魔王様双六で遊びましょう。
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数分後、争奪戦の末、男鹿と姫川が燕尾服、神崎と古市がメイド服を着るはめになってしまった。
腕っぷしで完敗したボロボロの2人はどんよりとしたオーラを漂わせていた。
((帰りたい…))
男鹿と姫川は対戦相手だというのに、「よくやった」と握手していた。
「おまえらもう一緒に組んで死ねッ!!!」
隠しもしないそのやり取りを見ていた神崎は中指を立てて怒鳴りつける。
古市も強くうなずいていた。
「かわいそうに…」
邦枝もメイド服を着せられた2人に同情していた。
それを冷めた目で見下ろしていたヒルダは「準備が出来たな。では、順番にサイコロを振るぞ」とスムーズにゲームを進めようとする。
「サイコロは誰が振るんだ?」
「誰でもいいが、坊っちゃまに振っていただこう。さぁ、坊っちゃま」
姫川の問いに答えたヒルダは、ベル坊の小さな手にサイコロを優しく握らせた。
「アイッ」
受け取ったベル坊はそのサイコロを、ボードに向かって投げつけた。
「わぁあっ!!?」
「危ね!!!」
「ボードに投げつけんなベル坊!!」
反射的にそれを避ける男鹿達。
ベル坊の掌より小さなサイコロでも、男鹿達にとっては四角い大岩だ。
危うく潰されるところだった。
ちなみに、出た目は4。
「4か」
「いきなり不吉な数字で」
古市が言いかけたところで、姫川と古市の姿がスタート地点からフッと消えた。
「古市!?」
「消えたぞ!」
辺りを見回す男鹿達だったが、すぐにヒルダが説明を入れる。
「慌てるな。ちゃんと映像が出る」
そう言ったあとに、上空に大きなモニターが出現した。
しかも3D映像。
古市と姫川は学校の教室のようなところに移動し、たった2席しかない椅子に座っていた。
連れてこられた本人2人もキョトンとしている。
机の上に置かれているのは、数十冊の薄い問題集だ。
“夏休み前夜!魔王様の宿題をやろう!”
それがでかでかと画面に表示されていた。
「「「「「「は…?」」」」」」
「難しいお題ではない。夏休みに課題はつきもの。テスト前夜になってできなかったというかあることすら忘れていた主の宿題を下僕が代わりを務めるのは当然のこと…」
「汚ねぇ!! どこのせこい小学生だ!!」と姫川。
「友達に宿題写させてもらえよ!!」と古市。
つっこむ2人だったが、ヒルダはまた平然と返す。
「写させてもらえる友人がいない前提だ」
「悲しいご主人さまだな!! だからって下僕も甘やかすなよ!! 一緒にやってやれよ!! わからないところは教えてあげよう!!」
息継ぎせずつっこむ古市にヒルダは淡々と「がんばって1時間で仕上げろ」と言った。
「1時間!?」
「落ち着け古市、この問題、どれも小学生低学年レベルだ。癪だが解くしかねーだろ。仕方ねえから算数と理科はやってやる。…なんで英語がねーんだ」
「じゃあオレは社会と国語を…。ホントだ。英語がない…」
姫川と古市は分担しながら宿題を終わらせることに専念した。
ミッションに失敗して痛い目に遭うことを恐れたからだ。
元々石矢魔の中で頭の良い2人なので、1時間で終わらせるのは余裕だった。
残った感想文と絵日記もほぼ適当に書いた。
それを見ていた男鹿と神崎と東条はそのミッションが当たらないことを祈った。
ミッションを達成し、2人は画面から消え、男鹿達より少し離れた場所に出現した。
「理科の問題に冥王星あったぞ。何年前の問題集だよ」
「色々引っかかりましたけど、無事に4マス分進んだみたいですよ」
続いて、東条&邦枝のターンだ。再びサイコロを振るベル坊。
次はちゃんと床に投げた。
出た目は5だ。
瞬間、東条と邦枝の姿がスタート地点から消え、残されたメンバーは画面を見上げる。
どこかへ飛ばされた2人は、真っ白なキッチンのような場所に立ち、フリルのエプロンを身に着けていた。
“超美味い!魔王様に料理を作ろう!”
