12年前、とある大激闘がありました。
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神崎達より一歩遅れた姫川は、神崎の自転車を見つけ、遊園地が予定時刻より早く閉園していることに不審を抱いた。
入口にも人がいないことを確認したあと、神崎の自転車を押して園内に入り、神崎達がジェットコースターに乗ったのを見かけて走り寄ろうとしたところを、アヴァンに捕まってしまった。
「姫川…先輩……」
古市は痺れる体を姫川に引きずられ、姫川は空いた左腕で子姫を抱えてアヴァンの元へと戻った。
古市に抱えられていた子姫も、スタンバトンの電流で痺れさせられていた。
やってきたのは、遊園地の中心にある広場だ。
足元はアスファルトから赤レンガにかわる。
「連れてきました…」
古市と子姫を投げ捨てるようにアヴァンの目の前に放る。
「いてっ」
古市と子姫は痛みで顔をしかめる。
「古市…」
「神崎先輩! ヒルダさん!」
2人は誘拐屋に取り押さえられていた。
「オレの前だと目を合わせようとしねえんだ…。ま・あ、もう洗脳しても意味ねえけどな…。魔石を手に入れてしまえば…、もうこの時代に興味ねえし…」
アヴァンは魔石の気配をたどった。
「……こいつか」
魔石の気配は、子姫からあった。
「え?」
「教えろ。魔石をどこに隠した!!?」
アヴァンは子姫の胸倉をつかみ、足が浮くほど持ち上げた。
「…し、知らねえ…!」
「そろいもそろってソレか…!!」
いい加減苛立ったアヴァンは子姫の体を触りだす。
「やめ…っ!」
「変態が…そいつに触んじゃねええっ!!」
「!」
神崎は力任せに立ち上がり、誘拐屋達を引きずりながらアヴァンと子姫に近づいた。
それを見るアヴァンはふっと笑う。
「止めろ」
呟くように言うと、神崎の前に姫川が立ち塞がる。
「姫か…」
ゴッ!
躊躇わず横っ面を殴られた。
神崎はその場に尻餅をつく。
「神崎先輩!!」
「あははっ。親しい相手に殴られる気分はどうだ?」
アヴァンはその様を楽しんでいた。
「てめ…、がっ!」
アヴァンを睨むと、今度は腹を爪先で蹴られた。
神崎の口から血の混ざった唾液が地面に落ちる。
「姫川先輩! やめてください!!」
姫川は無表情で神崎の背中を踏みつける。
「姫川…っ」
神崎はよろめきながら立ち上がり、姫川の肩に手を置いた。
その手はあっさり振り払われ、またその頬を殴りつける。
「無・駄・だ。そいつにおまえの声は届かない…」
(いや…、届かないはずがない…!)
古市はある可能性を考えていた。
「神崎先輩、なんでもいいから姫川先輩に語りかけてください! それかショックを…!」
洗脳されていたヒルダも、ベル坊の声に反応していた。
「なんでもって…」
姫川はスタンバトンを取り出した。
あれを当てられて電撃を流されてしまえば勝負が決まってしまう。
「目ぇ覚ませ姫川っ!!」
神崎は声を上げるが、姫川は距離を詰め、スタンバトンを横に振るう。
神崎は後ろに飛んでそれをかわした。
「っく! 姫川っ!!」
姫川は耳を貸さず攻撃を繰り出し続ける。
「姫川…っ!! ~~~好きだっ!!!」
顔面目掛け振り下ろされたスタンバトンが、ピタリと止まる。
「!」
アヴァンだけでなく、誘拐屋達も目を見張った。
「止まった」
古市は呟く。
姫川から1、2歩後ろに下がり、神崎は赤面しながら両腕を広げた。
「お、おいで…っ」
普段見せないデレだけに、据え膳食らわば、というように姫川は神崎に突進し、がばぁっと抱きついた。
「~~~~っ!!」
苦しいくらいに抱きしめる。
「めっちゃ反応してる…!」
古市は驚きを通り越して呆れていた。
周りの人間は、子姫も含め口をポカンとさせている。
「ちょ…っ!!」
いきなり姫川の唇が目前に近づいてきた。
周りに人間がいることを忘れなかった神崎は、
「調子に乗んなぁああっ!!!」
ゴッ!!!
羞恥心ヘッドバッド!!
「「「「「頭突き!!!?」」」」」
「オレ様復活」
日はとっぷり暮れ、広場を照らすライトの下、鼻血を垂らしながらキメ顔をする姫川。
「わかったから鼻血拭け」
神崎の強烈な一撃で洗脳がとけたようだ。
ハンカチで鼻血を拭い、アヴァンを睨んで指さす。
「自力で洗脳とけなかったオレも悪いが…、オレをコマみてえに扱って神崎をボコボコにしやがったてめーは絶対にその倍ボコる!!」
洗脳を解かれたことに驚くアヴァンだったが、すぐに嘲笑を浮かべた。
「人間は意外と手強いな…。もーいいや、かったりぃ。おまえら、とっととあいつら殺しちまえ」
「「!!」」
ボスを含めた誘拐屋達は一斉に拳銃を構えた。
「神崎!!」
姫川は咄嗟に神崎を抱きしめて守ろうとした。
次々と2人に向けて拳銃が発砲され、古市の叫び声もかき消される。
「いい加減にしやがれぇぇ!!!」
子姫が怒鳴ると同時に、リーゼントから緑色の光が放たれた。
「!!?」
その場にいる人間は、信じられない光景を目の当たりにした。
2人に当たる寸前で、発砲された数十発の銃弾が空中で停止する。
「な…っ!?」
((魔石の力…!!?))
