小さな話でございます。
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夏の昼時だというのに、空は薄暗い灰色の雨雲で覆われていた。
突然降ってきた雨は屋根や窓を叩きつけ、猫の耳にとっては騒音だ。
しかも蒸し暑いし、気分は最悪。
早く止まないかと思っても、雨脚は強まるばかり。
今日は神崎のところに行けそうにないな。
オレは雨の中だろうが嵐の中だろうが構わないが、帰ってきた時の主人のことを考えると迂闊に出られなかった。
一度、神崎に会いたさあまり、言いつけを破って抜け出したことがあり、帰ってきた泥まみれのオレを見て激怒された挙句、強制的に風呂に入れさせられ、熱いドライヤーを当てられたことがあった。
クソゥ、動物虐待だぞ、アレは。
思い出したらうんざりした気分になる。
専用のベッドから顔を上げて窓を見ると、カッ、と空が眩く光り、ゴロゴロと雷が鳴った。
「あ、また鳴った」
空が光ったら、あの爆音に備えて心構えしておく。
いちいちびっくりしてちゃ、小さな心臓がもたねえからな。
「あいつら大丈夫かな…」
神崎達のアジトは廃車置場。
雨宿りできる場所はたくさんある。
雷が落ちることもないだろう。
(今日は外出るのやめとこ)
少し早いが昼寝でもしようかと丸くなった時だ。
バンッ バンッ バンッ
「!?;」
窓ガラスが乱暴に叩かれる音に顔を上げると、ちょうど雷が光り、窓に怪しげな影が映った。
雷よりびっくりしてしまう。
「姫川! おい! 開けろっ!」
「神崎?」
何やら切羽詰まった様子だ。
神崎は家の中に入りたそうに窓ガラスをバンバンと両手で叩いたり、「ぬぐぐ」と険しい顔で窓を押したりする。
迎えに来たにしてはいつもと様子が違うし、雨の日はあまり外出することも伝えたはずだ。
「開かねえぞ! 呪文が必要か!?」
「落ち着け。この窓はそっちからだと引くんだよ」
オレは窓際に飛び乗り、内側から押して開けてやった。
すると神崎は少しの隙間から中に入ってくる。
てん、と床に着地し、ぶるぶると身体を振って水しぶきを飛ばした。
「そこで水飛ばすなっ! カーペット汚れんだろ!」
怒られるのはオレなんだぞ。
「ったく、どうしたんだ突然…。びしょびしょで入ってきやがって」
「い…、いや、おまえが元気にしてるか見に来てやったんだよ」
「声震わせながら何言ってんだ。オレは元気だし、絶対嘘だろ。視線逸らすな」
声だけでなく体も震えていた。
何かに怯えているかのようだ。
「おい、何があった?」
仮にもボス猫のこいつを震わせるものがあるのか。
オレが尋ねても神崎は言いづらそうだ。
なかなか打ち明けてくれない。
その時、再び外が、ピカピカッ、と光った。
ピシャァッ ゴロゴロ!
数秒後に雷鳴が鳴り響く。
「おお。近いな…。あれ? 神崎?」
一度窓に振り返って神崎に視線を戻したが、神崎の姿がない。
部屋を見回すと、主人のベッドの下から尻尾が飛び出していた。
まさに頭隠して尻隠さず。
「…神崎?」
ビクッ、と神崎の体が震えた。
わかりやすい反応だが一応聞いておこう。
「おまえ雷怖いのか?」
「……………」
ゆっくりとベッドの下から出てきた。
強引に笑みを浮かべている。
「わ、笑わせんなよ姫川…。こっちは天下のボス猫…神崎様だぞ…。今のはな、おまえがベッドの下に美味そうなマタタビがあるか探してただけで」
ピシャァ!!
「ニャ゛アアアアア!!!」
雷に打たれたような声を出してオレに飛びついてきた。
「神崎! おい! しまるしまるしまる!!」
きつくオレの首に腕をからませてくるのでタップして落ち着かせる。
目の前の耳は垂れ、これでもかと体を密着させてくる。
苦しいが、なんだコレ可愛いぞ。
「うぅ…ッ。…そうだよ、大嫌ぇだ雷なんて…!」
潔く白状した。
話によれば、子猫の時からトラウマレベルで苦手らしい。
いつもなら仲間に内緒でどこかに隠れてやり過ごすらしいが、たまたまオレを迎えに来たところ、突然の雷雨に見舞われたとか。
「それで避難してきたと…。素直に白状しろよそこは」
「な、情けねぇだろ…。ボス猫が雷苦手なんてよ…。な、夏目達に絶対ぇ言うんじゃねえぞっ」
睨みつけてくるが目に涙が浮かんでいる。
「はいはい」
絶対言いたくないことなのにオレの元に来てくれたのは嬉しい。
それにこんな弱気な神崎、滅多に見られないし。
普段が、オレ様ボス様神崎様と威張ってるこいつが、雷怖がって震えてるとか最高なギャップを持ってるなんて。
「っっ」
また雷が光り、神崎は縮こまる。
「姫川ぁ」
「怖くない怖くない」
毛を逆立たせているので優しくあやすように舐めてやった。
神崎には悪いが、雷がもう少し続けばいいとか願っちゃったり。
*****
「コラァ!!!」
「ニャ」
しばらくして雷雨がやんで空が青天を取り戻すと、神崎はアジトに戻ってしまい、家に帰ってきた主人は濡れたカーペットとオレを見て雷を落とした。
神崎といる時の雷は好きだが、こちらの雷は大の苦手だ。
ああヤだな、フロ…。
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