えりんぎ保育園へようこそ。
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最後の自由時間、冷静さを取り戻した姫川は、園庭にある砂場で園児たちと遊んでいる神崎に近づく。
神崎は小さなすべり台から園児を抱っこしてあやしているところだった。
「男なら泣くんじゃねえ」
「神崎」
「!」
足下を見ると、姫川がエプロンの端をつかんでいた。
神崎は泣いている園児をあやしながら、「どうした?」と尋ねる。
「オレの親が出した条件のことは知ってるよな?」
「……まあな」
「アレ、なかったことになったから…」
姫川はニヒルな笑みを浮かべ、神崎の反応を見るために見上げる。
しかし、神崎は慌てた表情も、怒った表情も、安堵した表情もしていなかった。
「そっか。なら、仕方ねえな」
平然とした顔でそう返すだけだ。
「…えりんぎ保育園がなくなっちまうかもしれねーんだぞ」
「だったら、別の保育園で働くしかねーだろ」
「働かせてくれねーかもしれねーのに?」
「働かせてくれるまで探す。世の中冷たい人間ばっかじゃねーだろーし」
むしろ、なんてことのないように笑ってみせた。
思い通りの反応を見せない神崎に、姫川の不満は爆発する。
「なんなんだよ!! やっぱりおまえバカだろ!!? なんでオレの言うこと聞かねえんだよ!! オレの機嫌さえとっとけばここも救われるし、おまえだって欲しいもの手に入るかもしれねーのに…!!」
「欲しいもんはねーってだから。オレは、今はただ、おまえらとこうやって時間の流れに身を任せて過ごして、いずれおまえらが無事に卒園してくれればそれでいい。ここが廃園になったら、その時はその時だし、新しい場所で同じようにするだけだ」
「…っ!!」
こんなふわふわした考えを持つ人間を知らない。出会ったことはなかった。
大人なんて、自分のことで手いっぱいで、欲しいものを目の前にぶら下げてたら他人なんてそっちのけですぐに食いつく魚と同じだと馬鹿にしていたのに。
茫然としていた時だ。
「あ、あぶな…」
神崎がそれに気づいた時にはもう遅く、すべり台の上から飛び降りた男鹿が、真下にある大きな泥水に着地し、跳ねた泥水が姫川にかかった。
リーゼントから足先まで。
「……………」
「あ、わり…」
同じく泥だらけになった男鹿だったが、引っかける気もなかったので素直に謝った。
すると無言で立ち尽くしていた姫川は少し遅れて怒りで体を震わせ、男鹿を睨みつけて飛びかかる。
「このヤロ―――ッ!! なにしてくれんだ―――!!!」
「なんだやんのかコラァ!!」
「やめろおまえら!」
「男鹿! おまえもキレるな!!」
「あははっ、なになに? ケンカ?」
「笑ってないでおまえも止めろ夏目!」
園庭にいた、古市、夏目、城山も慌てて姫川と男鹿の喧嘩を止めに入るが、2人はつかみ合い、殴り合う。
砂場で姫川がマウントをとって一方的に殴りつけたが、すぐに男鹿に逆転されてこちらも仕返しとばかりに殴りつけ、ゴロゴロと砂場を転がり、先にあった砂山を崩した。
「……てめーら…」
その立派な砂山は、二葉が作ったものだった。
殺気を感じた2人ははっと喧嘩をやめ、そちらに顔を向けると、スコップを両手に持った二葉が仁王立ちしていた。
「埋められてえのか!!?」
「「…っ!!!」」
ちなみに、えりんぎ保育園で一番怒らせてはならないのが、二葉である。
二葉が一度激怒すると、他の園児たちは逃げ惑い、泣き出すものが続出する。
「二葉ちゃん!! 園児がそんな殺気放っちゃダメ!!!」
さらに壮絶になる喧嘩に、古市は捨て身覚悟で止めに入った。
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