小さな話でございます。
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「それ、ちょっとよこせよ」
休み時間、姫川が自分の席に座ったまま風船ガムを噛んで膨らませていると、神崎が指をさして要求してきた。
「ん?」
姫川は膨らんだ風船ガムを指さして尋ねる。
「そーだよ。ヨーグルッチ買う時間がねぇから」
なにかで口を満たしたいのだ。
「いいけど、たぶんもう味しないと思うぞ」
「誰がてめーの噛みたてくれっつった。新品よこせ新品を」
要求通りに、おまけでもらったまだ未開封のをあげると、神崎はその場で包みを外して2個ほど口の中に放りこんでくちゃくちゃと噛みだした。
青りんご味でご機嫌だ。
ほんわかと神崎から爽やかな青りんごの香りがする。
「……ぷ(パチンッ)」
膨らまそうとして、失敗した。
神崎の風船ガムはピンポン玉ほども膨らまない。
普段噛まないため、できない様子だ。
「へたくそだな」
姫川は呆れながら言って、顔が半分隠れるほど大きな風船ガムを膨らます。
非常に余裕な表情だ。
「~っ」
神崎は負けじと膨らませようとするが、すぐに割れてしまう。
きっと噛んだ数が少ないからだともうひとつガムを噛んで膨らみを増量させた。
それでもピンポン玉くらいにはなったが、やはりまたパチンと割れて口周りを汚した。
「む~っ」
「だから舌で伸ばして空気を送り込んでだな…」
「おまえらー、授業始まってんぞ」
いつの間にか授業開始のベルも鳴っていて、早乙女が教卓の前に立っていた。
神崎は仕方なく自分の席に戻り、それでも風船ガムに挑戦している。
それから数分後。
夜遅くまで起きていた姫川はゆっくりと訪れる眠気に首をこくりこくりと上下させていたが、背後のざわめきが気になった。
「…?」
早乙女まで釘づけになっている。
「なに騒いで…ぅわぁ!!?」
気になった姫川が後ろに振り返ると、顔全体が隠れるほど大きな風船ガムを膨らませた神崎がそこにいた。
(のっぺらぼう!?)
暗殺教室の先生の顔を書きたくなる。
神崎の前の席にいる邦枝と、隣の古市は被害に遭う前にと一足先に教卓の前に避難する。
確かに割れたら大惨事だ。
神崎の顔がまるっと風船ガムに覆われてしまう。
女性の頭にパンスト被せるような屈辱があるかもしれないのに、神崎が落ち着いているのはなぜかと姫川は席を立ち、横から窺ってみる。
「……………」
大量の冷や汗を浮かべ、かなり焦った顔をしていた。
しかし喋ると割れるかもしれないので喋れない。
酷な状況だ。
目で「なんとかしろ」と訴えている。
「おまえガム全部食ったのか」
机を見ると、先程与えたガムが全部で8枚あったのにもうなくなっていた。
全部食べても自分ではこんなに膨らませられないだろうと感心してしまう。
「…よし、そのまま動くなよ?」
あの手しかない。
そう思っても、使うのは手ではなくて自分の口だ。
反対側から噛みつき、慎重に空気を抜いていく。
風船は徐々に萎み、神崎と目が合った。
ガムで隠れて見えなかった神崎は、姫川の解決法に一気に顔を赤面させたが、姫川はかまわず空気抜きに専念する。
ようやく丸みもなくなったところでやめればいいものを、姫川はガムを口に含みながら、ポッキーゲームのように神崎に近づき、口の中に潜入し、残りのガムを奪った。
「あ。写真撮っとけばよかったな」
くちゃくちゃと噛みながらそう言う姫川に、いたたまれなくなった神崎は席を立ち、半泣きで教室を飛び出した。
「が…、ガムとられたああああっ!!」
「え。そっち?」
関わるまいと距離をとっていたが、思わず古市がつっこんだ。
姫川はしれっとした顔で噛みたてのガムを膨らませていた。
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