執事の優雅な休日。
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薄暗い裏路地に移動した途端に奴らが殴りかかってきた。
相手の数は10。
こっちが4人だからって勝てると思ったのか。
先にオレに向かってきた奴のアゴを蹴り飛ばし、それに続いて城山と夏目も応戦する。
城山が1人殴り飛ばし、その後ろにいた2人に当たって一気に3人のした。
夏目も向かってきた奴の髪をつかんで下に引っ張り、その顔面に膝蹴りを食らわせて倒す。
次々と流れるように倒されていく仲間に、オレにぶつかってきた奴の顔が蒼白になっていくのが見えた。
「あっという間に4対5だ。面倒だからまとめてかかってこいよ」
挑発的に手招きすると、本当にまとめてかかってきた。
ゴッ!!
あっさりブッ飛ばしたけど。
「まあ、ざっとこんなもんだ。男の遊びってのも」
オレ達の後ろで傍観していた蓮井に振り返ってそう言った。
「いつも、このような?」
「ああ。オレだとわかると絡んできやがる。姫川にしてもそうだ。あいつも、オレと同じ東邦神姫の一人だからな。けど、あいつもあいつなりにうまくあしらってるようだがな」
金を渡したり、金で雇った仲間使ったりで。
あと、たまに腕ずくで倒したり。
「…そのようで…」
蓮井が目を伏せて頷いた時だ。
「!! 神崎さん!!」
「!!」
後ろで倒れていた1人が立ち上がり、こちらに向かってきた。
その手には、ナイフが握られている。
自棄にも程があるだろ、と舌を打ったオレは振り返り際に蹴り飛ばしてやろうとしたが、その前に蓮井がオレの後ろに回り込んだ。
ドス!
「…っ!!」
刃が突き立てられた音に、オレは目を見開いた。
「遊びにしては、些か物騒ですね」
凛とした声で蓮井が言うと、ナイフで向かってきた奴は「ひ…っ」と怯んでナイフを放し、後ろにたじろいだ。
「バ…カヤロウッ!!」
オレは蓮井の肩を押しのけてそいつの腹を蹴り飛ばしたあと、すぐに蓮井に振り返って「何してんだアンタ!!」と怒鳴りつけた。
「今のはオレだってちゃんとかわせてたんだ!! 手ぇ出すなっつっただろ!!」
「それはそれは、出過ぎたマネをしました」
また、微笑んだ。
イラついて殴りかかりそうになっちまったが、その前に、蓮井の手におさまっているナイフを見て動きを止める。
血の一滴も流れてないのはどういうことだ。
「ご心配なく。私もケガ一つ負っていませんので」
そう言って右手のものを見せた。
ナイフが刺さったジャガイモ。
さっきの「ドス!」はこれが刺さった音だったのか。
呆れ果てたオレは膝から崩れ落ちそうになるのを耐えた。
蓮井は呑気にジャガイモからナイフを引き抜き、「皮むきに使えますね」と抜かしている。
「おまえなぁ…」
「竜也様を思うのなら手を出すな、と申されましたが、神崎様、先程の行動は竜也様を思っての行動です」
「あ?」
「大切なあなたに何かあれば、竜也様はきっと心を痛まれてしまいます。私が一緒にいながら、それだけはあってはならないことなのです」
「…けど、アンタが傷ついたってあいつは…」
蓮井は首を横に振る。
「いいえ。あなたは、ずっと孤独の中に自ら身を置かれていた竜也様が選ばれたかけがえのないお方です。私も、あなたが竜也様のお傍にいてよかったと思っております。私は執事という立場上、常に主人に対し肯定的でなければなりません。たとえ主人が間違った道に歩まれていようとも…。しかしあなたは、真正面から竜也様を否定し、その手を引っ張って誤った道から連れ戻すことができる存在なのです。私自身も、あなたを失うのは、とても惜しい」
「え…、と…」
ここまではっきり言われると顔が熱くなってくる。
湯気が出そうだ。
