12年前、とある大激闘がありました。
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「!」
ふと、男鹿は後ろに振り返った。
「……?」
「男鹿ー、どこだー?」
「古市こそ…」
男鹿、ベル坊、古市、神崎、子姫は“鏡の迷宮”の中にいた。
四方八方鏡に囲まれ、道も複雑で、ちゃんと前を見ないと鏡とぶつかってしまう。
はぐれた男鹿達はバラバラに進んでいた。
古市の姿を近くで見かけても、それも鏡に映った姿で見分けがつかない。
男鹿はベル坊と、神崎は子姫と行動している。
「オレ達、完璧に目的忘れてねえか?」
どうして遊園地で遊ぶはめになったのか。
古市は今更なことを口にするが平然と神崎が答える。
「ここから出たら、迷子センターに呼びかけてみる。“フランスパン様ー、神崎一様がお呼びです~”ってな。盗まれた石ってのは、あいつと合流してからでもゆっくり捜しゃいいだろ」
「いや。ゆっくりできないんですけど。世界かかってますからね」
(でも妙だ…。相手が魔石ってのを持ってるなら、もうとっくの昔に浸かってるはずだよな…)
ヒルダと同じく、古市も妙だと感じていた。
「そーそー。ったく、無責任にもほどがあんだろ大魔王。自力で来いっつーんだ」
また愚痴を漏らし始める男鹿。
その時、ビシッ、とヒビが刻まれる音を聞いた。
「?」
隣の鏡を見ると、ヒビ割れしていた。
「…?」
首を傾げてそれを見つめていると、ヒビは根を張るように広がっていく。
バァン!!
途端に、男鹿の顔面目掛け、サーベルの切っ先が鏡を突き破って出現した。
反射的に顔をそらして避けた男鹿だったが、剣先は男鹿の右腕を貫き、そのまま男鹿もろとも背後の鏡を突き破る。
「男鹿!?」
「どうした!!?」
古市と神崎は何事かと声を上げる。
「ウソ…だろ…?」
「ダ…ウ…」
倒れた男鹿の上にまたがった人物に、男鹿とベル坊は目を見開いた。
「ヒルダ…!!」
壁と鏡を突き破り、男鹿を殺そうとしたのは、ヒルダだった。
「魔石を…よこせ…」
虚ろなヒルダの瞳には、アヴァンの印があった。
自分達がここに入っている間に、ヒルダが敵に襲われてしまったのだと察した男鹿は舌を打つ。
「ある意味大魔王のお出ましか…!」
男鹿が勢いよく起き上がると、ヒルダは後ろに飛ばされ、それに伴い男鹿貫いていた剣も抜けた。
その痛みに顔を歪めながら、男鹿は反撃される前に立ち上がる。
腕の傷口から流れた血が、足下に落ちた。
「ダァブッ!!」
慌てるベル坊は男鹿とヒルダを交互に見る。
「ヒルダさん!!?」
「どういうことだ!?」
駆けつけた古市と神崎も、その光景に驚きを隠せない。
ヒルダが男鹿と喧嘩するのは毎度のことだが、剣で怪我を負わせているのだ。
ただ事ではない。
「いつまでもてめーの女待たせるからだろうが!!」
神崎は、一人で待たされたヒルダが怒って男鹿に切りかかったのだと思った。
「それくらいで剣でブッ刺されてたら、軽く黒ひげ○発できるっつのっ!!」
男鹿は否定する。
「まさか…。ヒルダさん、アヴァンってヤツに…」
「ああ。見事に操られてやがる…!」
ヒルダの目が神崎と、その腕に抱いた子姫をとらえた。
「よこせ…!!」
男鹿と古市の横を通り抜け、神崎に向けて剣を振りかざす。
「神崎先輩っ!!」
「うおっ!!?」
神崎は子姫を抱きしめ、横に飛んで避ける。
的を失った剣先は神崎が立っていた後ろの鏡を貫き、粉々に砕き割った。
「…!!」
本気で殺しにかかってきたヒルダに、神崎は戦慄を覚える。
(こいつ…、本気でオレ達を…!!)
