魔王様双六で遊びましょう。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ゲームの進行はベル坊のサイコロと、男鹿達の腕にかかっていた。
“当てろ!魔王様のアフタヌーンティー!”
テーブルに一列に並べられた10個のカップに注がれた紅茶の味を全部味見し、紅茶の名前が書かれた札の前に置いていく。
姫川は指示通り一口ずつ味見していった。
「右から順に、ジャスミン、ラベンダー、チャイ、レモン、アップル、昆布茶、ドクダミ、ハブ茶、ほうじ茶。…普通の茶が混じってるな」
「最後の一つは?」
姫川が言った通りに札の前に並べていく古市は、最後のカップを手に尋ねる。
「マカイマンドラゴラ茶。…飲まなくてもなんとなくわかるだろ」
黒い、お茶かどうかわからない液体が入ってあるカップからは、意識が遠のきそうな断末魔のような悲鳴が聞こえる。
最後のカップを置くと、二重丸が宙に浮かび、2人は3マス分進んだ。
「さすが姫川先輩!」
「蓮井が淹れる紅茶の方が絶品だけどな」
“磨け!魔王様の城の窓!”
東条と邦枝は、命綱一本で窓ふきをしていた。
慣れたように、これまた東条が迅速に、しかし丁寧に布で拭いていく。
「東条のためにあるようなお題ばかり…」
先程も魔王の部屋の掃除をさせられてしまった。
「邦枝ー、こっちは終わったぞ」
「早い…っ」
結果は二重丸。
“踊れ!魔王様に捧げる情熱!”
観客まで用意されたステージ上に連れてこられた神崎と男鹿は、どうすればいいのか戸惑っていた。
「そのまんまの意味で、踊ればいいんだろ?」
「2人で踊れってか? …フォークダンスとか?」
「え―――、踊れねえよ」
「オレだって…」
「「……………」」
どちらかが女性側に回るのも癪だ。
「男鹿、仕方ねえからオレの動きをマネしな。この神崎さんが直々に神崎フラメンコを伝授してやる」
「いや、オレは」
「いくぞオラァ!!」
結果、成功ならず宙にバツの字が浮かぶ。
「「なんでだああああっ!!!」」
男鹿と神崎はまたゴールから遠のいてしまう。
ゲームを開始して数時間、窓の外から朝陽が差し込み始めた。
現在の順位は、1番目が東条&邦枝ペア(残り2マス)、2番目に姫川&古市ペア(残り6マス)、3番目は言わずもがな男鹿&神崎ペア(残りマイナスのマス含め80マス)だ。
「「終わる気がしない…」」
男鹿と神崎はすでに半泣きだ。
もう2番目の姫川と古市の姿も見えないのだから不安もマックスだ。
「「「「だろうな(でしょうね)…」」」」
終わりたくても終われないのが魔界のオモチャらしいところだ。
東条&邦枝のターン。
「ウー」
ベル坊は眠そうにサイコロを振った。
出た目は3。
これをクリアすれば東条と邦枝はいち抜けできる。
“飼い慣らせ!魔王様の愛犬ケルベロス!”
屋敷並みの大きな犬小屋から出てきたのは、1つの体に3つの頭を持つ、ご存じの方もいるだろう地獄の番犬ケルベロス。
2人を見下ろすと、唸り、牙を剥けて威嚇する。
「最後の試練…ってわけね…」
邦枝は木刀の代わりにモップを構え、鋭い顔つきになる。
対して東条の顔つきも変わっていた。
「ワンちゃん…」
癒されるような朗らかな顔つきに。
「!!」
ケルベロスはどう見てもゾウより大きい生物だ。
だが、動物ならば東条にとっては癒し系にしかならない。
「ガルルルルッ!!」
「怯えなくていいんだぜ?」
両腕を広げながらゆっくりとケルベロスに近づいていく。
噛まれれば痛いじゃすまされないだろう。
「東条!!」
邦枝は呼びかけたが、同時に、ケルベロスが大口を開けて東条に突っ込んだ。
「伏せぇ!!!」
東条がケルベロスに叫ぶと、襲いかかろうとしたケルベロスの動きが止まり、ゆっくりとその場に伏せた。
怒声を上げた東条の、トラのような迫力を感じ取ったのだろう。
「よーしよし、いいこだ」
「ウソ…」
笑顔で、伏せたケルベロスの鼻の上を撫でる東条を、邦枝は目を疑うような視線を向ける。
ミッションコンプリート。
東条と邦枝は盤上から男鹿の部屋へと飛び出した。
「お、戻ってきた。ここは男鹿の部屋か?」
「ちょっと! なんで服はこのままなのよ!」
格好は、燕尾服とメイド服のままだ。
次のターンは男鹿と神崎なのだが、ベル坊は睡魔に打ち勝つことができず、サイコロを握りしめ座ったまま眠ってしまった。
良い子は寝る時間なのに、よく耐えたものだ。
「おいベル坊! 寝るなよ!」
「サイコロ振るだけだからな」
「起こすなドブ男。ここまで付き合っていただいた坊っちゃまに感謝しろ。心配せずとも私が代わりにサイコロを振ってやる」
ベル坊を抱き上げたヒルダは、その小さな手からサイコロを取って床に放った。
出た目は1。
実はこの目は初めて見る。
「希望にも絶望にも取れない目が出たな」
神崎は肩を落としながら呟く。
「つーか、今さらだけどサイコロ振る係は必要なのかよ。どっかのパーティーゲームみたいに、サイコロブロックがオレ達の頭上に現れたりとかねーの!?」
「サイコロ振る側は完全に傍観者だが、任務を達成できず苦戦しているのを見るのはなかなか楽しいぞ」
そう言って今日初めて微笑みを見せた。
「オレ達のことかっ!! なんてタチの悪いゲームだっっ!!」
2人が連れてこられたのは、真っ白ななにもない空間だ。
「? どこだここ?」
男鹿は辺りを見回すが、不気味なほど静かな場所だ。
盤上の魔界の住人でさえ見当たらない。
しばらくして、キンコンカンコーン、とお知らせのアナウンスが鳴る。
“逆転!魔王様の施しボーナスゲーム!”
「ボーナスゲーム?」
「マイナスマスに突然発生するイベントだ。成功すれば、ゴールの1コマ手前まで進めるぞ」
「「マジか!!」」
完全に逆転を諦めていた男鹿と神崎にとってはまたとないチャンスだ。
「そんなチートが許されていいのか…」
姫川はずれかけたサングラスを指で直して呟く。
「ただし、このボーナスゲームに失敗すれば50マス以上のマイナスを覚悟しておけ」
美味しい話に代償はつきものだ。
それ相応の返しがくるのだろう。
しかし、男鹿と神崎はそれに賭けることにした。
「始めろよ」
“頂け!魔王様の大好物マカイコロッケ!”
宙から出現して男鹿と神崎の前に落ちてきたのは、禍々しいオーラを放ったコロッケだ。
気のせいか小さな悲鳴が聞こえ、もがくような顔を浮かべている。
その数、男鹿と神崎が取り戻さないといけないマスの分。
「制限時間は1時間以内だ」
「「……………」」
どっちに転んでも地獄行きだ。
美味しい話でもなかった。
古市は静かに映像に合掌していた。
(なんてついてない奴らなんだ…)
.