猟奇的なシンデレラ。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
オレの机の上には神崎が履いていたヒールつきの右靴が置かれていた。
神崎の渾身の踵落としを食らった際、ぽっきりとヒールが折れたものだ。
神崎はオレが倒れると同時に片方が裸足のまま教室から逃げるように出て行ってしまった。
城山と夏目が「神崎ちゃん!?」「どちらへ!?」と追いかけ、「ヨーグルッチ買ってくるーっ!!」と叫んだのが耳に残った。
オレも頭部が鍛えられたのかリーゼントに気合を入れたおかげか、気絶は免れたが目眩が取れない。
立っただけで立ちくらみだ。
席を立つのはしばらく諦め、もう一度、2つになった靴を見下ろす。
折れたヒールはリーゼントから引き抜くのに時間がかかった。
神崎が、恋をしている。
本人は誤魔化していたが、下手くそすぎてむしろ怪しい。
「……誰だ」
あのアマ、オレにはおちなくて、他の男におとされたってことになるのか。
許さん。
なんかこう、オレのプライド的に。
久々に激しい怒りを覚えた。
「お、おい、なんか今日の姫川さん、燃えてねえか?」
「いつもクールな姫川さんが……」
「一体、何があったんだ」
「どす黒いオーラみたいなもんが見えるぞ」
「戦争でもおっぱじめ様ってか…?」
周りがざわつき始め、オレは机を、バンッ、と机に勢いよく脚を載せて静かにさせる。
「…おまえらにいい仕事をやる。金に糸目は付けねえ。今から神崎が惚れてる男捜しだしてオレの前に連れてこい!! 連れてきた奴にはボーナスを出しやる!! ただし、傷はつけるなよ!?」
まっさらな状態をオレの気が済むまで血に染めてやるんだからな。
八つ当たりなのは百も承知だが、オレもそこまで割り切れるほど大人じゃねえ。
どうやってあの神崎をおとしたのか聞きだして、本人の前で情けねえ姿を晒して100年の恋も冷ましてやる。
オレがこんなムキになったことなんてあっただろうか。
悪人らしい笑いが腹の底から込み上げた。
「……あ、そういえばあいつら、どうやって神崎の男連れてくるつもり…」
ガシャァン!!
パリィン!!
隣の教室で窓ガラスが割れる音が聞こえた。
叫び声からして少なくとも2・3人は落ちただろう。
席を立ったオレは、廊下に出てそろりそろりと神崎の教室を覗いた。
開かれたドアから殺気が駄々漏れている。
「うわ」
教室内は惨事となっていた。
窓ガラスは割れ、倒された机や椅子の上にはオレが雇った不良共が積まれていた。
ちゃんと学校の上靴を履いて教室に戻ってきたばかりの神崎は、殺気を纏わせながらヨーグルッチを飲んでいる。
これは今オレが出たら今度こそ殺されかねない。
「命知らずな奴らだねぇ。神崎ちゃんの好きな人は誰か、だなんて。それが最期の言葉になるってわかってんのかな」
夏目は近くに転がっていた不良を指先でつついてみるが、つつかれている不良は白目を剥いたままピクリとも動かない。
オレも雇った相手がバカばかりだということを忘れていた。
惚れた相手が誰かわからねえからって本人に直接聞くかよ普通。
「―――で、実際、どうなの? 好きな人。オレか城ちゃん? オレも気になっちゃってさぁ」
「夏目、あたしに窓から蹴落とされてえか、それとも自分で飛び降りるか、選択肢を与えてやる」
「冗談冗談」
果敢にもそんなジョークができる夏目の度胸に感心した。
神崎に照れている様子はない。
オレも夏目を可能性に入れていたが、違うようだ。
「でも、城ちゃんも知りたいよねぇ?」
「……はい」
複雑そうな顔だ。
彼氏が出来た、って娘から報告を聞いた父親のような。
「てめぇらには関係ねえし。あたしに好きな奴なんざいねーっての。…………本当に…」
今度はウソをついた。
宙を見つめるその顔が微かに赤い。
思いっきり、恋い慕う女の顔じゃねえか。
誰だ、そんな顔させてるヤロウは、今すぐ見つけ出してブッ殺したい。
神崎が誰かに惚れているのは明確だが、その相手が身近な奴らとは限らねえのか。
「城山、そいつら廊下に捨ててこい」
「はい」
忠実な側近である城山は、5人ほど片手でつかんで廊下に放り出そうとこちらにやってくる。
オレはさっさとその場を離れ、自分の教室へと戻った。
「夏目でも城山でもないとなると……」
まさか、東条か。
けど、親しげにしているところを見たことがないし、そもそも、あいつはバイトに忙しくてなかなか学校に来ない。
東邦神姫最強を自覚してねえのがムカつくな。
もしかしたら、同じ学校の奴じゃないかもしれない。
校外だと、外で飼ってる奴らにも動いてもらわねえと。
腕を組んで教室内を徘徊しながらしばらく考えていると、ひとりの不良が慌てた様子で教室に入ってきた。
「姫川さん!」
「あ?」
「神崎が惚れていそうな男を見たってやつらが…!」
遅れてそいつらが教室に入ってくる。
見たことある奴らだと思えば、ノットリーゼントのオレに絡んできた連中だった。
神崎に蹴飛ばされた数人が顔に絆創膏を貼っていた。
「オレ、見たんですよ。神崎がイケメンに遭遇したのを…!」
「遭遇したっつーか、てめーらがそいつに絡んでるところを神崎に発見されてブッ飛ばされたんだろ?」
言い当てられた不良達は「ええ!?」と大袈裟に驚いた。
「な、なんでそこまで…」
「オレ達、そんなこと言ってねえのに…」
「恐ろしいぜ、姫川さんの情報網ってやつは…」
因縁つけた本人を目の前にしてるのにアホな奴らだ。
こちらの頭が痛くなってくる。
まさかとは思うが、あの時に神崎に…。
髪を下ろした時だけ、なぜか異常にモテるのは自覚していた。
神崎が髪を下ろしたオレにあの顔を向けたのも…―――。
「…チッ」
舌を打ったオレは、別の怒りを覚えていた。
「つまんねえ女」
.