ヒルダは躊躇せずに、すぐにサーベルを神崎に向けて振り下ろそうとした。
その背後から手首をつかむのは男鹿だ。
「やめろヒルダ…!!」
「邪魔するな。人間」
操られているというのに、その声はいつものヒルダと同じく凛としていた。
「!!」
ゴッ!!
ヒルダの体から出現した黒い影が男鹿を薙ぎ払い、建物の外へと壁を突き破って吹っ飛ばした。
「「男鹿!!」」
神崎と古市は突き破られた穴から外へと脱出し、外の光景を見た2人は愕然とする。
遊園地にいた一般人に囲まれているからだ。
男鹿は半身を起こし、周りの人間を見渡していた。
「こいつらも…!」
「そう…。オレの人形共だ」
操られた一般人達は道を開け、アヴァンを通した。
「あいつ…、飛びこんできた奴だ!」
神崎はアヴァンの顔を思い出す。
「よお。当て逃げヤロウ…」
青筋を立てて引きつった笑みを浮かべるアヴァンは、顔の痛みを思い出し、顔を擦った。
目を凝らしてみると、未だに自転車の車輪の痕が見当たる。
「た・だ・で、死ねると思うなよ、人間。その前に魔石を渡してもらおう」
アヴァンは神崎に手を差し出した。
神崎は頭に「?」を浮かべる。
「魔石って…」
「とぼけるな。オレから強奪したはずだ。隠すとためにならねえぞ」
「知らねーよ! オレが盗人みたいに人聞きの悪いこと言ってんじゃねえ!」
苛立ちの表情を浮かべたアヴァンは、神崎を指さした。
「てめーから魔石の気配がするんだ。それがなによりの証拠だ。言い逃れできると思うな!!」
すると、一斉に操られた一般人が突進してきた。
「!!」
「ゼブル…ブラストォ!!」
カッ!!
辺りを包む眩しい光とともに、周りの一般人がほぼ吹き飛んだ。
手加減したため、黒焦げにならずにその場に倒れる。
「これが…、魔王の力か…!!」
男鹿の近くにいたアヴァンは、ゼブルブラストに巻き込まれないように他の一般人を盾にした。
「欲しいな…っ」
アヴァンは右手を開き、男鹿へと突進した。
ヒルダからアヴァンの術は聞かされていたので、右手のひらから視線を逸らし、
「ぐ!!」
半転し、勢いのついた回し蹴りをその腹に食らわせた。
後ろに吹っ飛んだアヴァンの体は、ベンチに激突し、ベンチは木片を散らす。
(オレの右手のことは知っているようだな…)
男鹿は地面を蹴り、アヴァンの顔面にコブシを振りおろそうとする。
だが、それは横から飛び出した黒い影に阻止された。
「っ!!」
ベル坊を抱え、地面に転がる男鹿。
その目前には、アヴァンを守るように立ち塞がるヒルダがいた。
「ヒルダ…!」
ヒルダはサーベルを男鹿の目前に突きつける。
「ヒルダさん! なにやってるんですか!! ヒルダさんが守るのはそんな奴じゃなくてベル坊でしょう!?」
古市はヒルダに呼びかけるが、ヒルダは一瞥もしない。
立ち上がったアヴァンは嘲笑を浮かべながら、服に付着した木片を払った。
「無駄無駄。オレの術にかかった奴は、オレの意のままだ。どこまで忠実か…、この場で素っ裸になる命令でも下してやろうか?」
「てめぇ…!!」
外道な発言をするアヴァンを睨む古市。
男鹿もコブシを痛いくらい握りしめた。
「ダ―――ッ!!」
「…!」
ベル坊が「目を覚ませ」というように半泣きで叫ぶと、サーベルを構えるヒルダの手が、わずかに震えた。
古市はそれを見逃さなかった。
「坊っ……ちゃま…」
