えりんぎ保育園へようこそ。
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ここ数日の通園に、姫川はイラついていた。
今まで通っていた、裕福な家庭の子どもばかりを集めた名門幼稚園とは違い、この保育園はどこの園よりも小さく、食事も満足に美味しいものでもなかった。
それに、親が出したであろう条件に、どんな保育士も自分にだけはちやほやしていたくせに、ここに1人、自分にはあまり目もくれず身の回りの園児たちと同じ扱いをする男がいた。
姫川がいるせんと組を担当しているはずの、神崎だ。
園長に忠告された他の保育士たちの反応は見慣れたものばかりなのに、神崎はまるで話を聞いていないかのような態度を取ってくる。
「姫川、本を返してやれ。こいつが先に読んでたんだからな」
「イヤだね」
姫川に読書中だった本を奪われ泣き出した園児の頭を撫でながら、神崎は姫川を叱咤するが、姫川は本を抱えたまま顔を逸らしてベッと舌を出した。
「返さないと…」
「!」
神崎が両手を広げ、笑い地獄を思い出した姫川はビクッと体を震わせ、一歩下がってそのまま保育室から逃げた。
「姫川っ、待てコラ!!」
「誰が返すか!!」
神崎の手から逃げながら、疑問に思う。
(あいつ、なんでオレの言うこときかねーんだ?)
『姫川君に譲りなさい』
『姫川君は悪くない』
『姫川君の好きにしていいんだよ』
(どいつもこいつも、同じ顔してたのに、同じこと言ってたのに…)
その日の降園時間、迎えに来た蓮井のリムジンに乗せられる前に、神崎はいつものように声をかけた。
「姫川、またな」
「……………」
姫川は神崎を一瞥し、返事も返さずリムジンに乗り込み、蓮井はドアを閉ざした。
(「またな」なんて、わざわざ言ってくんじゃねーよ。ムカつくヤローだ)
リムジンが動き出し、姫川は運転席にいる蓮井に尋ねる。
「蓮井」
「なんでございますか?」
「……あの園にオレの面倒見させる代わりに何か好条件出しただろ? 神崎は、その条件のこと、知ってるのか?」
「………恐らく…」
「わかんねえな。だったら、なんであいつ、オレにぺこぺこしねーんだ? …あの保育園、なくなってほしいのか? おまえ、どー思う?」
「…私にもわかりかねます…。ですが、ひょっとしたら、神崎様はあの保育園よりも大切なものがあるのかもしれません…」
「大切なもの……」
窓際に頬杖をつき、横目で流れる景色を見つめながら、姫川は「それは使えるな…」と口角を上げる。
「坊っちゃま、ご無理をなさってご自分の抱えている秘密を明かしてはなりませんよ? 本来なら、私も付き添うところなのですから…」
「オレなら心配すんな。そこまでついてこられると、見張られてるみたいで嫌なんだよ」
保育園では自由でいたい。
そして常に上に立ちたい。
たとえ大人相手でも。
言うことを聞かせるだけ聞かせて飽きたら去り、新しい場所で同じことを繰り返す。
けっして尻尾を巻いて逃げるようなマネだけはしない。
それが幼いながらも握りしめている姫川のプライドだった。
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