12年前、とある大激闘がありました。
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一方、子姫は観覧車のゴンドラに乗り込んでいた。
身を隠し、時計でいうなら9時の位置まで上がったところで下を窺う。
「……っ」
ビルから見下ろすのとは違った感覚だ。
徐々に上に上がっていくたびに視界に映る景色も広がる。
遊園地の娯楽施設は夜になるとイルミネーションが光り出し、サングラスを外して鮮やかな光に目を奪われた。
「あ…」
子姫は振り返ったが、そこには神崎達もいなければ、家族もいない。
「……………」
誰かと来たかったはずなのに、どうして自分は独りここにいるのだろうか。
せっかく神崎達と来たのに。
神崎達と別れたあと、この先ずっと一人ぼっちなのだろうか。
慣れない孤独感に子姫は目を伏せる。
先の不安を振り払うように頭を振ったあと、もう2度と見れないかもしれない景色を見下ろそうとゴンドラの窓を見た時だ。
「わっ!!?」
ゴンドラの窓に、アヴァンが貼りついていた。
「見・つ・け・た」
逃げ場がない。
焦った子姫は出来るだけ奥に逃げようとしたが、その前にアヴァンの手がゴンドラのガラスを突き破り、子姫の首をつかむ。
「ぐ…っ!!」
「追いかけっこはしまいだ、クソガキ」
子姫を引きずりだしたアヴァンは、子姫の首をつかんだままゴンドラの上にのる。
「放せっ!! わぁ!!」
リーゼントが解かれ、その中に埋まっていた“クロノスの魔石”を見つけ出した。
「おかえり…、オレの魔石」
魔石にキスしようとしたとき、目前に蠅王の紋章が光った。
ゼブルエンブレム。
その向こうにコブシを構える男鹿がいる。
「ウ・ソ…」
アヴァンの顔に大量の汗が浮き出る。
男鹿とベル坊は悪魔の笑みを浮かべた。
「ホ・ン・ト」
「ダ」
ズンッ!!
紋章ごとアヴァンの胸の中心に男鹿のコブシがめり込む。
「…っ!!」
アヴァンは舌を出そうとしたが、
「おらあああああっ!!」
男鹿は一発といわず、連続のパンチを叩きこんだ。
洗脳してくれたお礼とでもいうように。
「ぁが…っ」
アヴァンが白目を剥いた頃にコブシの雨をとめ、男鹿は子姫を抱えて飛び下りた。
ドガァッ!!
瞬間、殴った分だけ爆発力が増すゼブルエンブレムを受けたアヴァンは、爆発してゴンドラごと地に落ちた。
「男鹿!!」
留守番させていたアクババを呼んだヒルダは、それに飛び乗り、男鹿(主にベル坊)の救出に馳せ参じる。
飛び下りた男鹿はアクババの背中に着地した。
「魔石はどうした?」
「悪ぃ、ヤロウと一緒に落ちた」
「小さい姫川はどうした?」
「あ? それならここに…、おやぁっ!!?」
アクババに着地と同時に、腕から滑り抜けてしまったようだ。
子姫は真っ逆さまに落下中だ。
「姫川あああああっ!!」
古市とともに観覧車のもとへ向かう途中、神崎はそれを見上げ叫んだ。
子姫を受け止めるために猛ダッシュで観覧車へと走るが、神崎の脚の速度と子姫の落下速度が追いつかない。
絶望しかけた時、
「うおらああああああっ!!!」
超スピードで神崎と古市の横を後ろからなにかが通過した。
「姫川!?」
「姫川先輩!?」
神崎の自転車に乗った姫川がペダルを漕ぎながら猛スピードで観覧車に直進していた。
「乗れてるっ!! あいつ自転車乗れてる!!」
それどころか、観覧車まで近づくと自転車に乗ったまま両腕を広げ、落下してきた子姫を受け止めた。
同時に、観覧車の柱にぶつかり、横転する。
「姫川―――っ!!」
古市より先に駆け寄った神崎はダブル姫川の無事を確かめる。
「姫川!!」
「いつつ…」
姫川は擦り傷だらけだが、子姫は無傷だ。
ホッとしたのは一瞬で、神崎は険しい顔で姫川の肩を強くつかんだ。
「ムチャしてんじゃねえよっ!!」
「だって…、こいつ死んだら、オレと神崎、出会ってねーだろ?」
そう言って姫川は微笑んだ。
「姫川…っ」
そう言われてしまえば、どう返していいのかわからなくなる。
「神崎」
「!」
肩を引き寄せられると同時に、キスをされた。
唇が離れると、今度は額同士をこつんと当てられる。
「こういうことも、できなくなる…」
「……………」
一瞬で首と耳まで赤面する神崎。
それをじっと見つめる視線があった。
子姫だ。
「男同士が、キスしてる…」
「!!」
すぐに姫川から離れる神崎。
それからすぐに言い訳した。
「こ、これは、アレだ! 最近の挨拶だ!!」
「ぶっ(笑)」
どんな言い訳だよ、と姫川はそっぽを向いて口元を押さえ、噴き出した。
「つうかおまえ、姫川か?」
「うん。オレ姫川」
ノットリーゼントの子姫は、フランス人形のような愛らしい顔をしていた。
瞳も大きいうえに髪も長いため、女の子に間違えそうだ。
その大人バージョンが今そんな自分を腕に抱いている。
(クソ…ッ、眩しい…!)
ノットリーゼントのダブル姫川は眩しすぎた。
女性なら眩しさのあまり卒倒するだろう。
「動くな!!」
「「!」」
振り返ると、誘拐屋のボスが拳銃の銃口をこちらに向けていた。
「そのガキをこっちに引き渡せ。ガキ共が…、人の獲物を横取りしやがって…。素直に渡せば、穴だらけにならずに済むんだぜ?」
神崎と姫川は顔を見合わせる。
「引き渡せだとよ、あの悪党。どうする?」と神崎。
「どうするって、撃たれたくねーしなぁ」と姫川。
「「ほらよっ!!」」
神崎と姫川はあっさりと子姫をボスに向かって投げ渡した。
まさか小さな子どもを投げるとは思わないだろう。
子姫を見上げるボスは両腕を広げ、受け止めようとした。
だが、子姫が文句も言わずに、そう何度も大人しく投げられるわけがなかった。
ボスに受け止められる前に、ニヤリと口端を吊り上げた子姫は背中に手を回し、腰に挟んだスタンバトンを取り出して振り上げ、
ゴッ!
ボスの眉間に振り下ろした。
バリバリバリッ!!
「ぐぎゃあああっ!!」
おまけにスイッチを押して放電。
頭から全身に襲いかかる電流に、たまらずボスは悲鳴を上げる。
ゴキンッ!!
そこに、子姫を投げると同時に走り出した神崎と姫川が目前に迫り、ダブルパンチをボスの顔面に叩きこんだ。
ボスの前歯は2本折れ、白目を剥いて大の字に倒れる。
「っと」
神崎は地面に落下する前に子姫を両手で受け止める。
「ナイスキャッチ」と子姫。
「ナイス連携」と姫川。
子姫を投げる寸前、姫川は手持ちのスタンバトンを子姫の腰に挟んでから投げた。
それに気付いた子姫も姫川の意図を察し、大人しく投げられたというわけだ。
6才児といえども姫川。
末恐ろしさが感じられた。
「お、古市」
古市はボスの背後からクロスチョップする格好で立ち止まっていた。
「なにやってんだよ」
「いえっ。お気になさらず!」
活躍はできなかったがそれでもよしと開き直る古市。
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