12年前、とある大激闘がありました。
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時を遡ること12年前。
神崎と別れたあと子姫は、すぐには保護されず、そのまま遊園地を出て神崎の行方を追っていた。
自分の行方を捜す警官や刑事とは何度もすれ違ったが、警官が知っているのはリーゼントバージョンの子姫だった。
まさか下ろしてうろついているとは思わないだろう。
「かんざき…!」
その両手に握りしめたものを神崎に届けなくては。
また会える口実になるため、子姫は必死に神崎の行方を捜したが、すでに元の時代に戻ったあとだった。
人に尋ねて訪れた場所は、神崎達が元の時代に戻る地点となった公園だ。
そこに神崎達がいないとわかると、子姫は一番下の土管の中で一休みし、そのまま眠ってしまい、一夜を過ごした。
「おいっ」
「んー?」
声をかけられて目を覚ました子姫は、目を擦りながら土管の入口に振り向く。
そこにはえらそうに腕を組んで睨む子どもがいた。
「ここはオレの土管だっ。出てけっ」
「……おまえいくらだ?」
「ああ!? 意味わかんねーこと言ってねーで出て来い」
寝ぼけながらも子姫は土管から出る。
「…っ」
薄暗い土管の中ではわからなかったが、太陽の下にさらされた子姫の姿を見て息を呑む。
フランス人形のような顔立ちと、サラサラの長い銀髪。
6才といえども、子どもはその美しい容姿に見惚れてしまった。
「なんらよー。寝かせろよー。眠いよー」
昨日の疲れがまったくとれず、眠さのあまり体がふらふらとする。
「ぅわっ、もたれてくんなっ」
それでも突き飛ばすこともできず、もたれさせたまま近くの水道場まで連れていき、顔を洗わせた。
「人さがしぃ?」
「ああ」
さっぱりしたあと、2人はブランコに座りながら話していた。
「どんなやつ?」
「金髪で…、アゴにヒゲがあって、口と耳にチェーンのピアスしてて、頬に傷のある…」
「うわぁ。ろこつに悪そうな奴だな…。おまえの兄ちゃんか?」
「ううん。でも、大事なもの忘れてったから、渡したい…」
ぎゅっと両手の中のものを握りしめる。
話を聞いていた子どもはブランコから下りて子姫に振り返った。
「よしっ。捜すの手伝ってやるからついてこいっ」
「!」
そう言って子姫の手をとって一緒に公園を出、神崎捜しを始める。
家の茂みに侵入して庭を通り抜けたり、ゲームセンターに立ち寄ったり、他の公園をのぞいたり、大通りや商店街を駆け抜けたり。
神崎は見つからないが、広い町を駆けまわる子姫は楽しそうだった。
途中、子どもはスーパーに立ち寄り、1万円札を出してあるものを購入した。
スーパーのビニール袋を提げて捜索を再開。
気付けば夕方も迫ってきたころ、子どもは子姫をつれて空き地にやってきた。
その奥の中央にある小さなクヌギの木の下でビニール袋の中から買ったものを取り出し、手渡した。
「ほらっ、これやるよ」
「!」
渡されたのは、“プレミアム”と金色の文字で記載されたヨーグルッチだ。
2人は小さなクヌギの木の下に座って飲み始める。
「「ぷぁ…」」
口の中に広がるリッチな甘さにうっとりする2人。
「知ってるかぁ? お子様じゃ手がだせないんだぜー?」
「そうなのか? じゃあ大人になったってことだな…」
飲みきったあと、一息つく。
「……捜してるやつ…見つからねえな…」
「……………ん」
子姫は小さく頷いた。
ずっと黙っているため泣いているのかと心配になった子どもはその顔を覗きこむ。
その口元は微笑んでいた。
「やっぱり…、もうちょっと大きくならないと…会えないのかもしれない…」
「?」
言葉の意味がわからず、子どもが首を傾げたとき、空き地の前で白いベンツが停車した。
「坊っちゃま―――!!」
運転席から出て来たのは勝俣だ。
「あ、勝俣…」
「坊っちゃま?」
迎えがきたので子姫は立ち上がり、ズボンについた土を払った。
同じく子どもも立ち上がる。
「…今度は自分で捜す。…ありがとな」
「けど…。!」
子姫は子どもの手を取り、持っていたものを手渡した。
「これ、やる」
「おい、これって、捜してる奴に返すもんじゃ…」
「オレ、今、それだけしかもってねーんだ。やる」
「お…う…」
困惑しながらも子どもはそれを受け取った。
手を開くと、宝石のような緑の石が夕焼けの色に照らされる。
「帰るのか…」
子どもが寂しそうに呟くと、子姫はその子どもの頬をつかみ、ちゅっ、とキスをした。
それを見てしまった勝俣は唖然とする。
「…っ!!? なななななななっ!!」
不意打ちに、子どもの顔が真っ赤になり、背中を木にぶつけた。
「最近の挨拶らしい」
「挨拶って!?」
「流行ってる」
「流行ってねーよっ!!」
「そうなのか?」
そうだとしても子姫はそれほど驚かない。
「このヤロー! オレ、チューしたことないのに…!!」
子どもは涙ぐみながら手の甲で唇を拭った。
「口と口は、オレも初めてだ」
「知らねえよっ!!」
恥ずかしがる子どもを見て、子姫はしばらく腹を抱えて笑ったあと、子どもに手を振って勝俣のもとへと走る。
「またなっ」
ひとり残された子どもは白いベンツに乗りこむ子姫を見届けたあと、「あ」と気付く。
「あいつの名前…、聞くの忘れた…」
男か女かもわからない。
それでも、どこかでまた会うような気がした。
「若―――っ」
「どこですか―――?」
「帰りますよ―――っ」
もらった石を空にかざしたとき、遠くの方で自分を呼ぶ声が聞こえた。
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