洗脳されているはずのヒルダの口元からこぼれる言葉。
「!! ヒルダ…、おまえ」
「ああ、そ・う・だ。こうしよう…」
アヴァンは閃いたというように手を鳴らすと、ヒルダは自分の喉元にサーベルを突きつけた。
「「「!!?」」」
切っ先が肌に触れ、ヒルダの喉元から一筋の血が流れる。
「こいつを助けたきゃ、魔石を渡せ」
「ふ…ざけんなっ!! 知らねえっつってんだろっ!!」
神崎は怒鳴るが、アヴァンは信じない。
「最初は顔を傷つけてみようか」
「マジだって!! 持ってたら今渡してる!!」
「それともいきなり目を抉りだすか」
「やめろっっ!!!」
神崎がそう叫ぶと同時に男鹿は立ち上がり、ヒルダのサーベルに手を伸ばし、躊躇なくつかんだ。
てのひらが切れても、男鹿はしっかりとつかんだまま放さない。
ヒルダを助けるチャンスは今しかない。
「悪い。ガマンしろ」
「ダッ!!」
バチィッ!!
ベル坊はヒルダにスタンガンほどの電撃を食らわせた。
気を失い、崩れるヒルダを男鹿は抱きとめ、その場に寝かせる。
「てめーはこの1000倍食らわす」
アヴァンを睨み、男鹿はそう宣言して駆けだし、距離を詰める。
「チッ」
アヴァンは右手をかざすが、男鹿がそれを見るはずもない。
直線に走らず、右左と反復横とびするように移動し、右手の印と目を合わせないように避ける。
一気に間近まで迫り、アヴァンの右手首をつかんで術を封じた。
「ひ!!」
「とっとと監獄に帰れっ!!」
男鹿がコブシを振り上げると、ゼブルスペルが光った。
誰もが勝利を確信した時だ。
怯えた表情を浮かべたはずのアヴァンの顔が豹変する。
「2度と、ご・め・ん・だ」
不気味な笑みを浮かべ、舌を出した。
「!!?」
その舌にも、ひし形の目の刺青が刻まれていた。
刺青は右手だけとばかりに油断した男鹿とベル坊は、それと目を合わせてしまう。
「男鹿!!」
その場に膝をつく男鹿に、古市は叫んだ。
「ぎゃはははっ!! まさか切り札使わせるとは…! 監獄で最後かと思ったわ…」
誰もが右手だけしか術が使用できないと思っていた。
アヴァンもあくまで奥の手として人前で使用するのを極力避けていた。
だから、監獄でも右手だけが封じられ、舌の刺青は脱走の際のみ使用したのだ。
「さて…。あいつらを捕まえてもらおうか…」
「はい…」
ゆらりと立ち上がった男鹿は、古市と神崎に振り返る。
フリであることを期待した古市だったが、男鹿とベル坊もその目に洗脳されている印を宿していた。
古市と神崎の顔が真っ青になる。
目の前の男は、石矢魔最強の男だ。
人間との喧嘩の際はベル坊の魔力にはあまり頼らないが、今回は話が違う。
腰だめに構え、右手の甲の蠅王紋が光ると、一気にその魔力を放った。
「ゼブル…」
「神崎先輩!! 避けてください!! あいつ本気です!!」
古市は神崎に駆け寄り、その肩をつかんで地面に伏せる。
「ブラスト!!」
ゴッ!!!
「「ギャ―――ッ!!」」
2人の真上を砲撃のような雷が通過し、遠くにあるバイキングを破壊した。
「これもアトラクションか!?」
「だったらよかったなっ!!」
目を輝かせる子姫につっこむ神崎。
「先輩! 逃げましょう!!」
「逃げるって…」
プライドが人一倍高い神崎は喧嘩に関してはあまり敵前逃亡したくはなかったのだが、
「「どあああっ!!」」
ゴガァッ!!
