はあ? 勝手抜かしてんじゃねーよ。…………あたしに好きな奴がいるの、そんなに気になるわけ? まあ、いねーけど…」
流し目で見ると、神崎は毛先をいじりながら頬を染めていた。
違うだろ。
オレの知ってる神崎は、そんな乙女チックな顔をするやつじゃなかったはずだ。
苛立ちを覚え、衝動的に目の前の机を蹴った。
「な…、なに?」
それには神崎も驚いたようだ。
「おまえが惚れた男が誰かは見当がついてる」
「は!? う…」
うそつけ、と言われる前に遮ってやる。
「―――知りたくなかった」
「…え?」
「調べなきゃ、てめぇがつまんねえ女だなんて知らなくて済んだんだのにな…。見損なわずに…済んだのに…」
金を差し出せば払いのけた挙句蹴りつけてきて、相手にしなければいいだけなのにオレのすることひとつひとつが気に入らずにまた蹴りつけてきて。
こちらが卑劣な手を使おうが、脅そうが、歯を剥いて果敢に立ち向かってくる。
そんな獅子のような女は初めてで、新鮮味もあり、面白味もあった。
なのに、たかが顔が良いってだけで簡単に落ちるような女は、オレが見下してきた女共と結局何も変わらない。
それが、無性にオレの腹を立てさせた。
「失せろ。今はてめーのツラなんざ見たくねえよ」
吐き捨て、一応防御できるように構えておく。
きっと逆上してまた踵落とししてくるだろうと思ったからだ。
なのに、一向に神崎に動きはない。
うつむき、握りしめたコブシを震わせているだけだ。
「…………わかった…」
そのまま、神崎はオレに背を向けて教室から足早に出て行ってしまった。
窺っていた夏目と城山がそれを追う。
「……なんだよ…」
どうしてそういう時だけ素直なんだよ。
その日の放課後、昇降口の下駄箱で靴を履きかえていた時だ。
「あ」と不意に思い出し、カバンから神崎のヒール付きの右靴を取り出した。
折れたヒールはその日に蓮井に頼んで修理に出してもらい、今日の朝に新品同様に直されオレの手元に戻ってきた。
本人に直接返すことはできず、神崎のロッカーに入れておこうと開けたが、そこには迷彩柄のシューズがあった。
まだ下校していないようだ。
「…帰ってねーのか…」
今日は少し言い過ぎただろうか。
オレらしくもなく反省してしまう。
靴だけでも入れておこうとしたが、いきなり横から伸びた手に胸倉をつかまれ、勢いよくロッカーに押し付けられた。
「ぐっ」
相手を見れば、鬼のような形相をした城山がいた。
「神崎さんはどこだ!?」
「はぁ?」
「貴様の教室をあとにしてから姿が見えない。言え!!」
「知るかよ。まだ学校のどこかにいるんじゃねーの? 靴もあるみたいだし」
アゴで神崎のロッカーを指し、「いい加減放せよ」と腰のスタンバトンに手をかけた。
「城ちゃんっ」
抜く前に、夏目が城山の手首をつかんで叱咤する。
「姫ちゃんに当たってもしょうがないでしょ。…別の校舎を捜そう。屋上にも教室にもいなかったみたいだし」
夏目は意味ありげにこちらに視線をやって、未だに睨んでくる城山を連れて行ってしまった。
「……はぁ」
また、余計なことを知ってしまった。
オレは神崎の靴をカバンに戻し、何気なく校舎裏へと向かいながら、手ぐしで髪を下ろした。
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