とんだ奴らが入れ替わりました。
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ここは聖石矢魔学園……ではなく、南珍比良高校だ。
略して、珍高(神崎命名)とも。
下校時刻となった夕方、2年の教室に南珍比良高校東邦神姫と他の不良達が集結していた。
カーテンが閉め切った真っ暗な教室の中、机はすべて端にどかされ、全員、ロウソクを中心に輪になって姫路の話に耳を傾けている。
なぜか、珍高の不良達は季節外れの怪談噺をしていた。
姫路は自分の顔に懐中電灯を当てながらゆっくりと語っている。
「それで音のした方に近づいてみたが…、なにもない。なんだ気のせいかと振り返った瞬間…、女の」
「ギャァア―――!!!」
「「「「「ギャアアアアアアアッ!!!」」」」」
突然神谷が耐え切れず悲鳴を上げたので、語り手のはずも姫路含め全員が悲鳴を上げた。
「神谷さん! 神谷さん! 落ち着いて! まだオチ言ってませんからっ!!」
神谷お付きのヘアバンはパニックを起こしかけた神谷をなだめた。
「バカ驚き過ぎなんだよ!!! 逆にびっくりさせられたわっ!!」と東山。
「オチ言う前に叫ぶなよ」と姫路。
これで何度目だろうか。
心臓が持ちやしない。
「次はオレか…。神谷、途中で声上げるなよ?」
鼓動が落ち着いた姫路は、持っていた懐中電灯を隣の邦彦に手渡し、邦彦はライトを点けて自分の顔を照らし、咳払いをしてから自分の知っている怪談噺を始めた。
「これは本当にあった話らしい…。オレ達の学校…、南珍比良高校の2年校舎の2階にある男子トイレ…。そこに入って奥から2番目の鏡…。アレには悪魔が宿ってるらしい…。午前2時に、その鏡と別の鏡で合わせ鏡をつくると、悪魔がこちらに向かって走ってきて…」
ゴクリ、とその場にいた誰もが唾をのんだ時だ。
「なにコソコソしてんだぁっ!!?」
いきなり邦彦の背後から哀場の顔がぬっと出てきた。
「「「「「ギャアアアアアアッッッ!!!」」」」」
ちょうど邦彦が持っているライトに照らされて迫力が出ていた。
「忘れもんしたから取りに来てみれば…」
哀場が腕を組みながらふくれっ面をし、ふと、神谷に視線を移した。
「…神谷、なに寝てんだ」
「神谷さあああああんっっ!!」
神谷は気持ちよさそうに気絶していた。
*****
その夜、就寝しようとしたヘアバンのケータイに一件の着信がかかってきた。
「ん…」
もぞもぞと布団から顔を出し、「誰だこんな時間に」と顔をしかめたままケータイをつかみ、確認することもなく通話ボタンを押して耳に当てた。
「もしもし…? ……ん? 神谷さん?」
そして、深夜の珍高に呼び出されたヘアバン。
正門の前には神谷が仁王立ちして待っていた。
「悪いな、こんな時間に…」
「いえ、いいですけど…。あの…、マジで行くつもりっスか?」
電話で聞いた内容はコレだ。
邦彦の怪談噺が本当かどうか真相を確かめに行くとのことだ。
そこでなぜか自分だけが呼び出されてしまった。
「っていうか、マジで信じてんスか?」
「バカヤロウッ。だからこれから調べに行くんだろうがっ」
ひとりでは怖いから行けないとは口が裂けても言えないが、ヘアバンは察していた。
他のメンバーだと笑われかねないらしい。
時間は午前1時半。
噂の時間まであと30分。
時間が来てしまう前に2人は閉じられた門をよじ登って校内に潜入し、2年校舎へと入っていく。
昼時と違って、夜の学校は不気味さを漂わせていた。
靴音も廊下に響いて木霊し、より一層薄気味悪い。
階段を上がって、噂の男子トイレの前に立った。
「……………」
すでに大量の冷や汗をかいている神谷を見て、ヘアバンは「お先です」と先に入る。
神谷も密着するようにそのあとに続いた。
照明を点けようとしたが、壊れているのか点かなかった。
「………これか」
一番奥から数えて2つ目。
この鏡だ。
ケータイの画面に映る時刻を見ると、1時55分。
あと5分だ。
「もうすぐで時間ですね」
「おう」
「あの…、くっつきすぎじゃ…」
「気にするな」
「いや…」
(オレが気にするんですけど…)
どちらも落ち着かないまま時刻は1時59分を迎えた。
「神谷さん、そろそろ鏡を…」
「わ、わかった」
神谷はこの時のために家から持ってきた真四角の鏡を取り出し、ビビりながらも鏡を合わせた。
鏡に映る鏡が、気が遠くなるほどに重なった。
それは幻想的で、目を奪われるほどだ。
合わせ鏡の先の闇は深く、肌を粟立たせる。
「……な…、なにも起こりませんね」
「へ…、へへっ、ほら見ろ。やっぱデタラメじゃねーか…。邦彦のヤロウ、適当言いやがっ…」
ピンポーン…
「「!!?」」
突然聞こえたインターフォンのような音に、2人の体が同時に跳ねた。
どこから聞こえてきたのか。辺りを見回すが音の出所がわからない。
ピンポーン ピンポーン ピンポーン…
続けて鳴らされる音に胸騒ぎがした。
「な…、なんの音だ…」
「か、神谷さんっ!」
ヘアバンがトイレの鏡を指さして見ると、鏡面に人の顔が出ていた。
「「うわああああああっ!!!!」」
学校中に響き渡る2人の絶叫。
「あー、はいはい。驚かない驚かない」
鏡から出てきた鏡の悪魔は、だるそうに鏡から「あらよっと」と出てきて、鏡の下にある洗面台に腰掛けた。
下はジャージ、上はパーカー、頭には悪魔の角付きフード、目にはゴーグルをかけた、同じ年頃の男だ。
左頬が少し腫れているように見える。
((なんだこいつ…っ!!))
