猟奇的なシンデレラ。
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ある日オレは、愛用のポマードを昨日学校に置き忘れてしまい、リーゼントを作ることができずそのまま学校に来てしまった。
ポマードは教室の机の中。
教室に到着してからトイレでキメるか。
「あー…、だるい…」
登校してきたばかりなのに、正門を潜る前から早くも脱力状態だ。
他の奴らはウザいほどこちらを怪訝そうに見てくる。
ガン飛ばしても、リーゼント時のような気合の入った目つきにはならない。
この状態のオレ自身はどちらと言えば好きじゃない。
自分のすっぴんが嫌いな女子と同じだ。
だから、一発でオレだと勘付かれないようにあえて色眼鏡を外して学ランをきっちり着てきたのがいけなかった。
「おうてめぇコラ。見かけねえ顔だな。ムカつくツラしやがって」
「ちとそのツラ貸せや」
5人のいかにもザコっぽい不良に因縁をつけられて囲まれ、有無を言わさず校舎裏へと連れて行かれた。
「オレ達のパシりになるんだったら、助けてやってもいいぜ」
「ついでにサンドバッグになってくれるといいんだけどな」
矛盾してるだろ。
助かってねえし。
ため息をついてさっさと済まそうと腰のスタンバトンに手をかける。
「邪魔」
不意に背後から聞き覚えのある声が聞こえ、3人の不良共が一気に蹴飛ばされた。
「朝っぱらから元気な奴らだな」
「げ!! 神崎…!!」
「探しモンしてんだ。とっとと戻れ」
しっしっと野良犬を追い払うかのように手を振ると、神崎の恐ろしさを身に染み込ませている不良達はいそいそとその場から逃げ去った。
「はぁ…。あいつら、踏んづけてねーだろーな」
苛立ち混じりにため息をついた神崎は、オレを無視して校舎裏にある茂みなどを掻きわけて何か探している様子だった。
教室に戻ろうかと思っていたオレだが、どこか一生懸命な様子に声をかけた。
「なに探してんの?」
「あ? なんだ、まだいたのか。つか、おまえ誰だ」
やっぱり、オレだと気付いてなかったか。
「…………イケ…、池川」
前に女から冗談で言われたことを思い出して使わせてもらった。
神崎は「…やっぱ知らねえな」と素っ気なく返し、オレに背を向けて探し物捜索を続ける。
「なくしもの?」
神崎の手が止まった。
躊躇う素振りを見せ、口を開く。
「……ピアスを…」
「ピアス?」
「……花のやつ…。昨日ここで乱闘した時に落としたと思う…」
神崎の耳を見ると、見慣れたチェーンピアスやカフスが見当たった。
そもそもこいつは花型のピアスなんて女らしいものはつけない。
新しく買ったのかと思ったが、右耳と左耳につける個所が見当たらない。
怪訝に思いながらも、オレは黙って捜索に協力してやった。
「大事なもの?」
「…それなりに」
歯切れの悪い返事だ。
「こっちは?」
「そっちはまだだ」
「どこまで飛んで落ちたかだな」
「つか、捜さなくていいぞ」
「面倒なもの追っ払ってくれた礼は返す」
「あ…そ」
音の悪い予鈴の鐘が鳴ってもピアスは一向に見つからない。
まさか一日中探すつもりじゃないかと不安がよぎったとき、
「あった!!」
神崎が声を上げた。
探し物が見つかったようだ。
泥だらけの手で見つけたピアスを握りしめ、見たこともない嬉しそうな顔をしていた。
オレが出張るまでもなかったか。
「よかったな」
「ああ。おまえも、捜してくれてありがとなっ」
「!」
ずっと睨み合ってきただけの仲だったので、微笑んだ顔を見たのも初めてだった。
普段とのギャップを感じずにはいられなかった。
あれ、こいつ意外と可愛いんじゃねえの。
そんな気さえした。
「あ…、そうだ…」
「!!」
いきなり両手をつかまれ、いつも神崎が愛してやまない飲料―――ヨーグルッチを握らされた。
「これ、お礼。けっこう美味いんだぜ」
神崎の手の小ささ、感触に、不覚にも心臓が大きく高鳴った。
女に手を握られたことは何度もあるが、どれも金欲しさに強請るいやしい手にしか思えなかった。
なのに、神崎は違う。
泥が付着しているが綺麗な手だ。
「じゃあな、池川っ」
ぽん、と肩を叩かれ、神崎は校舎へと向かった。
HRの鐘が鳴った気がしたが、どうでもよかった。
神崎が去ったあと、オレは渡されたヨーグルッチのパックにストローをさして飲み始める。
初めて飲んだが、甘酸っぱく、どこかクセになる味だ。
喉を鳴らしながらヨーグルッチを飲み、思い出すのは神崎の微笑み。
3年間ずっとあいつを見てきたが、あんな顔が出来るのかと驚きを隠せない。
胸に手を当てると、太鼓の早打ちのようにどこどこと鳴り続けていた。
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