執事の優雅な休日。
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こいつ確か「ゲームセンターは初めてです」とかにこやかに言ってたクセに、
「すごい!! 20連勝!!」
姫川並みに格ゲーがクソ上手い。
店内対戦だけで20連勝だ。
オレも5敗している。
「たまに家で竜也様のお相手をしたことがありましたので」
「家で…!?」
まさか、ゲーセンにあるゲーム機数台持ってんのかよ。
……持ってそうだなぁ、あいつ。
ゲーム部屋5室持ってるくらいだし。
ちなみに、本人曰く、姫川に勝てたことは一度もないらしい。
オレが思うに、こいつが本気出してないだけじゃないかと。
「本場のビデオゲームは雰囲気もあって楽しいですね」
「殺伐としてるがな」
蓮井に負け続けた敗者共がこっちを睨んでいる。
蓮井のゲームの腕前は格ゲーに限らず、シューティングゲームもたった1コインで全クリアだ。
「竜也様をお守りする身でもありますので」
「それこそ本場だろ!!」
本物、隠し持ってないだろうな。
カーゲームもメダルゲームもクレーンゲームでさえ、何をやらせても完璧ぶりを発揮しやがる。
「苦手なゲームとかねえのかよ?」
そう聞いたところ、真剣な顔でこう返された。
「…太鼓……でしょうか」
「あ?」
蓮井が向けた視線の先を見ると、おなじみのあの太鼓ゲームが置かれていた。
どこぞの学生2人組がプレイ中で、“曲を選ぶドン!”と曲を選択させている。
「アレができねーの?」
「できないと言いますか…、最近の音楽がわからないので…。最近耳にするボカロとはなんですか?」
ニッコリ動画の存在も知らないと見た。
「リズムについていけません…。姫川家の執事ともあろう者が…」
「くっ」としてるとこ悪いが、姫川もそこまでおまえに求めてねえと思う。
「しかし、尾崎ならわかります」
「!!?」
その口から飛び出した歌手は意外だった。
ゲーセンを出たあと、小腹が空いたから石矢魔商店街のコロッケ屋に立ち寄った。
この前、男鹿と古市がすすめるもんだから夏目達と口にしてみたところ、揚げたての熱いコロッケが食えた。
この店のコロッケは、ヨーグルッチの次に美味い。
おばちゃんにコロッケ4つ頼んだとき、蓮井がキョロキョロと辺りを見回していた。
「どーした?」
「席がないのですが…?」
「ああ? こういうのは立って食うもんなんだよ」
「立って…?」
首を傾げている。
立ち食いの経験がないのか。
食いものは座って食うものだと思っているようだ。
執事とはいえ、上品な生活をしてきたのだろう。
「はいよ」とおばちゃんに紙に包まれたコロッケ4人分を手渡され、オレはもらったその1つを蓮井に手渡した。
「ほれ」
「…ありがとうございます」
いきなり手渡しされて戸惑っている様子だ。
ナイフもなければフォークもないからな。
「こうやって食うんだよ」
オレ達は目の前で片手に持っているコロッケを口にする。
蓮井も遅れてそれを口にした。
「……!!!!」
「!!」
今日初めて見た、蓮井の衝撃的な顔。
「喉につまらせたんじゃ!?」
城山が心配するが、蓮井は上品に咀嚼して呑み込んだあと、流れるような足取りでコロッケ屋に近づいておばちゃんの手を取って優しく声をかけた。
「シェフ、このコロッケ、何か隠し味でも? 揚げたてという理由だけではありませんね? 絶対に口外いたしませんので、ぜひとも味の秘密を教えていただけませんか?」
コロッケが相当美味かったようだ。
おばちゃんも満更でもないのか頬を染めている。
「やめろコラ!!」
恥ずかしくなって蓮井を引き下がらせようとしたが、「竜也様にもこの味を味わっていただきたい」と完全に執事モードだ。
そして、蓮井は見事に隠し味の秘密であるジャガイモとレシピを手に入れた。
10コは入ってあるだろう、少し重そうな茶色の紙袋を両腕に抱えている。
「いい食材が手に入りました」
満足そうな笑顔だ。
やっぱり蓮井は、姫川のことを考えている時が一番イキイキしている気がする。
職業病だろうか、それとも…。
その先を考えると、チクリと腹にきた。
顔立ちもいいし、頭もいいし、ほぼ完璧で、柄にもなく自信をなくしてしまいそうだ。
姫川に対しての思いやりも、たぶん、オレより勝ってると思う。
オレが姫川と付き合ってるのはバレてるが、こいつは反対もしていなければ、賛成もしていない。
「なあ、本当に、オレ達と遊んで楽しいとか思ってんのか?」
気が付けば立ち止まってそんなことを聞いていた。
蓮井も立ち止まって「え?」とこちらに振り返る。
「神崎君?」
夏目と城山も怪訝な顔でオレを見た。
「姫川に言われたから、仕方なくオレ達に付き合ってるんじゃねーのか?」
姫川に言われたことはほぼ100%実行する男だ。
それが、やりたくないことでも。
本当は、嫌じゃないのだろうか。
主人を奪っちまった、オレと一緒にいることが。
「どうしてそのようなことを?」
尋ねる口元には、微笑みが浮かんでいる。
だから読めない。
主人にも読ませようとしない、その微笑み。
「だから―――…」
その時、オレの肩に通行人の腕が当たった。
早歩きしていたのか、少し痛みが走った。
「つ…っ」
「痛ってーなコラ!! 立ち止まってんじゃねーよ!!」
立ち止まって振り返るなり大声で文句を言ってきたのは、ぶつかってきた相手だった。
柄の悪そうなチンピラだ。
「あぁ!?」
ついオレも喧嘩腰になってしまう。
ガン垂れていると、そのチンピラの連れらしき男たちが集まってきた。
そのうちのひとりがオレの顔を見るなり、「あ!」と指をさす。
「こいつ、石矢魔東邦神姫の神崎一ですよ!!」
「神…崎…?」
オレにぶつかった相手の顔色が変わる。
ヤバい、と一瞬考えたのだろう。
だが、オレと夏目達を見ると、また挑発的な笑みを向けてきた。
数で勝てると踏んだからか。
「東邦神姫の神崎か…。こいつはついてるぜ。てめーブッ殺せば、オレの名もあがるってもんだ…。ここじゃなんだし、ツラ貸せよ。なあ?」
「典型的な誘い文句使ってんじゃねーよ。言っとくが、オレにそうやって吹っかけたヤロウは泣いて謝ったぜ?」
「神崎様…」
「下がってろ、蓮井。男の遊びってのを見せてやるからよ。姫川のこと思うんなら、てめーは絶対に手ぇ出すんじゃねーぞ」
姫川はオレを信用して蓮井をオレに預けたんだ。
蓮井に何かあったら、どっちも笑えねえからな。
ここまで付き合わせる必要なんてねーんだ。
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