想像上の悪魔の容姿とは違っていたので、2人が驚いたのは一時的だ。
妙な親近感があった。
鏡の悪魔は大きな欠伸をする。
「ふわぁ…。オレ的には久々の客人だったから出遅れちゃったよ…。で、呼び出したのはドチラサマ?」
「神谷さん聞かれてますよほらほら」
ヘアバンは小声で言いながら神谷の背中を押す。
「押すんじゃねえっ。…オレだよ」
神谷はおそるおそる前に出た。
「あ、そっちのお兄さんか。オッケーオッケー。―――で、願い事は?」
「は?」
神谷の間抜けな返事を聞いて、鏡の悪魔はキョトンとした。
「……おいおい、知りもしねえで呼び出したわけ? 願いごとあるから呼び出したとか思うじゃねえか。それともピンポンダッシュしようとした?」
(あれってやっぱりインターフォンだったのか)
少しムッとした鏡の悪魔の顔に、神谷は「いや、そういうわけでは…」と腰を低くする。
「そうじゃないなら、なんかないの? 金持ちになりたい、イケメンになりたい、好きな奴と付き合いたいとか…。定番なものなら大歓迎だ。オレ的にはそっちの方が簡単だからな」
「……………!」
思い当たることがあったのか、神谷が「じゃあ…」と言い出したところでヘアバンが「待ってください」とその口を手で塞いで遮った。
「叶えたとして、その代償は? 魂とかだったら断らせてもらうからな。うまい話には裏があるなんて、それこそ定番じゃねえか」
確かにそれはシャレにならない、と神谷は顔を青ざめる。
鏡の悪魔は「あー、そうだ言い忘れた」と思い出したように言って、神谷に手を差し出した。
「オレ的には、今月マジで稼ぎねえから、虫歯の治療にも行けなくて困ってんだ。だから診察料だけでもいいから欲しいな。ってことで金」
「そこは現実的だなっ!!」
「つうか、その頬の腫れ、虫歯だったのか」
ヘアバンと神谷は思わずつっこむ。
唖然としていた神谷だったが、財布を取り出して「5000円でいいか?」と鏡の悪魔に尋ねた。
「…もう一声」
「6000円」
「うーん…」
「オレもちょっと出しますよ」
結局、2人合わせて1万円。
「これで嘘だったらその鏡叩き割るからな」
痛恨の出費に、神谷は涙を浮かべながら鏡の悪魔に言う。
千円札の束を数えながら、鏡の悪魔は「信用しろって」と適当に返事を返した。
「願い事は?」
「……その…、憧れてる人がいて…、その人と付き合えたらなぁ…って…」
照れながら言う神谷。
その願い事を聞いて、ヘアバンは複雑な表情をした。
すると鏡の悪魔は、それが誰とも聞かずに「おー、いいよー」と頷く。
「オレ的に得意な願い事じゃねーか。青春だね―――。よし、ちょっと待ってろ」
そう言って、右手を背後の鏡の中に突っ込んだ。
鏡面が水面のように揺れる。
そして取り出したのは、真っ黒な金属バットだ。
「「?」」
そんなものをなにに使うのか。
2人が首を傾げると、鏡の悪魔は洗面台から降りて数回素振りし、神谷に振り向き、左手に持ったそれを振り上げ、宙でくるくると魔法の杖のように振りながら呪文を唱え始める。
「チッルグーヨルグルグルーグ」
終わると、いきなり神谷の頭上に向かって振り下ろした。
「え」
ゴッ!!!
「神谷さああああああああんっっ!!!」
大きなコブが膨らみ、神谷は気を失ってしまった。
ヘアバンは気絶した神谷の頭を自分の膝にのせ、生死を確認する。
「よっしゃ!」
「なにがよっしゃだ! 人でなしぃーっ!!」
「悪魔ですから。心配すんな。オレ的にはこれで成功なんだよ。明日、目が覚めたら願いが成就されてるはずだから。…ってことで、またのお越しを―――」
洗面台に片足をかけながらそう言って、鏡の悪魔は鏡の中に帰ってしまった。
「なんて適当な悪魔だ…」
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