「ここに書いてあるメニューを作ればいいのね」
邦枝はキッチンに置かれていた紙を見つけて東条と一緒に見る。
注文されたのは、ラーメン、お好み焼き、たこ焼き、チャーハン、バケツプリンと偏ったものだ。
「最後のデザート…」
「邦枝、サポートは任せた」
数々の飲食店のバイト経験をしてきた東条にとっては腕が鳴るミッションだ。
「オレが作ってやる」
そう言って、鳴らさなくてもいいコブシを、ゴキゴキ、と鳴らす東条。
今にも目の前の食材に殴りかかりそうな東条に不安を覚えながらも、「そう言うなら任せるわ」と邦枝は指示に従うことにした。
東条が食材を手に取った瞬間、流れるようにメニューが出来上がっていく。
「野菜ラーメンお待ち!! とろろ入りお好み焼きお待ち!! ロシアンルーレットたこ焼きお待ち!! キムチチャーハンお待ち!! 七色バケツプリンお待ちィ!!!」
炭水化物ばかりのメニューに色々手を加えたものばかりだ。
七色バケツプリンも、かぼちゃ、さつまいも、黒ゴマ、夕張メロン、バナナ、いちご、ミルクの味に分けられていた。
見ていた面々は思わず喉を鳴らす。
ミッションの結果は、見事にクリアだ。
画面に大きな二重丸が出る。
「お粗末!!」
東条が例のセリフを口にすると同時に、東条と邦枝は古市と姫川の少し先に現れた。
「この調子であと何マス分進めばいいんだよ」
姫川の呟きを聞いてヒルダは「案ずるな」と声をかけた。
「50マス前進すればよい」
「意外と少ないわね」
邦枝がそう言うと、ヒルダは頷いて返す。
「気軽に遊べるゲームだからな」
盤上は広大に見えるので、1日以上かかるものかと思っていたが、それを聞いて全員が安心した。
そしてようやく回ってきた3番目。
「ダッ」
男鹿を応援しているのか、ベル坊はサイコロを振るだけだというのに気合の入った顔つきになり、握りしめた手をぐるぐると回し、サイコロを放り投げた。
宙に振られたサイコロはそのまま重力に従って落下し、ベル坊の頭に、コツンッ、と当たってから床に落ちる。
出た目は6。
「おお! 6…」
「ビエエエエエエッ!!!」
「「ぎゃああああああっ!!!」」
最高の目に喜んだのもつかの間、サイコロが頭に当たって痛い思いをしたベル坊が泣き出して放電し、盤上にいる男鹿と、傍にいた神崎がたまらずに叫び声を上げた。
そのままスタート地点から消える2人。
“見つけろ!魔王様の御本!”
黒焦げた2人が移動した場所は、大きな図書館だ。
寂しくないようにと魔界の住人達もまばらにいる。
「なんだここ…」
「図書館…みてーだな」
「神崎、おまえタフだな」
男鹿に続いて身を起こして辺りを見回す神崎に声をかけると、神崎はフッと不敵な笑みを浮かべる。
「120万ボルトステッキ振り回してるヤロウと毎回(痴話)喧嘩してるからな」
つまりは慣れだ。
「本を探せばいいのか?」
宙に浮かんでいるミッションの文字を見た男鹿と神崎が「どんな?」と首を傾げていると、司書らしき悪魔から1枚の紙をもらった。
書かれていたのは漫画の5タイトルと巻数。
「本って漫画かよ」
「制限時間は30分だとよ。…手分けして探すか」
なにせファンタジーに登場しそうなほどの広大な図書館だ。
漫画コーナーだけでも何万冊と棚に並んでいる。
神崎は棚の一番手前の右端から、男鹿は棚の一番奥の左端から探していく。
25分が経過した頃には、男鹿は2冊、神崎も2冊、目的の本を探し当てていた。
残りは1冊だ。
「…男鹿」
「あったか!?」
不意に声をかけられたので、男鹿は呼ばれるままに神崎のもとへ駆けつける。
神崎が睨むように見上げたところにあったのは、最後の目的の本だ。
「よし、これでクリア…」
「待て男鹿」
男鹿が手を伸ばそうとしたところで、神崎はその手首をつかんで止める。
「あ?」
「オレが見つけたんだ。…オレが取るべきだ」
「…お…、おう…、だったら、早く取れよ…」
それぐらいなら譲れる。
男鹿は伸ばした手を引っ込めて一歩下がり、神崎が取るのを待っていたが、神崎は本を睨んだまままったく動かない。
「…おい?」
「………男鹿…、ちょっと踏み台になれ」
「あ゛?」
爪先立ちしても、数センチの差で届かなかったのだ。
「「ぶっ!!(笑)」」
姫川と古市は思わず噴き出してしまった。
本人に聞こえていたら激怒しているところだろう。
「四つん這いになってオレの脚立になれって言ってんだよ」
凄む神崎だったが、男鹿が簡単に了承するはずがなかった。
ふざけるな、と睨み返す。
「届かねえんだろ。素直にオレに取るよう頼めよ」
「このオレがそんな屈辱的なことができるかボケ!!」
「代わりに屈辱的なことさせようってか!!? 持ち上げてはやるけどよ」
そう言って神崎の両脇に両手をを差し込んで持ち上げてみる。
「わぁっ!! ちょっ!! 余計に悪いわっ!!」
「あ、正面じゃムリか」
「そういうことじゃなくてだな!!」
「「なにやってんだ男鹿ァッ!!」」
嫉妬の智将組。
その時、突然、ブザーのような音が鳴り響き、「時間切れです」とアナウンスが流れ、2人は胸倉をつかみ合ったまま何事かと天井を見上げる。
瞬間、2人はスタート地点より後ろの方に飛ばされてしまった。
「…あれ???」
「遠い…?」
戸惑っている2人に、ヒルダは説明する。
「お題をクリアすれば、出た目の数だけ進めるが、失敗すれば、出た目の数だけマイナスになってしまい、ゴールからも遠ざかるぞ」
「「なにぃぃいいいい!!?」」
他のメンバーも、聞いてないし…、と愕然としていた。
「進むごとにお題もレベルアップしていくので、まあ…、頑張って立派な下僕になって帰ってこい」
「「ふざけんな――――っっ!!!」」
男鹿と神崎の怒号も虚しく、サイコロは振られた。
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