とんだ奴らが入れ替わりました。
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姫川の体を借りた神谷と神崎は一緒に学校に登校した。
聖石矢魔学園に来たのは初めてだったが、神崎の足についていったおかげで無事に教室に到着することができた。
教室の雰囲気は、共学だというのに珍高のそれと似ていたので、すぐに馴染めた。
姫川本人がひとり静かなため、アクションを起こさない限りは誰も神谷だと気付かない。
ただ、今日の姫川はノットリーゼントバージョンなので、今日はどうしたのかと注目の的になっていた。
聖石矢魔の女子達も通過するたびに2度見したり、そのまま魅入る者もいる。
休憩時間にトイレに入った神谷は、鏡に映る姫川の顔を見る。
(これは確かに男でも惚れそうな…)
女装をしても違和感はなさそうだ。
(しかし姫川さん…、リーゼントとサングラスとると超絶なイケメンとか、その上金持ちでズルすぎる…! もはやチートじゃねーか!)
解せなかった。
これは勝てるわけがない、と敗北感を覚えたとき、不意に「おい」と声がかけられ、そちらを見ると神崎がドアに背をもたせかけていた。
起こしたせいか、朝から少し不機嫌だ。
「なんです…、いや、なんだ? 神崎」
思っていたのとは違うが、自分が姫川なら、神崎の恋人でもあるのだ。
それらしく振る舞うために、神谷はヘタな笑みを浮かべながらも姫川になりすまそうとする。
「……ちょっと来い」
「え、でもこれから授業…」
「いいから」
「はい」
授業をサボって連れてこられたのは、校舎裏だった。
「どういうつもりだ…」
神崎は腕を組んで刺々しく言う。
「へ?」
神谷にはなんのことかわからなかった。
まさか姫川でないことがバレてしまったのか。
冷や汗が出てきたが、神崎が言いたいのはそういうことではなかった。
「オレ前に言ったよな? 外に出る時は絶対リーゼントにしろよ、って」
「ああー…」
(どんな約束してるんですか)
「ポマードでも切れたか?」
「実は…」
そういうことにしておこうと頷く。
「ったく…、オレが落ち着かねえんだよ…」
そう言ってそっぽを向く神崎の顔は、ほのかに赤い。
あれ、と神谷は首を傾げる。
もしかして、他の女が寄ってくるのが嫌なのだろうか、それならばなんとわかりやすい人だ、と。
「てめーはリーゼントでビシッと決めときゃいいんだよ。今すぐ近くのコンビニでポマード買って…」
神崎が言い切る前に、神谷は神崎を正面から抱きしめた。
突然のことに神崎は耳まで真っ赤にさせ、「な、なんだよ突然…」としどろもどろに言う。
「いや、可愛くて…」
「はあ!? てめー熱でもあんじゃねーの!? ちょ、待て待て待てっ!」
神谷が唇を向けた時だ。
「ウラァッ!!!」
突然飛んできた右足が神谷の顔面を蹴りつけた。
「姫川ぁ―――っ!!?」
神谷は地面を削るように滑り、校舎の壁に当たって止また。顔面には靴跡が残っている。
「おまえら…!」
神崎が見たのは、地面に着地した神谷(中身は姫川)と、ボコボコにされて体にロープで結ばれ、ここまで引っ張りまわされたヘアバンだ。
神谷が蹴られたのを見たヘアバンは、「よく自分の顔を躊躇もなく…っ」と大口を開けて唖然としていた。
「てめぇ人の体でなにしようとしてくれてんだっ! オレの体だからって許されると思うなよ!? 神崎にキスしていいのは世界でオレだけなんだからなっ!」
「すみません、神谷さん…」
気絶しない程度に加減された神谷は身を起こし、「げ」という顔をした。
神崎は「おい、大丈夫かよ」と駆け寄る。
「近づくな神崎。そいつは姫川竜也じゃねえ!」
そう言われた神崎は、姫川を睨み、「他校に潜入しておいて、随分なご挨拶じゃねーか。修学旅行でのお礼参りか? あ?」と喧嘩腰だ。
神谷の体の中身が姫川だと気付かない。
姫川は舌打ちし、「まあ、こんな非常識なこと信じなくて当然か…」と呟き、そうはわかってても説明しなければならなかった。
「聞けよ、神崎。そいつとオレの魂が、こいつらのせいで入れ替わっちまったんだよ」
ぐい、とヘアバンを結んだロープを引っ張る。
「はあ?」
「だからっ、オレが姫川で、そいつが珍高の奴なんだよっ!」
自分と神谷を指さすと、神崎はじっと神谷を見つめ、それから姫川をじっと見つめた。
「……いつもの姫川に見えますけど? 姫姫詐欺のつもりか?」
「一緒にすんなぁっっ!!」
ショックを受ける姫川。
悪魔がどうのと言っても、神崎はますます不審に思うだけだ。
それならばと自分が知ってる限りの情報を口にする。
「神崎一。18歳。誕生日は6月1日。身長は178cm。血液型はA型。好きなものはヨーグルッチ。父親は関東恵林気会組長神崎武玄。兄は神崎零。姪は神崎二葉…」
そこではっとする。
神崎は侮蔑の眼差しをこちらに向けていた。
「ぐ…っ」
「信じるどころかむしろドン引きしてますけど」とヘアバン。
(頼むからオレの体でそれ以上嫌われないでくれ…)
優勢はこちらなのだが、心が痛まないわけではない。
「どうやったら信じてくれるんだ…!」
姫川は頭を悩ませ、閃く。
「そうだ!! おまえの感じやすいところとか!!? たとえば、ち」
ゴッ!!
今度は神崎がドロップキックをお見舞いした。
ヘアバンを巻き添えに地面に仰向けに倒れる姫川に、神崎は「失せろ」と冷たい言葉を投げる。
「行こうぜ、姫川」
「あ…、ああ…」
不意に罪悪感に襲われる神谷。
神崎は今、自分の手をとって教室に戻ろうとしている。
嬉しいはずなのに、置いていかれる自分の体を気にかけてしまう。
これでいいのか。
「あ……」
これで満たされたのか。
「あの…っ」
神谷が言い出そうとしたとき、神崎は背中に衝撃を覚えた。
ぶつかる勢いで姫川に抱きしめられる。
「おい…!」
いい加減にしろ、と睨む神崎の顔には戸惑いの色が見えていた。
「いくらだ!? いくら出せば、信じてくれるかって聞いてんだよ!!?」
途端に、神崎の動きが完全に止まった。
「……………姫川…!?」
「「なんでっっ!?」」
姫川の口癖を知らない神谷とヘアバンは同時に疑問の声を上げた。
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