小さな話でございます。
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その日、神崎が風邪を引いて学校を休んだ。
「はぁ…。だるい…」
冷えピタを貼ったままベッドで仰向けにいる神崎は呟く。
スマホで時間を確認すると、今学校は昼休みだろう。
家の中は静かだ。
武玄は二葉とともに出かけ、他の組員もそれについていき、数人の組員しかいない。
あまり面倒をかけると神崎がうざがるから、そっとしておいている様子だ。
(病人ってヒマだから困る…)
メールを確認すると、夏目、城山、花澤から心配してくれているメールが届いている。
なのに、肝心の恋人の姫川からは一通も来ていない。
なんとなくムカついて、壁側に寝返りを打つ。
だがすぐに反対に寝返りを打った。
「……喉乾いた」
顔をしかめて身を起こす。
ベッドから降りてそのまま部屋を出ようとしたところで一件の着信が鳴り響いた。
姫川からだ。
ちょっと嬉しくなった気持ちを抑え、通話ボタンを押す。
「何?」
ぶっきらぼうな声が出てしまったが、相手は気にしない。
“元気?”
「だったら学校休むか」
“だよな。言ってみただけ”
「人が体調崩してる時に電話かけてくんじゃねーよ」
“切ればよかったじゃん”
「……………」
含み笑いの返しがムカついた。まるで気持ちを覗かれているようで。
「……切ったら何事かってひっきりなしに電話かけてくんのはてめーだろ。…くしゅっ」
一度間を置いて言い返した直後、くしゃみが出てしまう。
“おい、部屋の中でもマスクくらいはしろよ”
「うるせぇ。くしゅっ」
くしゃみをしながら廊下へ出る。
“せめて上着くらいは着て出ろ。廊下冷えるだろ”
「めんどくせーよ。とりあえず今は何か飲みてえ」
せめてポカ●か何か、水分を補給できるものを枕元に置いておくべきだった。
“冷蔵庫、麦茶しかなかっただろ”
「え。スポーツドリンク的なの、ないのか? あ、でもオレンジジュースくらいは…」
“昨日二葉が飲み干してた”
「あー、そうだった…」
昨夜、二葉が嬉しそうに飲んでいた場面を思い出して天井を仰ぐ。
“とりあえずお茶でもいいから飲んどけ。それから、居間にある小棚の2番目の引き出しに風邪薬か何かあっただろ。それ飲んでさっさと寝ろ”
「おう。……………」
神崎はスマホを通話状態にしたまま、冷蔵庫を開けて麦茶を飲みほし、居間に行って小棚の2番目の引き出しにある風邪薬を飲んだ。
「……………」
部屋に戻ろうとした途中、立ち止まる。
おそるおそるスマホを耳に当てた。
何も返してないのに、「どーした?」と聞かれる。
“おまえ、今、どこだ?”
「どこって学校に決まってんだろ」
その証拠に、後ろから男鹿達の雑談が聞こえる。
少しして、チャイムも聞こえた。
神崎の顔が徐々に蒼白になる。
「おまえ、やけに詳しいな。オレの状況とか、家の中のこととか…」
風邪薬がどこに置かれているかなど、姫川に言った覚えも見せた覚えもないどころか、神崎にもわからなかった。
冷蔵庫の中のことまで把握していたのだ。
思えば、部屋を出てから、人がマスクしてるかしてないか、廊下に出ているのが見えているような言い方だった。
“そりゃもう愛? あ、先公来たし、いったん切るわ。それと、あと10秒で桃缶買ってきた二葉と親父さんが帰ってくるから。よかったな”
それだけ言い残して姫川は通話を切った。
そして、10秒後、玄関が開く音が聞こえた。
「ただいまーっ。はじめー、桃缶買ってきたぞーっ。二葉も食べていいか!?」
桃缶を抱え、武玄とともに神崎のいる部屋へ向かう二葉。
ドアを開けると、そこには毛布を被って恐怖で震えている神崎の姿があった。
「? どうしたはじめ」
「何かあったか?」
「親父!! 今すぐ家中調べろー!!!」
姫川の言う『愛』に、風邪とは違う寒気を覚えた。
*****
「姫ちゃん、神崎君が学校休んでても楽しそうだよね。神崎君よりスマホ?」
「♪」
そんな姫川のスマホの画面には、毛布をかぶって身震いしている神崎が映っていたことは、姫川しか知らない…。
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