ジャンプした男鹿がこちらに迫り、神崎と古市は飛びこむように避け、2人が立っていた地面に男鹿のパンチがめり込み、小さな隕石が衝突したかのように抉れた。
「古市っ、逃げるぞ!!」
「だからそう言って…、速っ!?」
古市が神崎に顔を向けると、神崎は子姫を小脇に抱えて爆走していた。
慌ててそれを追いかけて横に並ぶ古市。
「たぶんショックを与えれば元に戻ると思うんですけど!」
「与えられるか!! あんなの未来からの殺人ロボット相手にしてるようなもんだぞ!!」
後ろからゼブルブラストが無言で容赦なく放たれる。
「ぎゃあああっ!!」
今の男鹿が通る道は、竜巻が通過するように荒廃した。
建物の中に隠れようにも、男鹿ならすぐに更地にしてしまうだろう。
他にも洗脳された一般人がいるため、うかつに身を潜めることもできない。
「神崎先輩っ!!」
「あ!?」
はっと振り返れば、男鹿がすぐ後ろに迫っていた。
悪魔顔より無表情の方が何倍も迫力がある。
「っ!!」
捕まる、と咄嗟の判断で神崎は古市に向かって子姫を投げ渡した。
「うわ!?」
「っと!」
古市が両腕でキャッチすると同時に、神崎は男鹿に押し倒されてしまう。
「走れ古市ぃ―――っ!!!」
もう逃げられないと悟った神崎は叫ぶ。
「神崎先輩…。先輩の死は無駄にしませんよ―――っ!!」
目に涙を浮かべた古市は、子姫を抱き抱えて走る。
「勝手に殺すな―――っ!!」
シャレにならないことを叫んだ古市に神崎は怒鳴る。
やがてアヴァンも神崎に追いついた。
「手こずったが…、ここまでだ。さっさと…。!?」
神崎に近づいたアヴァンは違和感を感じた。
先程は感じていた魔石の気配が消えている。
「てめぇ…、魔石をどこに隠した!?」
神崎の胸倉をつかんで引っ張ったアヴァンは、唾を飛ばしながら声を上げた。
「だから…、知らねえって…」
「―――!! まさか…!!」
顔を上げたアヴァンは、古市達が逃げた方向を見据える。
古市は洗脳された一般人を避けながら出入口を目指していた。
遊園地を出れば助けはある。
過去の人物にあまり関わってはいけないことはわかっているがそうも言っていられない。
ヒルダも、男鹿も、神崎も捕まってしまった。
「もどれっ!! かんざきが…!!」
「いたっ! ちょっ、暴れないでっ!」
子姫は神崎のところへ戻ろうと古市の腕の中で暴れていた。
髪を引っ張ったり、頬をつねったり、鼻フックしたり。
神崎に託された以上、今は子姫を安全な場所に移すのが先決だ。
「!」
途中、古市はあるものを見つけた。
遊園地の入口に置いたはずの神崎の自転車だ。
「どうしてこんなところに…」
これを使えば逃げることができるかもしれない。
そう考えた古市はその自転車を起こそうと手を伸ばした。
「古市!」
その時、聞き覚えのある声がかかった。
「!! えと…、あ、イケ…、姫川先輩!!」
声の聞こえた方向に顔を向けると、園内の案内板の陰からこちらを窺う姫川がいた。
リーゼントを下ろしているため、瞬時に姫川と判別できず、危うく「イケ川先輩」と言うところだった。
味方はまだいた。
ホッとした古市は姫川に駆け寄る。
安心のあまり泣きつきそうになった。
「姫川先輩! ご無事で! 男鹿と神崎さんが…!!」
「ああ。知ってる」
「え」
腹になにかを当てられ、見下ろすと、スタンバトンの先端が腹に触れていた。
バチィッ!!
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