「それと、神崎様、何か誤解なさっているようですが、私は竜也様に対し、神崎様が思っているような感情は持ち合わせておりません。ただ竜也様一人にお仕えする…。それが唯一の私の喜びであり、その上も下も望んではおりませんので、ご安心を」
しゅううう…、と本当に顔から湯気が上がった。
なのに、蓮井は微笑みながら言葉を続ける。
「あなたと出会って、竜也様はお金よりも大事なものに気付かれました。「金にはかえられないものができた」と。その存在が出来たと知っただけでも私は嬉しいのです。感謝しています、神崎様」
ぼふんっ、とついに耐え切れず羞恥が爆発した。
「うあ―――っ!!!」
「神崎さん!?」
「どこ行くの!?」
とりあえずそこから逃げ出したくて裏路地から飛び出した。
同時に、誰かにぶつかってしまう。
「か、神崎? どうした?」
蓮井を迎えに来たのだろう、姫川がそこにいた。
ケータイを握りしめてるってことは、GPSで追ってきたのか。
「~~~~っ!!!」
悪いタイミングだ。
思わず姫川の足を踏んづけてやった。
「痛たぁっ!!」
姫川は片足を上げてぴょこぴょこと跳ねながらオレを睨みつける。
「いきなりなんだよっ!」
「うるせえよ!!! てめー執事にどこまで話してんだバカっっ!!!」
げし、げし、とローキックをかましながら怒鳴ってやった。
気付けば、時計は午後5時をまわっていた。どうりで町が夕日色なわけだ。
姫川は予定より早く実家から戻ってきたらしい。
これが大胆にも、ヘリで。
商店街のどこに着陸したのか。
「竜也様のお手を煩わせてしまい、申し訳ありません」
蓮井が謝ると、姫川は小さく笑った。
「たまにはオレに迎えに来させろよ。…面倒見てくれてありがとな、神崎」
「……おう」
こっちも暇つぶしができたからいいんだけどな。
「…竜也様、このあと、私に家までお送りさせてください」
「けど、おまえまだオフじゃ…」
「やはり…、私にオフは不必要かと…。オフを満喫している時さえ、ずっと竜也様のことを考えておりました。…ああ、神崎様、保護者のような考え方なのでご安心を」
「だからっ!! なにも心配してねーよ!! こっちに振んなっ!!」
気を遣っているのか、わざとなのか。
そして微笑むな。
「……そうか。なら、お言葉に甘えるか」
姫川もそれ以上の無理強いはしなかった。
「では、お車をとって参りますので。…神崎様、本日はありがとうございました。…オフは不要と申しましたが、楽しかったですよ。本心です」
それが本心の笑顔なのか。
先程見せた笑顔とは変わらないように見える。
蓮井は車を取りに行こうとオレ達に背を向けて歩き出した。
「……蓮井」
「!」
オレは蓮井を呼び止め、ポケットから取り出したものを投げ、蓮井はそれを反射的に上げた右手で受け止める。
オレが投げ渡したのは、ヨーグルッチだ。
「また、休日が必要になった時は、相手してやるよ」
「…もったいないお言葉です」
一瞬びっくりしたような顔をされたが、またすぐに優しい笑みを浮かべた。
姫川も、いつかまた蓮井を休ませる日が来るだろう。
今度は姫川も一緒に交えて遊びに行くのもいいな。
*****
その後、姫川にちょっとした悩みができたようだ。
学校に登校してくるなり、自分の席で頭を抱えているから声をかけてみたところ、
「蓮井が、コロッケ作りにハマりだした…」
最近色んなアレンジを加えて夕食にコロッケが出されるらしい。
昨日はカレーコロッケ。
今日は野菜コロッケだ。
「それと、ヨーグルッチな」
気に入ったんだろうな。
ため息をつく姫川に、オレは失笑するしかなかった。
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