アヴァンと古市はほぼ同時に察した。
魔石の力なら、その在処は子姫のリーゼントにあった。
アヴァンは推測する。
こちらに来た時、この時代に一緒に移動した魔石は、車から出て来た子姫のリーゼントにうっかり入ってしまったのだと。
「だったら…!!」
早速アヴァンは子姫のリーゼントに手を突っ込んだ。
「なにすんだオッサンコラァッ!!」
ゴキンッ!!
「はうっ!!!」
リーゼントを乱されてキレた子姫は、短い足に勢いをつけてアヴァンの股間を蹴り飛ばした。
アヴァンも立派な男だ。
ソコを蹴られて激痛のあまり泡を吹くのは悪魔も人間も関係ない。
見ていた神崎、姫川、古市、誘拐屋、その他洗脳された男性陣は「うわぁ痛そう」と顔をしかめた。
着地した子姫は「ああっ、こんなに乱れたっ」と別のことを心配している。
「と…、捕えろ…」
股間を押さえながら、アヴァンはえげつない痛みで震える声で洗脳組に命令を下した。
「逃げろ!!」と神崎。
「追いかけっこか?」と子姫。
「ああ追いかけっこだ!!」と姫川。
「早く―――っ!!」と古市。
男鹿を除いた洗脳された一般人の半数が子姫を捕えようとする。
今、世界の命運は子姫に託された。
子姫は大人の手を避けながら逃げる。
アヴァンは男鹿に「足止めしておけ」と命令し、子姫を追いかけようとする。
「待てよ!! あの魔石を売りさばくのが目的なんだろ!? そしたらアンタもただじゃ済まないはずだ!!」
古市がそう声を上げると、アヴァンは肩越しに振り返り、不気味に笑った。
「済・む・さ。粉々に砕いたあと自分用に魔石の欠片を持っておく。そうすれば未来で世界が破滅してようが、こっちは過去に逃げ込めばいいだけだ。そこでまた魔石を売りさばく。一生遊べる金と時代を越える力。楽しい時間旅行で一生を過ごさせてもらう…」
身勝手な目的だ。
古市は歯を噛みしめ、未だに洗脳されたままの男鹿を睨む。
「男鹿ぁ!! てめーなにまだ操られてんだ!! ベル坊も!! こんなゲスヤローを好き勝手させんじゃねえっ!!」
「はははっ、ほざいてろ」
一笑したアヴァンは子姫を追いかける。
神崎と姫川はそれを追いかけようとするが、男鹿が立ち塞がった。
「そこどけ男鹿!!」
「止める…。オレが…止める…」
ブツブツと呟く男鹿の目は、2人を見据えていた。
「確かショックを与えればよかったんだよな!?」
「古市!! 今度はてめーが「おいで」言えや!!」
「嫌ですよっ!!」
首を横に振って嫌がる赤面古市。
男鹿はゼブルブラストを放とうと構える。
早くしなければ、なにか良い案はないか、智将・古市は頭を回転させた。
ふと、軽快な音楽が聞こえた。
遊園地の出入口に設置された時計の音だ。
毎回長針が12時をさすと流れるようになっている。
時刻は、19時。
「!!」
古市に、閃きが生まれた。
「今日は何曜日で、何時ですか!?」
わかっていてもあえて2人に言わせようとする。
それを聞いた2人は「はあ?」と首を傾げた。
それでも古市が真剣な顔をしているため、本気で聞いているのだと伝わる。
「日曜日の…」
「今、午後7時か?」
途端に、ピクリッ、と男鹿とベル坊が反応した。
それを確認した古市は、「しまった―――」と棒読みで叫び、頭を掻きながらその場でのたうちまわる。
「『ごはん君』の録画…忘れた…っ!!」
「「!!!」」
男鹿とベル坊に、ショックの稲妻が落ちた。
男鹿とベル坊にとって、毎週日曜の午後6時は『ごはん君』を見るのが日課になっている。
視聴率に関わるため、リアルタイムを絶対としているほど愛している番組だが、それよりも大事な用がある時は仕方なく録画するようにしている。
それさえ怠ってしまえば、男鹿はともかく、同じく『ごはん君』ファンであるベル坊はどうなるか。
「ビェェエエエエエエン!!!」
「ぎゃあああああっ!!」
ショックに耐えきれず放電するベル坊。
どんな子どもでも、一番楽しみにしていた番組を録画もせずに見損ねれば、癇癪を起こす。
近くにいた洗脳された一般人も巻き添えを食らった。
神崎と姫川はそうならないように距離をとって茫然とそれを眺めていた。
頃合いを見た古市が「なんてウッソー」と言うと、ベル坊は泣きやみ、口から黒煙を吐き出して立ちつくす男鹿が残った。
「男鹿の奴、死んだんじゃねえか?」と神崎。
「いやでも息はしてるっぽい」と姫川。
「私の出る幕はなかったか…」
「あ、ヒルダさん、いつお目覚めに?」
「ふむ。そこの2人が寝起きにいい気つけになるシーンをしている時に…」
抱擁シーンのことだ。
「そこからかよっ!!」
赤面でつっこむ神崎。
誘拐屋をサーベルの一振りで薙ぎ払い、ヒルダは立ったまま気絶している男鹿に近づき、
「起きろドブ!!」
ボコッ!!
「おぐっ!!」
気つけ代わりに焦げた顔を蹴飛ばした。
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